竜の村に来ました、村はどこ?
よろしくお願い致します!
感想を一言、村はどこ?
そうなのです。ティーナさんは、村に着きましたと言いました。
なのに、僕は何故か断崖絶壁を見上げています…。
断崖絶壁です、大切なことなので二度言います!
いわゆる断層、高さ200メートルは超えます! 10階建のビル超えてます! 幅に至っては1キロ近い?
断崖絶壁には、ところどころ穴が開いてます。
穴蔵式住居ですね! 村ですか? 巣ですか?
「まずは村長の所に案内しますね」
何事もないように、笑顔でティーナが言うと、ロッククライミングをはじめた。
10階建てのビル以上ですよ!
マジこれ登るんですか!
村長の家はやはり一番上、垂直に切り立った崖は魔物すら寄せ付け無いのは分かるが…。
けど、不便過ぎるだろうが!
僕も、身体能力が向上してるとは言え、ロッククライミングなんてした事が無い!
三回ほど真下までズリ落ちだが、なんとか村長の家に着いた…。
「リューイ殿よ、ティーナから話は聞きました」
村長が現れた。
ヨボヨボの髭の長い老人をイメージしていたけど、ロマンスグレーの渋いおじさまだったよ!
名前はリプトンさん、紅茶じゃないよ!
三回落ちている間に事情は伝わったらしい。
そりゃ三回も落ちてたら、出会いから今までの話しててもお釣りが来るだろう!
ティーナがお茶を持って来た。
二人の前に差し出す。
事情を話した上にお茶の用意まで出来ていたとは…。
「では、改めて申し上げます。
僕はリューイ、異世界の日本と言う国から来ました。
目的はこの村での滞在です。
あと、以前いた迷い人について話が聞きたいと思います」
そう言うと村長は言った。
「滞在は構わない、ティーナの家で良いですか?
迷い人の件はティーナが案内します。
正直言ってティーナ以外は詳しく知らんのです!」
そう言うと村長はお茶を一口すすった。
「はい、構いません。迷い人についてはティーナに詳しく聞きましょう」
僕もお茶をすすった。
さすがに紅茶じゃないか、ヨモギ茶か?懐かしい、おばあちゃんに飲ませてもらったっけ!おばあちゃんは僕が小さい頃に亡くなった…。
おばあちゃんも天国にいるといいけどね!
その後も、村長と色々と談笑した。
村長の人柄で、竜人族が気のいい種族だと言うのも頷けた。
「あと、できればでよろしいのですが、あなた様が作る料理と言うものを、皆に試す機会をお願いできますでか?」
料理! 最近トラウマです。
人(竜人族)が信じられません!
俺と言う個人なのか?
料理と言う欲なのか?
どちらがお望みですか?
分かっていますよ、料理ですね!
「…分かりました、出来るだけのことはしましょう。
ただし、食材はお願いしたいのですが?」
そう言うと、村長は満面の笑みを浮かべて言った。
「そちらは当然用意しましょう、他に必要なものも。
さて、今日はもう遅い、ゆっくりお休みになって下さい。
明日、日が真上に差し掛かる頃には食材は用意出来ると思います。
急かせませんのでリューイ殿の思うがままになさって下さい」
むっちゃせかしとるやん!
まぁ、先ずは休んでから考えよう…、何を作るか?
「では、失礼します」
そう言うと、村長の前を失礼してティーナの家に向かった。よりによって、村長さんの家とは真逆とは!
端から端まで移動して、ロッククライミング! 二度ほど落ちました…。
ティーナの家、立派な穴蔵です…。
入り口を入るとリビングらしきものに出た。
さっきの村長の家もそうだが、天井は高い。
それと空間も広い、20畳くらいだろうか。
中央に囲炉裏? みたいなものがあり、その奥には扉が三つほど見えた。
部屋の印象はカマクラをデカくした感じかな?
左側には台所のようなものがあり、野菜などが置かれたり、干し肉がぶら下がってたりしていた。
家具らしきものは全て石造りだ!
囲炉裏らしきものも、その周りにあるイスも石で出来ている。
「トイレはどこ?」
ティーナに聞くと、首をひねっていた。
うん、トイレの意味が伝わらなかったらしい、文化の違いだね。
排泄物の処理をどうしているか聞くと、外に小川が流れており、そこで用を足すんだって!
さすがに飲料水もそこからなので、場所は決まっているらしい。
こんな面倒を毎回? ロッククライミングしながら? ないわ〜!
ティーナがイスをすすめた。
座ると冷たい、石だから。
ティーナは手馴れたように、囲炉裏に枯れ木を置き、魔法で火をつけた。
煙は天井に登っていくが、戻ってはこない…。
どこかに換気用の穴があるのだろう。
二人で囲炉裏を囲む、イスに座っているのがシュールだね…。
僕がティーナにおじいさんのことを聞くと、ポツポツと話し出した。
「半年ほど前までは、ここは私と迷い人のおじいちゃんとで暮らしていました…。
おじいちゃんは、私のことを孫だと思って可愛がってくれたんです。
言葉は片言でしたが、村の人達とも仲良くしていました。
目的はよくわかりませんが、よく旅に出かけてました。
一年ほど前に、竜人族の故郷に旅立ちちましたが、帰って来てから急に弱り始めたんです…。
それでも、死ぬ間際まで必死になって何かを研究してました。
そんなおじいちゃんも半年前に亡くなり、この部屋で誰かと一緒になるのは久しぶりですね……」
ティーナは嬉しいような、ちょっと悲しいような笑顔を僕に向けた。
「おじいさんは何を研究してたんだい?」
「はい、石の箱の中で、植物の種を腐らせていました。
片言なので聞き取りづらくて、多分メソとか言っててたような…? それが竜人族の未来を救うとも、意味は良く分からなかったですね…」
思い当たるふしはあるなぁ!
「それ、見せてもらっていいかな?」
「はい、こちらへどうぞ」
そう言うとティーナはおじいさんの部屋の中に招き入れた。
ティーナは手に魔法で光を灯し(後で魔法の事も詳しく聞かないと!)、石の箱を指差した。
僕は、石の箱の蓋を開けて中を覗いた。
うん、茶色い色と匂いは、紛れも無くミソだ。
「それについては詳しい事は聞かされていません。
おじいちゃんは、詳しい事は手記に残したと言って亡くなりました。手記は信用できる迷い人に渡すようにと! そして、たまに混ぜるよう言われていましたので、そのようにしてましたが…」
手記の在り処をティーナに聞くと、石の机に置いてある紙の束を差し出した。
囲炉裏に戻り、僕は手記を読んだ…。
そう、そこには味噌造りへの挑戦と苦悩、そして諦めない一人の男の戦いが書かれていた。
彼は竜人族の食文化を嘆いていた…。
なぜ、龍人族が作る料理はマズいのかと! しかし、自分は言語学者であり、料理人ではない…。
そして一つの結論に至る。
塩しか無いのが悪いのだ! 味噌を作ればみんなが救われる!と…。
彼は味噌造りに取り組んだ。
大豆モドキは比較的簡単に手に入った。迷いの森に自生していた。
塩もある。
しかし、麹菌が無いのだ!
麹菌を作るには穀物(米が望ましい)が必要だ。
彼は転生前は言語学者で某有名大学の教授だったが、実家は酒蔵を営んでいた。
味噌造りの知識は十分にある。無いのは麹菌を繁殖するに適した穀物だった。
彼は旅に出た。
先ずは迷い人の町へ!
しかしそこには日本人で味噌の知識を持つ者はいなかった。
食文化も西洋料理の文化はあるもの、求めるものは無かった…。
「まずはその文化を取り込もうよ! これだから学者肌は!」
コンソメやソースで充分に食事は改善出来るだろう、と僕はツッコミを入れた。
亜人の町へも行った…。
食文化は竜人族のそれと変わらない。
魔人族の町へも行ったが、求めるものは見当たらない。
全ての種族の食文化を調べた。
らしいもので実験もしてみたが、どれからも麹菌は生まれなかった。
彼は思った…。
見落としは無いか?
まだ試して無い事は無いか?
自分に思い込みは無いか?
そうして彼はある結論にたどり着いた…。
そうだ、まだ竜人族の失った里には行って無い!
思い立つと、彼は旅立った。
竜人族の里へ至る道のりは厳しかった…。
龍人族ですら超えられぬライオネ山脈、毒虫が蠢く渓谷、何度死を覚悟したか…。
ただ、麹菌のため!
命からがら故郷の地にたどり着くと、彼は驚愕した。
そこには黄金に輝く稲畑(田んぼでは無い、自生していた)が永遠に広がっていた。
彼は稲を手に取り、籾を調べた。
形は米に非常に近い、しかし大きさが知っているものの10倍以上ある。これで麹菌は生まれるのか?
試しに彼はこの米モドキを食べてみた。
食感と味は地球の米だった。
この米モドキをベースに麹菌の発酵準備をした。
村から竜人族の故郷まで1カ月の道のりだった。
帰りも同じくらいと考えてよいだろう、持てるだけの稲を持って彼は村に戻っていった。
帰る途中に遺跡を見つけたが、先ずは麹菌が先だ!
村に戻った時には麹菌は出来ていた…、出来ていたんだ!
そして彼は一心不乱に味噌造りを続けた。
しかし、彼の長い麹菌探しの旅は、彼の体を蝕んでいたのだった…。
彼は最後に
「私は味噌の完成を見ることは無いだろう。
どうかこの手記を見たものよ、味噌の完成を見届けて欲しい…。
そしてもし未完成だったら、私の研究を引き継いで味噌を完成させて欲しい。
味噌は世界を変える、味噌を頼む!」
と手記を締めくくっていた、なぜ日本語で?
僕が読まなかったら誰も気づかなかったぞ! 迷い人日本人限定かっ!
言語学者がなぜそれに気づかない! そもそも龍人族に味噌作りを任せたら良かったんじゃね?
まぁ、故人を責めても仕方ないか…。
それにしても米モドキか、調べる価値はある。
最近肉とパンばかりだし、無性に米が食いたい…。
読み終えて、ティーナに微笑む…。
「おじいさんは偉業を残されたね。
明日の料理には、おじいさんの偉業も使おうかな?
先ずはどのくらいのレベルか試そう! 味噌を使って僕らも夕食にしようか?」
「はいっ!」
ティーナは眩し過ぎる笑顔を向けた。
もう料理に嫉妬するのは諦めよう、敵うわけがないのだから……。
ありがとうございます!