安全、何それ美味しいの?
よろしくお願い致します。
目を覚ますと、森の中にいた。木漏れ日が眩しい…。
「そうか、別の世界に飛ばされてたんだっけ…」
Tシャツ姿だが、寒いとは感じない。日本の初夏を感じさせる。
気を取り直して、自分を確認する。変わった所は無い。手で確認しても、いつもと同じ顔の感触…。
身長もそこそこあるし、至って健康(そう言えば女神も言ってたっけ)だけど、1つだけコンプレックスがある。それは髪が白く、肌も白いんだ…。
生まれつき、僕は他人より色素が少ない。いわゆる「アルビノ(先天性白皮症)」って言うヤツだね!
それが何かに影響する訳じゃない。ただ、女の子だったら「神秘的!」ともてはやされるだろうが、これが男だと、気味悪がられるだけだよね!
これは本当に、苦労した…。染めたの、脱色したのと、何度周りから注意されるし、このせいでよく絡まれました!
前髪を指でつまむと白色だった。やっぱり、この世界でも嫌われるのかなぁ…。
周りを見渡すと、高い樹々に囲まれていて、ここがどんな場所かも分からない。 とはいえ、このまま闇雲にうろつくのも心配だし…。
とりあえず、リンネに渡された麻袋を開けてみた…。
フードコートと肩掛けバッグ、バッグには何か入っている。後はウエストポーチとナタ?
いわゆる鉈が入っていた。木こりじゃ無いからね!
とはいえ、初夏の気候とはいえ、知らない森の中だし、いつまでもTシャツとジーンズというわけにもいかない。
フードコートを羽織ってみた。暑くなるかと思いきや、さっきより涼しい?
次に、ウエストポーチとナタ、まずはナタだ。50センチくらいの長さで、持ち手は片手くらい。
一応ベルト通しの穴もある。けどベルト無い、と思っていたらウエストポーチに通せそうだ!
何が起きるかわからない、武器らしい物はナタだけ、これを調べて見るか。
「なんじゃこりゃ!」
ナタを鞘から引き抜いてみると、鞘が20センチくらいしかないはずのに、出てくる出てくる、長さ1メートルくらいの長さのナタになった! 物理法則は?
「これは、チート?」
ナタでこれだ、色々調べて見る必要がありそうだな!
次にウエストポーチだ! 白色で半月形、ファスナーを開いて見ると、そこには宇宙が広がっていた…。
「ドラ○もんの腹のヤツ?」
そう、幼稚園児からお年寄りまで知らない人がいないあの猫型ロボット、その腹についているヤツか!
「まぁ、あの女神からもらったものだし、これもありか…」
遠く見つめる…。 ただ、ただ、現実逃避したかった…。
「そうだ、肩掛けバックあった。あれは重さもあったし、きっと普通だろう」
そう言って、そう誰もいないのに独り言をブツブツとつぶやく、痛い自分がいた。
「まずは開けてみよう、1つくらいはまともなのがあるはず!」
そう思って、僕はバックを開けた。
「今度は、ラピ○タか!」
中には、ランタン、ナイフ、目玉焼きが乗ったパンがご丁寧に透明な袋に入っていた。
唯一ラ○ュタらしくないのは、透明なペットボトルに入った水が輝いていた。ラピュ○にペットボトル? そこは水筒では?。
「女神はオタクか?
いや、ドラさんやラピぐらいは幼稚園レベル、このくらいはオタクと判断するには早いだろう…」
そういえば、興奮して熱くなってきた。フードコート脱ごう。
その時、世界は止まった…。
フードコートの裏地にはドクロマークが刻んであった。
そうだ、麦わらでは無い、あれだ、リアルドクロマークだ!
いわゆるハーロックだ! なぜか裏返すとキャプテンなコートになる、リバーシブルだ!
「昭和か!」
すいません、オタクだった時期がありました…。
疲れた、誰もいない森の中で、一人ツッコミは疲れた……。
そういえば喉も渇いたし、ラピュ○バッグに入っていた水を飲もう。
と、ペットボトルを取り出して水を飲んだ。
「冷たくて美味しい!」
ようやくほっとした、ようやくほっとした? なぜ? なんでバックの中にあった水が冷たい?
よく見ると、ペットボトルの水は元の量に戻っていた。
「なぜだ…?」
かなりの量飲んだはずなのに、ペットボトルは新品のように水を蓄えていた。
「誰か説明してくれ……」
ツッコむのに疲れました…。
「ようやく語りかけてくれましたね! 」
どこからか声が聞こえてきた。
「お初にお目にかかります、私はナビゲーターと申します。ナビなり、ナビちゃんなり、貴方色に染めてあげるなり、お好きにお呼び下さい」
頭の中で、男性と思われる声が響く…。
そういえば、リンネがナビゲーター(案内人)を付けてくれると言ってっけ?
「ではナビ、さっそくこのナタ…」
ナビに話しかけると、
「その前にご報告致します。現在あなたはグール(屍食鬼)8匹とグーウルフ(屍食狼)3匹に囲まれています。速やかな対処が必要と進言します」
そう言うと、周りの茂みが激しく揺れた。
「なんですとぉ〜!」
急いでナタを取り出すと、周囲を見渡した。その瞬間、右側から何かが飛び出した!
「狼か!」
青毛の狼のようなものが飛び出してきた。これがグーウルフらしい…。
ナタでグーウルフの噛みつきを防ぎ、その腹に蹴りを入れた、グーウルフは「キャイーン」と吹き飛んで行った。
「それはナタと言う名称ではありません、オーガソード (鬼切包丁)と申します。鬼に関しては…」
聞いてる暇は無い、次から次へと魔物が襲ってくる。
青い人形のグールは棍棒のようなもので襲い来る、グーウルフは茂みから飛び掛かって来る!
ナタ?オーガソード?
鬼切包丁? 何でもいい、ナタでグールは叩き潰し、グーウルフは腹をフルスイングして吹き飛ばす!
「残るはグーウルフ2匹とグール1匹か!」
なぜか体が軽い、息も乱れない、体力もまだある。こんなに俺って強かったっけ?
ふと疑問に思ったので聞いてみた。転移ものと言えば定番だよね!
「ナビさん?この世界にはLVアップなんて概念はあるのかな?」
そう言うと、ナビさんは残念そうに答えた。
「この世界にその概念はあります。但し、ご主人様には適用されません。
なぜならご主人様の世界にはレベルの概念がないからです。」
チートっぽい装備はあるのに、本人にはチート適用外かよ!
ガッカリしているヒマは無い、まだ3匹いるんだ!
「しかし、身体能力の成長はご主人様でも可能です。
ただし、成長後筋肉に痛みが走ったり、関節にきしみが走ったりしますが」
それは普通の成長期だろうが〜!
心の中で血の涙と共に叫ぶと、残り3匹に向かって行った!
なんとか全ての魔物を倒した…。
それにしてもおかしい。運動神経は悪くないし、多少は武道を習った経験はあるが、こんなに動けるはずがない…。
「ご主人様、それはフィジカルブーストの力ですよ。ご主人様の力を元々の3倍にまで引き上げてくれます」
ナビさんが説明してくれた。そう言えば、これもリンネが言ってたっけ!
「それって倍率が変わったり、何らかの条件で成長したりとかって? 」
期待を込めて、ナビさんに聞いてみた。
「それ今言えないすね〜、リンネ様から口止めされてるっスから」
おい、口調変わってるよ。まぁ、否定では無いから可能性はあるのか?
「まぁ、それは置いといて、色々教えてもらっていいか?」
そう言うと、ナビさんは明るく話してくれた!
「自分OJT派なんで、使ったものしか説明しないっスよ!」
まじ、口調変わってきてるっス!
その後も、ド○エもんのポケットを聞こうとしたらグール12匹、○ピュタを聞こうとしたらグーウルフが群れでやって来た。
フードコートのドクロマークの訳を聞こうとしたら、巨大蜘蛛の群れが頭上から襲って来たりした!
「もしかして、わざと? 魔物呼んでない?」
あまりの魔物の群れに襲われて、さすがに偶然とは思えない。
「いえ、そんな機能はございません!
ただ、場所が悪すぎます。具申いたしますが、この場を移動することを申請いたします」
確かに、襲われ過ぎて忘れてたが、場所は移動した方が良いね。
「どこに行けばいいと思う?」
そうナビに聞いてみた。
「ここから南西に向かえば、川沿いに出ます。そちらに向かうことをお勧めします」
ナビ言われるがまま南西に向かった。
南西に走りながらも、次々と魔物に襲われた…。
なぜこうなった? リンネは安全な場所に送ると言っていたんじゃなかったか?
それとも、この世界でこれは普通なのか?
「ナビさん、この場所ってこの世界の中で安全な方なんですか?」
そう言うと、ナビさんは淡々と話した。
「この場所は、この世界でも相当危険な部類に当たります。
ただ、一般市民は確実にお亡くなりになるレベルですが、ご主人様ならなんとかなるかもしれないし、ならないかもしれません!
ご安心下さい。ここでどれだけ魔物を倒しても、レベルも身に付かなければ、チートな能力も身に付きません。身体能力は鍛え方次第では上がりますがね」
ありがたい、ありがたい情報もらえた。どんだけ魔物を倒しても筋トレぐらいの恩恵しかない訳だ……。
川沿いに出たら、速攻で安全な場所を探そう!
「川沿いに行けば安全性はどのくらいだろうか?」
「周囲の魔物の気配を考えると、少なくとも20分は安全に休憩できるかと思います」
20分って、でもラピ◯タパンを食べるくらいはできるかな? とにかく動きっぱなしでお腹が空いた!
「わかった、とにかく向かおう」
まずは腹ごしらえだ、さすがに空腹ではメンタルが持たない。
魔物を振り切り、川沿いに出て、石の上に腰掛けた。
川とは言え、水質が不安なのでペットボトルの水を飲む。
人心地ついた。腹も減っているので、ラピ○タパンを袋から取り出してかぶりついた…。
「グッ…、噛めん!」
周囲に響く甲高い音、目の前の柔らかそうなラピ○タパンは傷一つ付いていない!
「あれか、敵か、リンネは敵か、敵認定か、敵ならば殲滅せねばなるまい!」
腹の底からドス暗いオーラが立ち上がる、何もかも消滅したい気分だ!
食は味方、それを奪うものは何人も許されない!
「ご主人様、それは解凍しないと食べられませんよ」
えっ? ナビさんなんですか?
「それはとても便利なんですよ、手に持って「解凍」と言ってみてください」
手に持って「解凍」と言ってみた。するとラピ○タパンが急に柔らかくなった、そしてそれを口に含んでみた。
「甘い、うまい、優しくて心に染みる…」
そう、うまいのだ…。
心も体も癒されるように、もちろん腹ペコなのもあるが、疲れた体に染み渡る。
すいませんリンネ様、疑ったこと、心より反省します。
ありがとうございます!