プロローグ
読んで頂き、ありがとうございます。
一話は震災の話が重いので、苦手な方は二話目からお進み下さい。
よろしくお願い致します。
僕の名前は荒時龍司、高校2年生。
夏休みに入って、家族と一緒に名古屋のレゴランドに来ていた。
LEGOに囲まれるはずだったのに、僕は怖いお兄さんたちに囲まれています!
「龍司! どこ行くの、待ちなさい!」
母さんが呼びかけるが、さすがにアトラクションを見てまわるのには飽きた…。
「大丈夫、11時半には約束したレストランに居るから、そこで集合ね!」
妹は何か言ってたが、両親が面倒見るだろう!
そして、家族から離れてレゴランドを楽しんでいた…。
ウチは飲食店を経営しているので、両親は中々家に居ない。なので、もっぱら家の事と妹の世話は僕がやってきた。
「今日ぐらいはいいだろう!」
そう思って、と言うよりは両親も妹とのコミュニケーションを取る時間が必要だろ! と思って抜け出した…。
まぁ、妹は僕にべったり過ぎて、もう少し自立して欲しいんだが…。
そんな事を考えて歩いていたら、行く先で女の子の泣き声が聞こえた。
見ると、怖いお兄さん達に囲まれながら、おばあさんが女の子をかばって、必死になって謝っている…。
「すいません、すいません!」
必死になって謝るおばあさん、詰め寄る怖いお兄さん達!
「このガキ、俺が大事にしてるジーンズを汚しやがって!」
震えながらアイスを片手に、おばあさんに庇われている幼稚園児くらいの女の子。
どうやら怖いお兄さんの中でも、リーダー格の兄さんのジーンズにアイスがべっちょりです!
「これはなぁ、年代物で40万するんや! けど、こんなシミついたら、もう着られへんなぁ! 弁償してもらおうか!」
おばあさんに「おらおら、有り金全部出せや!」と、迫る取り巻きの怖いお兄さんたち…。
「すいません、すいません…」
謝るおばあさんと、となりで泣きだす女の子…。
つい、
「そんなのクリーニングで取れるだろう…」
なんて、口走っちゃいました…。
周りの人達は、その一言で離れて行きました…、モーゼの十戒かっ!
「えぇ度胸しとるのぉ…」
僕の周りに、お兄さん達が詰め寄ります…。
その隙に、おばあさんと女の子が逃げてくれたのは、せめてもの救いです!
その後に、レゴランド駐在の警備員さん達が駆けつけてくれました。
警備員を見た怖いお兄さん達は、さっさと逃げ出しました。
そこに残ったのは、見るも無残な…、ボロ雑巾と化した僕だけでした…。
後で聞いた話ですが、警備員を呼んでくれたのはあのおばあさんとお孫さんだったとの事!
周りのやつ、少しは気を使え!
警備員に簡単に事情を聞かれ、その後救護室にドナドナされて行きました。
ふいに、僕の耳にアナウンスが聞こえる…。
「荒時竜司君と言う名の男の子が迷子になっております、見つけた方は案内所までお連れください」
このタイミングでウチのヤツらは! 僕は17歳です…。
レゴランドの救護室で、軽い手当てと詳しい事情聴取を僕は受けました。
その後、近くの病院で精密検査(顔を殴られているので念のため)をすると言われ、救急車に乗せられ、またもやドナドナです!
両親と妹には、今アナウンスを流して探しているとの話で、見つけ次第病院へ案内しますと救護室のお姉さんが説明してくれました…。
10分くらい救急車に乗っていたかな、近くの大きな病院に着きました。
三階建ての総合病院に運ばれ、その三階にある診療室で診察待ちです…。
「もう、大丈夫なのに…」
祖父が道場の師範で、子供の頃から鍛えられているから、お兄さん達が殴ってきても、深刻なダメージにはならない。ただ、殴られたのは事実だから、側から見たらひどい怪我に見える、心配されてもおかしくないけどね…。
「また、「大丈夫ですよ…」で返されるんだろうな…」
そう思って、医師がくるのを待とうとしてイスに座った……。
その時、軽い浮遊感と共に机の上にあったペンが床に転がって落ちた。その後……!
「ズドーン」という大きな音。
大きな揺れが起き、その揺れで机の下に転がり込んだ。
◯海トラフ沖地震。近い将来に必ず起きると言われてる大地震が、この瞬間に起きた…。
マグニチュードは7以上だろうと言われ、発生したら何百万人、いやそれ以上もの被災者を生み出すのでは?と言われていた…。
凄まじい衝撃、重く響く音、僕は机の下で目をつむり耳を閉じてじっと耐えていた…。
ようやく揺れが収まって、机の下から這い出てみると、何故か天井には青空が広がっていた。
「青空?」
呆然としていたのはどれぐらいだろう?
部屋の中は、天井が落ちてきて瓦礫の山だ! 潜り込んでいた机の上にもコンクリートの瓦礫がのしかかっている。 よく潰れなかったものだ…。
「とにかく安全な場所? どこにある?」
そう思って、廊下に出てみると、外付けの非常階段が見えた…。
非常階段に出ると、改めて今起きた事を、強制的に理解させられた……。
一部の家屋はペシャンコに潰れている…。
ちょっと離れた場所から、水が吹き上がっている、多分水道が断絶したんだろう…。
少し見ていると、ビルや家から人が出てき始めた…。
この病院は耐震に弱いのだろう、見る限り年季が入っているようだし…。
「逃げよう…。」
そう思って、非常階段をおりようとした…。
ふと、階段の途中で、視界に動くものを捉えた。
一本に続く道路の先から一台の車がこちらに向かってちている。
黒いワンボックス、ふと何か見覚えを感じた…。
「うちの車か?」
ボロボロの路面を、ノロノロと走る黒いワンボックスカーが近づいて来る…。
近づいてくるとフロントガラスの中が見えてきた。
運転席には父さん、助手席には母さん、その間から妹の顔が見える。
「ああ、迎えに来てくれたんだ…。」
肩から力が抜けていった。安心感からか、何故か笑いがこみ上げてきた。
「あははっ、おーい、父さん、母さん」
非常階段の上から大きく手を振ると、車の窓を開けて笑顔で手を振る両親が見えた。
「あぁ、やっと会える!」
その時、大きな地響きが聞こえた!
両親の乗るワンボックスの遥か後ろを見ると、大きな土の壁が見えた。
そう、土の壁だ、それがどんどんこちらで迫ってくる。
「あれは何だ?」
明らかに土色の壁としか見えないものがこちらに向かってくる、それもすごい速さだ。
土色の壁が近づいてきて初めて気づいた。
それは家を飲み込み、ビルを飲み込み、車を飲み込み、人を飲み込んでいった…。
「津波だ、、、」
そう、津波は青くない……。
全てを飲み込むから土色なんだ…!
刻一刻と津波は近づいて来る…。
「逃げて父さん!、津波が来る」
僕が非常階段から大きくジェスチャーを送ると、父が車を止めて、窓から後ろを振り返った。
そこには迫りくる土色の壁がさっきより大きく迫っていた。
「僕の事はいいからみんな早く逃げて!」
父はワンボックスを前進させた、車の中で何か話している様子だった…。
非常階段の下でワンボックスが停車した…。
ワンボックスの窓を開けて、父さんが叫ぶ!
「龍司、来い! 一緒に逃げるぞ! 」
その瞬間、無情にも津波が僕らを襲った……。
どれだけ時間が経ったのだろう、僕は意識を取り戻した。
津波に襲われたのに体は濡れていなかった。
そう、非常階段は3階にあった。津波の衝撃で意識を失ったものの、津波は3階の高さには来なかったのだ…。
「父さん達はっ…?」
立ち上がり、周りを見渡してみると、さっきより視界が広い。
そう、津波はすべてを持っていってしまった。
家はその姿がなく、ビルは1階部分が空洞になっていた。
人の姿は見られず静寂だけが漂っている。
そう、地震と津波のダメージで全てが持っていかれたのだ。
ただ、あるのは、青臭いにおいと太陽の光だけだった。
僕は呆然としていた…。
さっきまで、目の前に家族がいたんだ…。
それが、一瞬で津波にさらわれた…。
「津波にさらわれたって、何とか生きているかもしれない!」
無事では無いかもしれない….!
でも、生きていれば、何か助けられるかもしれない…。
「家族を探さなきゃ!」
家族の顔が僕の心を埋め尽くした。
津波が来る前の家族の微笑み、優しかった父と母、かなりブラコンだけど、いつも笑顔が絶えない妹、死んでいるとは思えない、いや死んでいるはずがない。
「早く、探さなくては!」
僕はそう思って、立ち上がった…!
周りを見渡すと、ビルを除くと残骸しかない。
津波に持ってかれたと考えていいだろう…。
だとすると津波が引いた方を目指すか、東日本震災の時も、津波で車を持ってかれたという話を聞いたのを覚えている…。
「うん、津波が引いた方に向かおう…。 津波は真っ直ぐ引くはずだから…」
津波にさらわれた方向に向かって歩き出す…。
似たような黒いワンボックスを何度覗き込んだことだろうか、 どれだけ歩いたことだろうか…。
意識が朦朧としてきた頃、また黒いワンボックスが見えてきた。
どれだけ繰り返しただろう、もう、反射的に覗く、これはもう作業に近い…。
「父さん、母さん、真穂!」
ようやく見つけた、ようやく出会えた、なのになぜ、僕は悲しいんだ!
そう、ワンボックスは潰されて、その中で両親と妹が抱き合って死んでいた…。
僕は、ワンボックスの前でひざを落とした…。
「ははっ、疲れた…、僕も死なせてくれ…。」
夕陽が海に沈んでいく…。そう、それは、たった、
7時間の出来事だった…。
明日からも投稿します。
一話はエグいですがそれ以降は普通だと思います。
よろしくお願い致します。