異次元世界からの客人
「ああ、暇だ~。昼時だってのに馴染みの客すら来やしねえ。誰か来んかね~」
その瞬間、ある惑星の地方都市の寂れた商店街の一角にある食堂を突如光が覆った。
そして、5人の人間が現れた。
店主は問う。
「あんたら何者だ?」
だが、言葉がわからないのか首をかしげたままだった。
どうやら、最近よく聞く召喚者のようだ。
召喚者の1人が口を開いた。
『わたすrfじこ!らgtファvt?』
うむ、さっぱりわからん。
両者沈黙が続く。
こういうときはRF研に聞いてみるとするか。
RF研はこういう召喚者について詳しい公的機関だ。
『はい、こちらRF研究所相談室です。何かありましたか?』
「アンドロメダ連邦・ダフカス星系・地方都市ダルフの食堂なんですが、召喚者と思われる人間が5人現れました」
『こちらの記録にはありませんが、このようなことは以前にもありましたか?』
「いえ、今回が初めてです」
『そうですか。今後もあるかもしれないのでお気をつけください。彼らとは言葉は通じますか?』
「いえ、まったく」
『なるほど、分かりました。研究者を派遣するので今しばらく彼らを留めておいてください』
「お願いします」
仮想モニターの映像通話が終わる。相手がAIとは思えないほどの感情豊かな映像だった。
流石、アンドロメダ連邦のさらに上にある大連合国家の研究所だ。金を掛けるところが違う。
おや?召喚者たちが騒いでいる。空中にモニターが現れたことで驚いたようだ。
つい5年ばかし前にあの大連合国家のよってこの宇宙中に広まり、我がアンドロメダ連邦はすべての国民にこの技術を有するナノマシンの注射を行った。
そのお陰もあって、ウェラブル端末を身に付けなくても通話できるようになった。
ありがたい話だ。
全宇宙の情報が集まる宇宙ネット接続可能なのもすごいと思う。
セキュリティは自動更新だし、そもそもネット上のウィルスは大連合国家によって駆逐されているという。
カランカラン。
「えーと、召喚者と思われる人間が現れたのはここですか?」
「ええ。あちらの方々がそうです」
「ははぁ。なるほど。確かにこの宇宙の人間ではないですな」
「どこで分かるんだ?」
「いや、だって、髪の毛、青色や緑色なんて見たことないじゃないですか。この宇宙の人間はそんな人、だいたい染めていますよ」
「たしかに。気付かなかった。だって、人間種じゃないし」
「タニシならそうでしょうけど、もうちょっと関心ぐらい持ちましょうよ」
あえて無視してやる。
「まあ、とりあえず聞いてみますか」
RF研の研究者は翻訳機能のモニターを出して、彼らのところに向かう。録画もするようだ。
しばらくして、研究者は俺を呼んできた。
「彼らのこと、分かりましたよ!」
「なんで、ここに来たんだ?」
「あちらの世界のラスボスを倒したら召喚陣が出現して、ここに跳ばされたらしい」
「そうか。で、彼らは帰れるのか?」
「彼らの世界の位置を探る必要はありますが、帰れるでしょう」
「そいつはよかった」
「早速、上司に報告して位置を探ってみましょう」
研究者がRF研の上司に連絡している最中、召喚者の1人の腹が盛大に鳴ったので、RF研の翻訳モニターを駆使しながら、彼らと会話し、料理を振る舞う。
『『『美味いっ!!』』』
「ありがとな」
つたない会話だが、心は通じ合った。
料理が食いつくされる頃、研究者はようやく通話を終えた。
どうやら、彼らを送還するために仲間が来るらしい。
僅かな会話であったが、別れの時が近いことに胸が熱くなる。
研究者がぞろぞろと現れた。床に魔力専用インクで転移陣を書き始める。
「おい、床を汚すんじゃねえ」
「水で流せますし、終われば我々で掃除しますから、お手を煩わせません」
「それならいいんだ」
転移陣が書き上がり、ミュウ製の高出力魔力バッテリー10個を転移陣に接続。
彼らを転移陣の中心に立たせると、一気に光が増し、彼らは送還された。
「あっという間だったな」
「そんなものです」
研究者たちは片付けを始めていた。
「ところで、彼らはどこの世界の人間だったんだ?」
「この宇宙から3個先の宇宙出身で、少し位相のずれた星系の住人でした」
「位相がずれた?どういうことだ?」
「今、我々がいるこの世界はあらゆる観測で3.00次元と確認されています。ところが、彼らの星系は3.06次元でした。ほんの少し違いがあるだけですけど」
「マイナーチェンジみたいなものか」
「そんなとこですね。だから、魔力で跳ばされてきたんです」
「なるほど」
「そんなわけで、今後も発生したときはいつでもお電話ください」
「ああ、頼りにしている。今回は助かった。ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
これより後、召喚者が2ヶ月に1回現れるようになってしまった。
「誰も来ないのは寂しいけど、なんで召喚者が現れるんだぁー!」
などと、日々叫ぶ声が聞こえるという。