#007 新米冒険者の証明。
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「ようこそ、冒険者ギルドへ!」
カランカラン、きしきしと音の鳴る扉を開くと、小気味良い鈴の音が鳴る。
その音に反応して、受付に立つ女性が元気な声であいさつしてくれた。室内はかなり広い、その中でも一際真っ白な壁と床が目を引く。
その光景を見て、俺は呆然と扉の前で立ち尽くした。
「本日はどのような御用ですか」
「えっと、依頼を受けたいんですけれど……」
それを聞くと女性はとある機械を手で指しながら言う。
「それでしたら、こちらから番号札をお取りください。番号に鳴ったら呼び出しますので」
「あ、はい。ありがとうございます」
すると受付の女性はクスクスと笑うと、受付業務に戻っていった。
俺は手間をかけてしまったことを申し訳なく思いながらも、その装置の方へ歩く。
――ここは冒険者ギルド。
敷地面積東〇ドーム一個分ぐらいはあるという、とても大きな場所だ。
清掃が行き届いているため清楚な店内。室内はシンプルに白いので、まるで神殿のような神聖ささえも感じられる。
受付は長蛇の列をなしている……なんてことはなく、一人ひとり番号で呼ばれているため混雑していなかった。
――冒険者ギルドは、地球でいうところの銀行や携帯ショップに近い。入り口のそばには五台ほどの端末があり、そこで受付番号を発行できる。……ますますもって銀行の受付だな。
この端末はメニュー画面のように操作でき、意外と操作しやすい。俺は手続きをするため装置を弄ると、一分もせず番号を発行できた。
――そして俺は今、中央に置かれた椅子に腰を掛け、その番号を待っている。
端末には、呼び出しは十分後と表示されていた。なので、適当にメニュー画面を弄りながら時間をつぶす。
すると、番号の呼び出しがかかる。
――ピーンポーーン
『三十五番の方、一番受付までどうぞ』
「俺か」
三十五番は俺の番号だ。
知らず知らずのうちに、もう十五分もたっていたらしい。
そして俺は、依頼を受けに受付まで向かった。
「お次の方、どうぞ」
「あ、はい」
俺は一番カウンターに到着すると、受付の受付嬢さんに進められて席に着いた。
受付嬢さんは見たところ四十代前半だろうか。緑ぶちの眼鏡をかけており、小学校にいた厳しい女教師の気配がする。顔にはところどころ小じわが浮かんでいるが、化粧でうまく隠しているおかあまりはっきりとは見えない。
手に持つ書類を指でパラパラっとめくる姿は、どう見てもベテランのそれだった。
(受付嬢さんって、若い美人さんじゃないのかよ……)
俺は多少の不満を胸に秘めながら、受付嬢さんの話を聞く。
しかし、やはり受付嬢さんはそういうのに敏感なのか、ぎろりとこちらに睨みを利かせてくる。
「う、す、すみません」
「……いえ」
睨まれたことで思わずたじろぎ、反射的に謝った。その謝罪を受け取った受付嬢さんは瞳を閉じると、それだけ言ってまた書類に目を落とす。
(こ、こぇぇぇぇえええええ!!)
表情が完璧にヤンキーですよ! これもうこの人が冒険者やればいいと思います!
俺は椅子の上で座りながら、縮こまって怯えたように震える。寿命縮んだ。
受付嬢さんは最後に、札束を数えるかのように紙束を数えると、やがて静かにこちらを向いた。
「――お待たせしました」
「は、はぃ」
受付嬢さんは、まるで俺のことを双眸で突き刺すようにじっと見つめた。心の中を見透かされているかのような、そんないたたまれない気分になる。
されども受付嬢さんは、相変わらず無表情で事務的な口調で言葉を続けた。
「一応、名前をお伺いしても?」
こくん、と小首をかしげる受付嬢さん。
真面目な雰囲気をこれでもかというほど纏っていたあの受付嬢さんがいきなり首を傾げたりするから、首が折れたのかと思ったわ。心臓に悪いのでやめてもらいたい。
――そして俺は、いくつかの質疑応答を繰り返した後、無事ギルド所属の冒険者にへとなった。
受付嬢さんは手元の書類にいろいろ記入していて、それで書類の作成をしているとみられる。
すると受付嬢さんは、最後は俺に書類に血判するように迫った。
朱印でいいじゃないか! とは思ったが、ぐちぐち言ってても仕方がないので痛みに悶えながらも血判を押す。涙が止まらない、まるで注射を嫌がる子供のような反応だった。
それらすべてが終わると、受付嬢さんは静かに「おつかれさまでした」とだけ言うと、わずかに微笑を浮かべる。
なんだかその笑みは、優しく包み込む母親のようだ。
「では、ご用件を承ります」
と、真顔に戻って受付嬢さんは言った。
要件、それは俺がここに来た目的だ。そんなもの、とうに決まっている。
「依頼を、受けたいんですけれど」
〈※〉
この国は高い城壁で街一帯が囲まれている。
それはなぜか。一重に、魔獣の攻撃を防ぐため、というのが最も有力な説明だ。
「まず、この町の外側はご存じと思います」
「そうですね、王道を歩いて来たんで」
知ってますよ、この世界の外には広大な森が広がっている、なんてことは。
およそ三キロ歩く間、ずっと見続けた光景なんですから。あぁ、懐かしいなぁ……――(遠い目)
おれはあの地獄を思いだし、自然と遠い目になる。
それを見て受付嬢さんもなんとなく理解したのだろう、心中お察しします、という言葉がなぜか心に響いた。
「では、ご存じということですが念のためにもう一度説明させていただきます」
と、受付譲さんは前置きを言うと何やら地図のようなものを机の上に広げた。
中央には、大きな楕円形の町があり――おそらくここが始まりの国なのだろう――その周囲と、森に向かって引かれている王道が描かれていた。
そして受付譲さんは、その地図を指さしながら教えてくれる。
「まず、この始まりの国の南側から王道が引かれています。そして、この王道の左右に囲むようにして生い茂る森、これを【始まりの大森林】といいます」
――へぇ【始まりの森林】かぁってそのまんまじゃねぇか!
「王道から見て右側――つまり東側の森は主に【ウルフ】などの低レベルモンスターが生息しています。また、西側の森にはモンスターは生息しておらず、猟主の獲物である獣がたくさん繁殖しています。
この西の森で獣を狩ると条約違反――つまり犯罪になりますのでくれぐれもご注意ください」
「あ、なるほど……」
やっぱり、聞いていてよかった。
せっかくのゲームなのに牢屋に投獄とか、シャレにすらなっていない。まぁ牢屋に入る時の予行演習にはなるがな――って誰が犯罪者予備軍じゃボケェ!
そんな馬鹿な事を考えていると、受付譲さんは言った。
「やはり、まずは低レベルモンスターから狙うのがいいと思います」
――おぉ、モンスター! なんと甘美な響き、心が躍る!
俺は内心の興奮を抑えながら、話を聞く。
「今ですと『辺境村の守り人』『森人の宴』『血祭りの夜会』などの依頼がありますが」
「おいちょっと待て最後」
依頼、というか称号に近いな。
どちらかというと『ミッション』に近い気がする。だが、その名前がそこはかとない厨二心をくすぐった。……だが、最後のは何か、というか何もかもが間違っているように思える。
「そうですね……あとは『新米冒険者の証明』とか」
……ほう。なんだかかっこいいな、その称号。
俺は少し興味を持ったので、そこのところ受付嬢さんに尋ねてみる。
「その『新米冒険者の証明』っていうのは」
「……はい、どうぞ」
すると受付嬢さんは一枚の紙を取り出し、それを俺に提示した。
机に出されたその紙には『冒険者の証明』と書かれていて、他にもイラストや地図のようなものも載っている。よく見ると、依頼人のところには『冒険者ギルド』と書かれていた。
(なるほど、まぁ冒険者ギルド発行なら詐欺だとかいう心配はないしな)
いわば、公式の依頼だ。
自分の受ける初依頼としては、丁度いいのかもしれない。
とりあえず、その紙に書かれた内容を読む。
どうやら、西の森には低レベルモンスターが多く群生しているらしい。
犬くらいの体長に毛の固い、ウルフという狼の獣だという。野生の狼が変異的に変化を遂げたらしく、獣寄りではあるが分類上モンスターらしい。
強さはそれほどでもなく、農具を持った農民とどっこいどっこいの強さだそう。
それぐらいだったら、俺でもなんとか勝てそうだ。
「それで、どうされますか?」
受付嬢さんは相変わらず無表情のまま首をかしげて尋ねてくる。
猟奇的だ。シャ〇トのあの独特な演出に似ている。
そして俺は、いつも以上に元気な声を上げ、言った。
「俺、この依頼受けます!」
「……受理しました。そう、手続きをしておきます」
すると、ポコーンというあまりにも軽快な音が鳴る。
なんだなんだと辺りを見渡すと――そこに、突如タブが空中に浮かんだ。
そこには、こう書かれている。
【イベント『新米冒険者の証明』が始まりました。】
今回、若干短めです。多分、次回は結構多いと思うので。
動けなくなるまで、あと二回。