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#003 鬼畜とバグと君と。

1/21 改稿しました。




 そこは、果てしなく広がる常闇の渦中だった。

 何も見える状況ではない。目を見開いて、呆然と俺は言葉を漏らす。


「うぉっ!」


 すると、突如身体が浮遊感に包まれる。

 最初はその感覚に困惑していたが、バランスのとり方が分かればむしろこっちの方が楽になる。

 すると、やがて暗闇は晴れてゆき、何かが見えた。


「おぉ……すげぇ」


 それは、本物じゃないかと疑ってしまいそうなほど巧妙な地形。

 海の周りは森と山が囲み、その間に見えるのは平野。そこに、いくつかの町が見えた。



『――ある日、ある場所にとある大陸がありました』



「お、プロローグかな?」


 すると、両耳にとある声が響く。

 それはまるで博物館の案内のような優しい声で、しかし聴きやすく紡がれていた。


 そして、言葉は続く。 



『そこの大陸にある七つの国々は日々争い、血を血で洗う戦いを行っていたといいます。

 ──しかし、その大陸に危機が訪れました。

 混沌を統べるもの、邪の化身『魔王』の誕生です』



「おわっ!」


 すると、突然黒い霧のようなものが森を襲った!

 その森は、今の俺の視点から見て目の前――南側にある、富士の樹海のように大きそうな森だ。



『魔王の発するその瘴気で、大地は犯さられ、不毛地帯となってしまいます』



「えげつねぇな、魔王……」


 そういって俺は頭皮を押さえた。

 不毛地帯とは、このことを言っているのではないことを祈りたい。いや、割と切実に。



『それに困り果てた七国の王様は、国々で協力し合いました。

 そして王様は、各国に募集をかけると、我こそはという民を“プレイヤー”と定義づけ、魔王を倒させることにしました』



「プレイヤー、プレイヤーねぇ……」


 ってことは、その『我こそは』というプレイヤーこそがこのゲームの参加者、という認識でよろしいのかしら。

 でも、限定発売が一万台で、フミの言うとおりプレイヤーはだいたい一万人だろ?

 ってことは、一万ものプレイヤーがこの大陸をひしめいているのだろうか。


(ちょっと、見てみたいな……)


 俺は、浮いている身体をまるで蝶のように捻り、そして飛ぶ。

 やがて町にまで近づくと、そこで停止した。……というのも、これ以下は飛べなかったのだ。

 そこは、町から高度たったの五十メートル。この高さに勝る建造物はよもや存在していなかった。しいて言うなら、高台が唯一俺の足元にまで迫る高さだっただろうか。


 ――そこには、獣人(ビースト)がいた。森人(エルフ)がいた。


 獣もいて、自然があって、古風な建物もあって、ドワーフなんてのもいた。

 俺はそれらを渡り歩きながら眺める。すると、ナレーションは続いた。



『しかし、魔王を倒すためには荒れた道を歩き他国を渡り歩くしかありません。

 そのため王様たちは、各国でお金を出し合い、国家事業として片や大陸の一番端にまで続く、片や魔王の領域にまで伸びる七カ国を繋ぐ道──【王道】を建設したらしいです』



 ――それは、何処までも伸びる一本の道だった。

 果てしないほど先まで続く、長い、長い道。俺はふと、その道の一番端がどうなっているのか気になる。

 ナレーションは言葉をつづけた。



『そして、このおうどどどどどどどどどどどどddddddddddddddddddd――』



「……」



『dddddddddddddddddddddっどどどddddddddddddddd――』



「…………スキップ」


 プロローグをスキップしますか? Yes/No


 ――俺は、指でそっとYesボタンに触れた。


     〈※〉


「あれ……――」


 ――目が覚めるとそこは、広大なゲームの世界だった。


 優しく吹き抜ける風、時折風に乗って運ばれてくる新緑の香りが、俺の鼻腔をくすぐる。空には太陽が浮かび、雲一つ見当たらない晴天の空が広がっていた。

 後ろを向くと、木々のざわめきも聞こえてくる。どこからか、遠くから鳥の鳴き声が聞こえた。


「すげぇ……」


 ありきたりな台詞だったが、咄嗟に口から出たのはそんな感想だった。

 風が俺の頬をなでていく感覚をもう一度実際に肌で感じ、感嘆して思わず息を飲んだ。


「これが、ゲーム……」


 呻くように、俺は言葉を漏らす。


 足を動かし歩み出してみるも、その感覚は土の上を踏むしっかりとした感覚があり、そのざらっという感触にえもいわれぬ快感を覚えた。

 少し進むと、自分を囲うように生えていた木々が晴れてゆき。


「おぉ―――っ」


 ふと、あたりの開けた場所に出た。


 地面には草々は生い茂ってはいるものの、周りを囲う木々は見えなくなっていた。

 心なしか、ぐっと空に近づいたのだと思う。きっと山か何かなのだろうと、特に気にすることもなく、その場所は見晴らしが良かったために、俺はそこで立ち止まる。


 そして俺は、そこから世界を見渡した。すると、見えたのは石壁で囲まれた都市だ。 


「うぉぉぉおお……」


 かすんで見える。石壁は高く、その国の中はよく見えなかった。


「あそこが、一番目の国か」


 そこには、舗装された道が続いていた。

 その道はどこまでも続いていて、先が見えない。それを見て、俺は確信にも似たある思いを心に浮かべていた。


(これが、王道だろう)


 その考えの通り、実際にこの道は王道だった。


 『王道』とは、七つの国家を結ぶ、まぁ日本でいうところの国道のようなものだ。

 一番目の国から七番目の国、そこから少し先までこの道は繋がっており、その道の最果てには魔の領域――通称『魔界』につながっているという。


 俺は、先の見えない道を見据えて、ごくりと息を飲む。


「……よし」


 そして、覚悟を決めたように一歩を踏み出した。

 顔には険しい表情を浮かべ、道を進みだす。


(というか、ゲームなのにこんなに歩かないといけないんだ……?)


 ふと疑問には思ったが、考えたら負けな気がしてきた。

 何も言うまい。


     〈※〉


「つ、ついたぁぁぁああああ!」


 俺は、目元に涙を浮かべて両手を掲げる。


 目の前にそびえる、数十メートルはあるとみられる高い石壁。目の前にある、大きな国門と木製の扉。十メートルくらいはあるだろう大きな扉に感動を覚えながらも、早く休みたい気持ちもあふれていた。


 なんか、どっと疲れた。

 嬉しすぎて、エベレストでも登頂したのかというほどの大声を出してしまった。もう二度とやらない。


「プレイヤーの方、ですね」


 突然、後ろから話しかけられる。


「え? あ、はい」


 咄嗟のことにうまく反応できずどもってしまったが、話しかけたのは門の前に立つ、鋼の鎧をまとった門番の男だった。

 すると、門番の男は言う。


「では、今入国証を発券しますので、ここでしばらくお待ちください」

「わ、分かりました……」


 そう会釈しながら、俺は改めて門番のことを見てみる。

 ――まず始めに目に飛び込んできたのは、がっちりとした両腕両足。鍛えているのだろう、鎧の上からでも盛り上がる筋肉が微かに認識できた。

 顔を見ると、門番の男の顔面に大きな傷があり、まるでかたぎの人間のような威圧感を感じる。表情も硬いため無言の圧力が凄まじく、気圧されて一歩退いてしまった。 


 男は、いや大男は、駆け足で門の休憩所にへと向かっていく。

 いや、走らなくてもいいですよ! マジで勘弁してください! むしろ休憩してくれても構いませんから。


「お待たせしました!」


 すると、門番の男が現われた。

 その手には、何か四角いものを握っている。俺は、それが酷く気になった。


「な、なんですかそれ……?」


 思わず俺は尋ねる。

 すると、門番はその反応に慣れているのか。

 人のよさそうな笑みを浮かべて、説明を始めた。――いや、それでも十分顔怖いけどね?


「はい、これは初めて入国証を発券する人に使う【コントロールパネル】です」


 ……ゲームの世界観台無しだな!? いや、もうバグが起きている時点で台無しだった。

 なので、もう突っ込まないことにする。突っ込むだけ無駄だし、いいよね?


 すると、門番の大男は言う。


「とりあえず、あなたの名前をお教えください」

「あ、はい。俺は――」

【ピピッ。[あ、はい]で登録しますか?】

「いやしねーけどッ!?」

「では、“あ、はい”殿」

「あんたもなにちょっと乗り気になってるんだ!?」

「……?」

「そうだこの人NPCだった! ってか都合よさすぎだろこのNPC!!」


 もう突っ込まない、といったそばから突っ込んだ。


 ――その後、俺はあと三度の紆余曲折を果たした後、結局本名で登録することにした。 

 

「では、あなたの入国証を発券します」

「お、お願いします」


 うわー入国券か。なんだか興奮するな!

 そんな俺の内心を察したのだろう、門番の大男は静かにうなずくと、仰々しく俺に向かってこう言った。


「では、プレイヤー“ユズリハ シン”殿」


 言葉を溜めると、門番の男はかみしめるように告げる。



「王道第一国家【はじまりの国】へ、ようこそ――」



 ――ギギギギギギィィィィィィィィィ……


 十メートルはあるだろう木製の扉は、けたましい音を立てながらゆっくりと開かれる。

 いつしか、空は茜色に染まっていた。夕焼け空が門番の鎧に反射して、とても幻想的な光景を生み出す。


(――鬼畜だろ、こんなもん)


 およそ三キロだ。

 三キロメートル、延々と歩かされる。これを地獄と呼ばずして、なんというべきか。


 だが、その報酬が、この景色なら。


「――」


 この儚く幻想的で、それでいて悠々しいこの光景が報酬なのだというのなら。


(……ふ)


「それはそれで、いいのかもしれないな……」


 瞳を閉じ、この光景をまぶたの裏に焼き残す。



 ――やがて瞳を開くと、俺は、ゆっくりと一歩ずつ門に向かって歩みだした。 


文字数が少なくなってしまいましたが、毎日投稿目指していけたらなと思います。拙書ですが、こんな作品でも応援して頂けたら嬉しいです。

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