#001 幻のジャンク品。
※1/20全面改稿しました。
そんなわけで、拙著ですが、どうぞご賞味ください。
「なんだこれ?」
夏休みに入り、クーラーのガンガンにきいた部屋で寛ぎながらネットサーフィンに興じていた今日この頃。何気なしにオークションサイトを覗いていると、とある商品が出品されているらしい。
『【ジャンク】最新型VRゲーム 入札価格:10000円~』
気になってページをダブルクリックしてみると、どうやら中古商品らしい。商品説明は文字化けしていて読めなかったが、そんなことなどどうでもよかった。
それよりも、目を引かれたのは『最新型VRゲーム』が10000円程度で買えるということだ。まぁ、実際はオークションなのでどのくらい値段がつり上がるかも分からないが。
「ほえー、最新型VRゲームが中古で10000円からねぇー」
どうせせっかくの夏休みである。
学校も不登校なレベルで重度の引きこもりの俺だ。学校はおろか外にさえ出れない俺は、暇を誤魔化すように延々とゲームをやり続け、レトゲーから最新ゲー、果ては改造ゲーに至るまで手を出している。しかしながら、VRゲームというジャンルは全くもって守備範囲外だった。
正直、めちゃくちゃ興味が湧いたのである。
「まぁ、どうせ10000円じゃおちないだろうけど」
まるで言い訳でもするようにそんなことをのたまいながら、俺は入札ボタンをポチった。
――まさか、本当に落札できるとは夢にも思わなかった。
ジャンク。
それは、動作保証のないガラクタのことだ。
普通、このジャンクというのは部品取り用などに使われる。あるいは、修理して使うなどだろうか。
例えば、液晶の割れたテレビだったり。
何故か英会話放送局しか受信しないラジオだったり。
何に使うのか全くよく分からないリモコンだったり。
まぁそれもあり、ジャンクはまず普通には動かないので何かしらの処置が必要となる。
「いやー、いい買い物をした!」
そこで俺――楪心は額に浮かべた汗をぬぐい、爽やかな笑みを浮かべた。
夏休み――学生生活における、長期の休みの続く至福のような時間。
外はセミがうるさく鳴き、日光によって熱せられたアスファルトが殺人的な暑さを持っている今日――八月一日。
今学校は夏休みに入っており、俺は一度しかない高校二年生の夏を満喫していた。窓は完全に締め切っており、室内はクーラーの涼しい風が楪に癒しを運ぶ。
そんな部屋に一人、彼の目の前には一つの大きな段ボールが置かれていた。
それは、まるで超高級テレビでも買ったのか! というレベルの大きさだ。中身もずっしりと重く、腕にかかる負担が尋常ではない。
「これがたったの一万円で買えるとはな―!」
うきうきと、頬を紅潮させながらダンボールのガムテープをぺりぺりとはがしだした。ゴミが周りに散乱する。しかし、そんなことは知ったことではない!
やがて全てはがし終わると、俺はダンボールのふたを開けた。
「うっほーー!」
そこに入っていたのは、頭を覆い隠すような大きいヘルメットだった。
いや、正確にはこれはヘルメットじゃない。電子機器がついている。目を覆うようなVR装置が組み込まれているようなものだ。
……正直、めちゃくちゃ不恰好だった。
「だせぇ。なにこれ、だっせぇ!」
それは、とてつもなくダサいデザインだ。しかも、ところどころに傷がつき、汚れが多くしみついていた。何だか、この装置からはヤニの匂いがする。きっと、前の持ち主は煙草をよく吸う人だったのだろう。
「だが、まぁ。この値段だし、仕方がないけども」
“VRヘッドギアマウントモニターディスプレイ”――それが、この装置の名だ。
調べたところ、これは新開発の技術を多大に用いられている最新型VRマシンであるらしい。発売したのは、今からざっと一年前くらいになる。
このヘッドギアはもともと『ゲーム専用機』として発売され、全世界中のゲーマーを虜にした。開発は大手パソコンメーカーとその子会社、そのためゲームシステムにも自社のパソコンのプログラムが流用されているらしい。
しかし、ハードの普及には至らなかった。
何故ならば、それは値段にある。
驚くことに、そのメーカー小売価格は税抜二十二万円。
新型コンピューターが二台買える値段だ。そんなもの、よほどの儲けのあるプロゲーマーかス○夫でないと購入できないだろう。
そして、その理由はもう二つある。――それは、対応ソフトが一つだけ、という点だ。
『Classic Fantasy Online』――直訳で“王道・ファンタジーオンライン”。
ジャンルはMMORPG。魔法あり、剣あり、そして魔王あり。
そしてそのタイトルの通り、ザ・王道の内容らしい。……だが、らしいというのは未だわかっていないからだ。というのも、この装置を購入したゲーマーが語っていた内容だ。
それは、果たして事実なのか偽りなのか。誰にもわかっていない。ただ、「事実を知りたければ装置を買え」と書かれた最後の一文に、俺は興味をひかれたのを覚えている。
最後に、三つ目の売れなかった理由。
それは、台数が限定一万台しか販売されなかったことだ。
しかも、その装置の所有者全員の名は未だわかっていない。
そもそも、このジャンクを購入できたのは奇跡ともいえる。俺が買えたのはたまたまだった。
「でもこれ、ジャンクだけど電源が入るのかな……?」
ふと、俺はそう思った。
そう、ジャンクとは大概がそんなものだ。殆どが正常に動作しない、明らかなる欠陥品。
だからこそ俺は気になり、ふと電源を入れてみた。
しかし、やはり動かないらしい。
起動はするが、すぐに電源が落ちてしまった。これでは使えない。
……だが、基盤についた汚れを落としたら起動する可能性もある。これは結構ヤニくさいのだし、もしかしたらその可能性もあるのかもしれない。
「とりあえず、くさいから消毒だけでもしておこう」
そういってから俺は、アルコール消毒液を取り出した。
それをコットンのような布にあて、消毒液を湿らせる。
それを汚れの部分にこすり付けると、面白いぐらいに汚れが取れた。
「これ、多分中も結構汚れているな」
装置を鼻の下に持ってきて、すん、と鼻を動かす。
やはり、やにの匂いがする。くさい。
(うげぇ!)
俺は顔を顰めると、鼻の奥を刺激するような異臭に鼻をつまんだ。
「中身を開いて掃除するか」
そういって、俺はドライバーを持ち出した。
「――よしっ、これで完璧だ!」
そういった俺の目の前には、新品同然かというべき装置がある。
傷がなく、反射しているらしく覗き込む俺の顔もうつった。これなら、舐めても汚くなさそうだ。
「ふぅ、洗剤まで持ち出して掃除した甲斐あったぜ!」
やはり、掃除とゲームは一度やり出すと止まらない。
気づくと、もう外は日が傾きだしていた。
「とりあえず、動くかどうか起動してみるか――」
そういって俺は装置を取ると、ヘルメットの上部分、つまりてっぺんを見つめた。そこには、蓋と穴がある。どうやらここからコンセントとつなぐケーブルを接続し、インターネットとも接続するみたいだ。
「えっと、これを指せばいいのか」
ぷすっ。と俺は差し込んだ。
「今度こそしっかりと起動してくれ……ッ!」
そう祈りつつ、俺は電源を入れる。
すると。
「無事起動できたーーッ!!」
どうやら、やはりヤニが原因だったみたいだ。
それらを取り除いた今、しっかりと起動できている。
「よしよし、これでゲームをぶち込めば……」
俺は一度、電源を切ると――ベッドの端に座りながら、マウントディスプレイにゲームソフトを差し込み、ヘルメットを頭にかぶった! VRヘッドギア部分を目に当て、しっかりと固定されていることを確認する。
すると俺はゆっくりとベットに横になった。
「ふぅ……緊張するな」
胸の興奮が抑えきれない。心臓が、喉から飛び出しそうだ。
俺は荒い息を整えようと深呼吸する。そして、口に半月上の笑みを浮かべながらVRヘッドギアマウントモニターディスプレイの電源を入れた!
ピコーン、軽快な音が鳴る。このゲーム機の起動音だろうか。
【ようこそ、VRの世界へ――】
それは、感情の感じさせない機械的な女性の声だった。
──そしてその声が聞こえた瞬間、俺の意識はそこで途絶えた。