ぼくゴブリン、召喚士になる2
そういえばベッドがない。
元の世界ではベッドで寝ていたはずだが、毛布とぼくと布団だけがうまい具合に切り取られて荒れた大地にぽいっと放り込まれていたようだった。
なんだこの、ベッドからから始まる世界創世的な舞台設定は。
だが、恐怖を除外して改めて景観を眺めてみると、この場所も悪くないかもしれない。
どこまでも続く闇色の空は透き通っていて神秘的だし、誰もいない何もない世界というのも乙なものだ。ぼくだけの世界、ぼくだけの魔界。自分が芸術家だとしたら、いてもたってもいられなくなってこの景色を美しく写実していたことだろう。
書くペンも用紙もないが。
だれからも何も言われない世界。勇者だろうが魔王だろうがなんだっていい。異世界に来れただけでも考えてみれば最高の現実逃避じゃないか。
目的もある、目標も出来た。
これこそ自分の望んでいた夢だ。
夢・・・。夢、か。そういえば最近誰かに夢のことを聞かれた気がする・・・。
誰だっけな。あぁ、思い出した。クリスマスイブの日にガンプラ買いに行った時におもちゃ売り場にいたばあさんに聞かれたんだっけ。あのばあさんは怪しかったな。
まさかこの世界に飛ばされたのってあのばあさんの仕業じゃないだろうな。
可能性がないわけではないが、そうだとしても何が出来るわけでもない。ヒントが欲しければ、召喚杖に与えられた情報を鵜呑みにしてやっていくしかない。
もしあのばあさんの仕業なら、そのうち現れてくれるかもしれない。そしたら元の世界に帰る糸口も見つかるはずだ。あと元の姿にも戻して欲しいし。
出来れば戻す際、補正をかけてイケメンにしてもらうとしよう。迷惑料として。異世界に飛ばせるくらいだ。イケメンにするくらいなんてことないだろう。そしたら引きこもりともおさらば。学校でいじめられることもなくなるし、普通の学生生活どころか、学校の女子にモテモテで人生リア充街道まっしぐらだ。
なんだか楽しくなってきた。
それはそうとこの召喚杖。呪文は至極簡単だ。
杖の末端で地面に円を描き、『出でよまるまる』と唱え、出したいものを念じながら円の中心に向かって杖を降ろすだけ、らしい。念じれば、何でも出せるのだろうか。
とにかく一度やってみるか。
布団から少し離れた位置に移動する。何かの手違いで布団が焼き消えるようなことがあってはならない。あの第二のふるさとだけは何があっても死守しなければ。でないとぼくは死んでしまう。
杖で円を描き、あ、ちょっとゆがんだ。で、えーと、最初から魔物は怖いしちょっと他ので試してみよう。
「出でよ、・・・えーっと、じゃあ、ps4!」
前から欲しかったんだよ、ps4。
・・・何も起こらない。まあ、そうだろうな。
その後、家電や漫画、衣類から食べ物、えっちな美女に至るまで、あればいいなという馬鹿な妄想をふくらませていろいろ試してみたが、結局どれも召喚できなかった。
やはり魔物しか召喚できないのだろうか。
ふくらんでいた妄想は淡い期待で終わった。