ぼくゴブリン、召喚士になる
両親と妹は家族旅行で長野に行ったから、家には今ぼくしかいない。
外は寒い。冬なのだから当然だ。おまけに夜だ。なおさら寒い。
風が吹き付けて窓をがたがたと揺らしている。ぼくはといえば、テレビをつけて暖かいコタツでごろごろしながらみかんを食っている。
テレビの上にある壁掛け時計が十時を指そうとしていた。
テレビ画面には人間がおばけメイクした人間が映っていた。『心霊体験特集』だそうだ。正直これのせいでコタツから抜け出して風呂に入ることが出来なくなってしまった。フィクションだろうがおばけメイクだろうが、怖いものは、怖い。
・・・まあ、一日くらいいいよな。親もいないしな。寒いし。
十二時を回りまぶたがとろんと重くなってきた頃。ここで眠ってしまおうかとも考えたが、やはり寝るのは布団の中がいいのでコタツから抜け出し歯を磨いてから二階の自室に行きベッドに入った。ひんやりと冷たい毛布と布団が全身を覆う。寒さにふるえながら体を丸める。
17歳、高校二度目の冬休みだった。
夢なし。彼女なし。勉強苦手。ゲーム大好き。おなにーも大好き。
身長167センチ。体重普通。ちん長12センチ。(勃起時15センチ)
それがぼくだ。それがおれだ。
何の取り柄もない。
何もできないし、したくない。
ただ普通に過ごせればそれでよかった。普通に高校生活が送れればそれでいい。だがそんな普通さえも出来なかった。普通の生活を送らせてもらえなかった。だから引きこもりになった。
夢などない。将来には不安しかない。なにになりたいのか、なんて考えたくもない。
もしもどうしても何かをして生活の基盤を作らないといけなくなったとしたら、ぼくは死ぬしかない。
一歩も家から出ず、魔法を使って金を稼げたらこんな心配しなくて済むのに。もしくは、魔法で家から何から出すことが出来れば、一生何もしなくても暮らしていけるのに。
だけど魔法なんかないし、出せない。気だって、チャクラだって出せない。(練習したけど出せなかった)
今日は12月28日。
クリスマスから三日が過ぎた。サンタは未だに来ていない。プレゼントがどこを探してもないのだから、まだ来てないのだろう。もしくは記憶障害で届けるのを忘れてしまったのか。深くは考えない。
ベッド脇の机の上にはクリスマスイブに自分の小遣いで買ったガンプラが置かれている。
プレゼントならあった。プラモデルだ。それがぼくのクリスマスプレゼント。
雪も雨も降っていない。ただ風が乱暴に音を立てて吹きすさぶ。
無意識の中で自分の意識がなくなっていくのを感じる。窓を叩く風の音が心地よかった。ゴーゴーという風とがたがたとならす窓、世界は静かに沈んでいく。
人間の一日が終わる合図だった。