エピローグ
開拓村は、主に火事のせいで、無茶苦茶になってしまっている。
なので、火消しのための人魔員を残し、カナィド村へと戻ることにした。
「ただいまー」
「ムムゥゥゥゥゥーーーーーッ!」
涙鼻水青痣でぐっちゃぐちゃの父ウウの抱擁を避け、ダンジョン境界内へ入ると皆が心配そうに境界付近に集まっていた。
「解決してきたよ!」
ムムがどや顔でささやかな胸を張ると、母であるミミが飽きれ声を出した。
「いや、あんた、魔王でもなるつもりなの?」
「え? 魔王? 可愛い花嫁じゃなくて?」
色々あって疲れているので、普通の美少女ぐらいに見えてしまうことはあるかもしれない。
それでも魔王はない。絶対ない。
「あっ、聞き間違いか」
「ムムはまだ嫁にやらんぞぉぉぉぉぉっ!」
話が進まなくなりそうだったからか、ミミは睡眠魔法を素早く発動させ、さらに沈黙魔法でイビキも封じた。
あまりの手際の良さに、お母さんの方が魔王っぽいよ、とか考えたムムだったものの口には出さなかった。出せなかった。
「痛い痛い痛ぁぁぁいっ!」
素早くムムのこめかみにセットされた二つの拳は、乱れ飛ぶ矢や石、棍棒でタコ殴りにされようと痛みすら感じなかった高い防御力を貫通している。
これが魔王の片鱗でなくて、なんなのだろうか。
「私は羽がある以外は至って普通だから」
「どこギャァァァァッッッ!」
心を読まれていることに気付かないムムである。
ひとしきりグリグリされ、ようやく解放だ。
「うー、うー、うー」
「ところで後ろの魔物は何なの」
「うえー?」
こめかみを擦って痛みを和らげようと躍起になっていたムムが振り返ると、目付きの悪いラモビフトと目があった。
「あれ? この可愛い子、いたっけ?」
開拓村を襲撃していた中にラモビフトも沢山いた。けれど、こんな柄の子はいなかった。
モフ記憶だけは優れているムムである。絶対にいなかったと断言できたが、見覚えがないわけでもない。
どこで会ったかなー、と、顔を歪ませ記憶を辿るとぽんと出てきた。
「……そうだ! 岩の所にいた子だ!」
「フンフンフンッ!」
そうだよっ、と、ばかりの頭突き。
今は魔力でガードしているから痛みはなかったが、寸分違わず前にくらった所へ打ち込んできたことから確信へと変わる。
「やっぱりかー。いつから合流してくれたの? 一緒にダンジョン作ってくれるってことだよね?」
「フンフンフンッ」
元気に頭突きでの返事。
いつから合流していたかは判明しなかったものの、魔物の為のダンジョンに乗り気なことだけはわかった。
「という訳だって」
謎が解けてスッキリ――するはずなのに、ミミはプルプルと震えている。
変なものでも食べたとムムは睨んだのだが、
「違ぁぁぁう!」
不正解だった。
ミミは強面キミッカを始めとした魔物達を指差す。
「私が言ったのは、その子だけじゃなくて皆よ! どうして魔物の群れを率いて戻ってきてるの!」
「流れかな?」
「流れって何よ! 流れって!」
怒りゲージが最大まで達してしまったミミの前に開拓村の数名が出てきて跪いた。
「ムム様を叱らないでやってください!」
「落ち着いてくだされ大魔王様」
「人間の方もおかしいんだけど!? てか、誰が大魔王だ!」
「痛いっ痛いっ、言ったの私じゃないよっ! 痛いからっ」
八つ当たりのぐりぐりを頂くムムである。
抵抗も虚しく、ぐでんとしたところでミミの手が背中へ回された。
――こめかみだけじゃなくて背中もやられる!?
力の足りないムムには少しでもダメージを抑えるべく身を固くすることしか出来ない。
お休みまでほんの数秒なはず。
けれど、その数秒がなかなか訪れなかった。
背中にある腕は抱きしめるように優しい。
ムムはハッとした。
「……もしかして、魔力切れ?」
「違うわよ、アホ娘」
いつも気丈なミミの声が若干震えている。
そして、辛うじてムムにだけ聞こえる声量で続けて呟いた。
「一人で突っ走って心配したんだからね」
「お母さん……」
帰ってきてからの過剰なスキンシップも気持ちの裏返しなのかな、と、考えた途端ムムは申し訳なくなった。
「ごめんなさ――」
「これは罰!」
「ヌギヤァァァァッッッ!」
謝罪と共に力を抜いたところで背骨を持っていかれる。
全てはミミの策だった。
つい口にしてしまった気持ちを誤魔化すことも含めて。
「――というわけで魔物用ダンジョンを作るよ!」
「ほいよー」
背骨が復活したところで事のあらましをカナィド村の皆に話し、新たな魔物用ダンジョンを造ることを宣言したムム。
ツトとシケボモは金の匂いに目を輝かせ、他の村人の大半は弛い感じで了解した。
村人会議を開くまでもなく可決である。もはや新ダンジョン建造如きでは驚かず騒がないのだ。
「いや、いいのかよそれ。うおっ?」
逆に驚いた冒険者の背中を、ウイング・モルフのウモが『いいんだよ』とばかりに羽で軽く撫でた。
「よおー、戻ったか」
と、そこへ地下ダンジョンからチャクマと天使長がやって来た。二名とも湯浴み着である。
「あれ、ニュセミはどうしたの?」
「逃げられたぞ。あのジジイ、逃げ足だけは早ぇからな」
ンセニと仲の悪い天使長も無言で悔しそうにしていることから真実なのだろう。
「ま、いいよ。これに懲りてもう来ないでしょ」
「え?」
「は?」
「ムムおねーちゃん……」
あっけらかんと言い放ったムムに一同は残念な子を見つけたようないつもの視線を向けた。
ンセニはいつかまた襲撃してくる。
テンでさえ予想できていた。
「あれ? 皆、変な顔してどうした?」
アホ面なのはムムである。
ムムの未来には脅威がまだまだ待ち構えている。リベンジに燃える仙人や、他にも厄介事が惹かれたようにやって来るのだ。
それでもムムは乗り越えるだろう。
カナィド村でゆるゆる過ごし、独身を貫くのだ。
ダンジョンも少しずつではあるが大きくなっていく。
そして、次第にこう呼ばれるようになる。
――カナィド村の笑顔のダンジョン。
そうとは知らないムムは、
「ムムスペシャル2、うまぁー」
今日も元気だった。
これにてアホの子ムムのお話は終わりでございます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




