模擬体験
説教のフルコース後、毒殺を企てたのではなく、美味しい料理を披露したかっただけと謝り倒しながら釈明。最初は信じてもらえなかったものの、ムムを止めるべく遅れてやってきたマカとサーソも証言してくれたおかげで事なきをえた。
しかし、まだ問題が残っている。
首を傾げた王妃がニコニコしながら訊ねてきた。
「あの人はどこかしら?」
あの人とは本物の王様だろう。
影武者とすり変わってどこへ行っているのか。
王妃の笑顔には怒りの色が滲んでいた。
一同の視線が一番最後に会っていただろう二人へ集まるとマカは苦笑いでこう答えた。
「絶賛逃走中だよ」
――時間を少し遡り、本物の王様がマカ達を見送った後のことだ。
四人はテンを先頭にとある所へやって来ていた。
「ここは?」
「ムムおねーちゃんがまいごになるの!」
振り返ったテンは両手をあげて元気に飛び跳ねる。すごいアイデアでしょアピールだ。
王様からすれば欲しかった答えとは違うのだが、それでも彼がここへ連れてきた意図は察せられた。
「ここから先は入り組んでいて、ムムさんは道を覚えられていないんだね」
「ムムおねーちゃん、だまされるから――うん、そうなの……」
ちょっと残念そうにするマツである。
テンの説明だけではわからないだろうと補足しかけたのだが、王様の物分かりが良すぎて出番が無かったからだ。
それを見て少し申し訳なく思った王様は周囲を見回し、すぐに丁度いいものを見つけた。
「お嬢さん、これは何かな?」
手に取ったのは玩具のような剣だ。
他にも色んな武器や盾があった。
これなら彼女の説明欲を刺激してくれるだろう、という王様の狙いは見事ヒット。
マツはぺかーと笑顔を咲かせ、声を弾ませた。
「それはねっ、だんじょんのもぎたいけんでつかうぶきだよっ」
「ダンジョン模擬体験?」
「うんっ、だれでもぼーけんしゃになれるの!」
「ほうほう」
ここは非力な人でも冒険者気分を味わえる、が、コンセプトの施設なのだ。
「そんなちゃちな武器を使わずとも良くねーか? 本物あるし」
横槍を入れたジョンは自慢の一品である短槍をこれ見よがしに抜き、
「ほんもののぶきはだめだよ?」
優しく叱られた。
この模擬体験場に出てくるのは人を害するような魔物ではない。本物の武器を使ったら可哀想でしょ、と。
「え、あ、すんません」
謝るしかないジョンである。
そんな情けない男を尻目に、テンはマイペースに武器を選んでいた。
小刀の二刀流か、鎌で行くかをグヌヌと悩んでいる。
すると、振り返って王様を見上げた。
「どっちがいいかなー?」
訊ねられたのがムムであったならば心の中で大いに悶えただろう可愛さだった。
ただ、王様にはそこまでの効果は及ぼさない。マカの方が可愛いと絶対の自信を持っている親馬鹿なためだ。
それでも癒されはする。優しい表情になった王様は屈んで二種の武器を見比べた。
「どちらも格好いいな」
「うんっ!」
テンは、でしょー、と、満面の笑み。
それから改めて二種類の武器を見比べ、グヌヌると、決意したように鎌の方を王様に手渡した。
「それつかっていーよ」
テンは二刀流で行くことにしたらしい。そこで余った鎌を褒めた王様に譲ったわけだ。
「ありがとうな」
王様は受け取った鎌を軽く振り回してみた。意外としっくりと来る。
戦いに無縁な非力な人間でも取り扱える重さのようであった。
「それでは行こうか」
「おー!」
準備は完了。四人はダンジョン模擬体験場へ足を進めた。
中は入り組んだ迷路である。
右へ左へはたまた正面。起伏なんかもあった。
ダンジョンキラーたるジョンも「結構本格的だな」と感心する出来映えだ。
まぁ、ここはダンジョンなのだからダンジョンらしく作るのなんて容易いのだが。
「おっと、ストップ。お出ましのようだぜ」
ジョンが感知してから数秒後、曲がり角から敵役の魔物が現れた。
「む?」
大人の膝ぐらいの高さの、もふもふな毛玉だ。コロコロ転がって戸惑う王様へ突撃してきた。
「あぶないっ!」
そこを一流の冒険者となったテンがカバー。使い慣れない二刀流の小太刀で拙い連撃を叩き込む。
すると、大きな毛玉は簡単に吹っ飛んで壁の向こうへと消えていった。
爽快感のため、やられた魔物は過剰に吹っ飛ぶことになっているのだ。
「かった!」
しゃきーんと小太刀を交差させて得意気にするテン。
マツが拍手してあげるとますます嬉しそうにしていた。
だが、それは油断。ダンジョンにおいて晒してはならない大きな隙である。
「テン、まえ!」
「え?」
先程の曲がり角から転がってきた毛玉が狙うはテンだ。
マツの声で迎撃しようとするも手遅れで、無防備な小さな体に敵の体当たりが――
「ふぬんっ!」
当たる前に王様の鎌が毛玉を明後日の方向へ吹っ飛ばした。クリティカルヒットでいつもより遠くへ。
「ふふふ、若い者には負けてられないぞ」
「おーさま、ありがとー」
「気にせんでいい。仲間だろう?」
「なかまっ!」
二人は熱い握手を交わす。
王様と普通の子供との間に友情が芽生えた瞬間であった。
余談だが、あの毛玉による体当たりを受けても尻餅程度で済む。攻撃力ほぼゼロの安全設計となっていた。
それを見抜いたからこそジョンも動かなかったのである。
「にしても、あの魔物は何だ? 見たことも聞いたこともないやつだ」
そんなジョンの疑問にマツが答える。
「もふもふーむだよ。らもちゃんたちのけなんだよ」
ラモビフトの抜け毛で作られたゴーレム、モフモフーム。ムムが密かに集めていたそれを使って産み出されたオリジナルモンスターであった。
意思は持っておらず、適当に転がっているだけでほぼほぼ無害なのが、このダンジョンらしいと言えるだろう。
さて、道を知らない王様を先頭に移動を再開。クリアが目的ではないので、適当に探索だ。
モフモフームの他にも、怪我しないように玩具のような武器の衝撃を完全に吸収する防具を装備したラモビフトや、ウイングモルフのウモが産み出した風魔法の蝶を蹴散らし、快進撃を続ける。
今も王様が現れたラモビフトの頭を優しく撫で撫でして撃退した。
「うむ、楽しいな」
「ぼくもー、わっ!」
テンは三匹のラモビフトに飛び付かれピンチに陥ったが、マツが抱き抱えて引き剥がして逃がす。
ジョンは普通に玩具武器で殴って白い目で見られたりもした。
順調も順調。
だと思われていたが一行に魔の手が迫っていた。
「見ぃつけた……」




