村会議
「それで、どうやってシケボモを説得するの?」
「あやつだけを説得するなら問題はないじゃろう。ああ、見えて情はある男じゃからな」
村長は村を束ねる者として村人の性格もよく見ていた。一見して自分勝手で軽い性格なシケボモの隠された優しい芯も年の功により見抜いていたのだ。
「では、俺が追って説得してこよう」
名乗り出たのはウウだ。彼のムキムキな筋肉は見かけ倒しではない。一人でも低級な魔物は倒せるし、体力もある。ムムの父親でもあるから説得にも熱が入るだろう。適任と言える。
「よし、任せたぞ」
「おうよ」
時間がないので村長は即決した。
ウウもそれがわかっているので、話し合いは残る村人に任せ、家に戻る。すぐに旅支度を整えて村から発つことだろう。
気を付けてね、と、それを見送ってから、ミミが気になったことを村長に訊ねた。
「で、村長、あやつだけってどういうこと?」
「うむ、シケボモのツテとは町に嫁いだツトのことなのじゃよ」
「なるほどね」
ミミを初めとして、村人達は顔を曇らせた。
ツトは三度の飯よりお金が好きなタイプで、村に住んでいた頃はお金ばっかり数えていた。おかげで計算力は村一番で行商相手によく値切っていたものだ。
移住してきたシケボモとも金の話で意気投合していたのでその繋がりだろう。
ツト自身にはダンジョンコアを売る力はない。しかし、彼女の嫁いだ家が問題だった。
ウシゴ家は有力な商人の家だ。ダンジョンコアだって喜んで買うだろう。既に、シケボモが接触して場合にはウシゴ家も説得せねばならないのだが――。
「望み薄ねぇ」
困ったわね、と、ミミは腕を組んだ。
ムムの話を聞いた限り、ダンジョンコアとはかなりのお宝だ。シケボモの行動の早さもそれを裏付けている。
ウシゴ家にとっても魅力的な商品となることだろう。
ムムの命がかかるとなればツトはギリギリ説得できるはず。
だが、ツトの旦那のウシゴ家の長男ウゴヨクが無理なのだ。
彼も金が大好きな人間だ。好きすぎて、金のためなら手段を選ばない男と巷で評判である。悪い噂話はいくらでも耳に入ってきた。
さらにタチの悪いことに商才があるらしく、ウシゴ家はさらなる発展を遂げてる。諦めるよう言って下手に機嫌を損ねれば、行商を止められるなどされ、カナィド村など簡単に干されてしまうだろう。
ウウがシケボモに追い付いてくれるか、門前払いされていれば助かるのだが、それをアテには出来ない。ムムの為にも最悪の事態は想定しておくべきだ。
「皆の者、ウシゴ家を穏便に説得するための案は何かないかの?」
村長が案を募るも誰も答えられないでいた。村もムムもウシゴ家から守るのは至難の技なのである。
皆が頭を悩ませる中、ムムが名案を思い付いた。
「盗賊に盗まれたことにしちゃうとか?」
何人かの村人が感心するも、村長には「それも一応手じゃが、かなり危険じゃな」と切られてしまった。
なぜ危険なのか首を傾げると、ミミがバカねぇと説明してくれた。
「あのね、ムム。ダンジョンコアは滅多に手に入らない貴重かつ有用な石なのよね?」
「うん」
「それが奪われました、はい残念ですね、ってなると思う?」
「……ならないかも」
盗賊相手ならダンジョンに挑むよりも安全だし、多くの冒険者を雇うだけの大義名分がたつ。そしてウシゴ家なら雇うための金もある。
まず間違いなく討伐に赴くだろう。
しかし、盗賊の影も形も痕跡すら無いのだ。
「ヤバい。うちの村が嘘流したってバレて報復されそう」
「そういうこと」
「こりゃダメだねー」
孤立しても一致団結すればなんとかなるかもしれないが、被害が出ないに越したことはないのでナシだ。
やはり事情を説明した上でダンジョンコアに匹敵する利益を出す何かを売ることが一番なのだが、生憎、村にそんな価値があるものはダンジョンコアしかない。
「うー、何かないかなー」
ムムのおつむではこれ以上の案は出てきそうもない。
そんな時、袖をくいくい引かれた。
「あら、マツちゃんどうしたの?」
「テンがねむってひまなの!」
見れば、母親の膝の上でテンがスヤスヤ寝ていた。あれを絵にして売ればダンジョンコアだって目ではない。
ただし、村人の絵の実力では技術不足だ。ウゴヨクにゴミだなと踏みにじられるのが関の山である。
「って、踏むなぁ!」
「ムムねーちゃんこわれた!?」
「あっ、大声だしてゴメンね」
「いいよ。ムムねーちゃんたいへんだもんね」
ライバルだがやはりマツも優し可愛い。健気に気を使ってくれるマツにほっこりとした。
「ムムねーちゃんだんじょーするんでしょ?」
だんじょーはおそらくダンジョンなのだが、ダンジョンするとは何事だろうか。
ダンジョン運営だろうか。いや、さすがのマツでもダンジョンのことはよくわかってないはず。知ったかぶりなのだ。
「うーん、やろうかやらないか悩んでるんだよねー」
「やっぱりねー」
それでも可愛いので話を合わせると、マツはふんすと物知り顔をした。可愛い。
「それ、いいかもね」
「え?」
そこへ、なぜかミミも乗ってきた。
「光明が見えたかもしれないわよ」
ムムもマツも村長達も、彼女が何を思い付いたのかはわからない。
ただ、ニヤリと笑うミミはなんだか頼もく見えたのだった。




