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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
二章 ダンジョン準備
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 天使と悪魔の親玉。それが彼らの正体だった。翼も魔力も何もかもを抑え隠していたため、誰も今の今まで気付けなかったのだ。


 だが、彼らはそれを解き放った。

 露になった美しい翼、溢れる魔力、そして隙のない佇まい。どれをとっても規格外の貫禄があった。まさに格が違う。

 ムムがいくら束になっても敵わないだろう。


 まぁ、そんなことで気後れするムムでもないが。敵視されたり威圧されたわけでもないので、求められたまま素直に握手する。


「ムム!?」


 ミミが迂闊な娘に慌てたがもう遅かった。


「チャクマさん、よろしくー」

「おう」

「天使長さんも、よろしくー」

「よろしくです」


 万力を込めて握り潰される、なんてことはなく普通の握手。空気も和やかだ。

 ミミの慌て損である。


 そもそも彼らはケンカを売りに来たわけではない。


「さぁ、挨拶は済んだな。持て成せ!」

「リゾートとやらの実力を魅せてもらいましょう」


 来訪の目的はリゾートなのだ。好んでいさかいを起こすつもりはなかった。


 そんな彼らの思惑を知るはずもないミミがどうすんのよとムムに視線で訊ねた。目的がわからない以上、まだ未完成だからと拒否した方がいい、と。


「こっちが入口だよー」

「おう、地下タイプか」


 ミミはそんな思いを眼力に込めたが届かなかった。というか、そんな複雑な情報が目一つで飛ばせるはずがなかった。


 任せて、と逆に意気込んだムムは二人を引き連れ階段を降りていく。

 置いてかれかけたミミは慌ててテンと一緒に続いた。


「こりゃ、オーソドックスだなぁ」


 興味深げに壁やら階段の先やらを窺っていたチャクマはそんな感想をもらした。

 彼もダンジョンマスターであるから見慣れた光景なのだろう。


「ダンジョンらしさって大切だから残してってお母さんやツトに言われてるからねぇ」


 ムムとしても、もっと可愛らしいキノコとか野草とか色々生やしたかったが却下されてしまっていた。

 せめて若い茎が柔らかくて美味しいダダイッケという竹の一種をお願いしたがそれもダメであった。おそらく、ヨダレをたらしかけていたのが敗因である。


「それよりも温泉はまだですか? あるんですよね?」

「あるよー」


 天使長の一番の楽しみは薬湯らしい。まだかまだか、と、そわそわしていた。

 ムムとしても入るのは好きなので、その気持ちはよくわかる。

 だがチャクマは違うらしい。


「湯に浸かるなんて軟弱だな。漢ならマグマに限るぜ」

「さすが悪魔ですね。繊細さがありません」

「のワリには温泉とか言ってんのな。ここにあるのは薬湯だぜ」

「なっ!?」


 たしかに、ここの湯はマルモフモの毒を薄めたものだから薬湯の方が正しい。

 些細なことなのでムム達はスルーしていたが。


 チャクマに指摘されてしまった天使長は「細かいですね」と口を尖らせた。全く可愛くない。


「男がそんな顔しても可愛くねぇぞ」


 それも口にしてしまうチャクマである。

 だが、二人は険悪そうではない。友人のじゃれあいのようだ。


 ――まるでお父さんがお母さんに苛められてる時ような……。


「うん、これは違うね」

「今なんか変なこと考えてたでしょ」


 ミミに察知されてしまったムムは話題逸らしにかかった。


「ねぇ、二人は仲いいんだねっ」

「良くありませんよ」


 天使長は否定するが嫌そうではない。前にやってきたおっさん天使とおっさん悪魔は険悪そのものだったので不思議だ。

 ムムがそれを口にすると、チャクマは「それなぁ……」とめんどくさそうにした。


「ぶっちゃけた話、こいつのダンジョンとは客層違うから争っても意味ねぇんだがな。人間に三大ダンジョンって括られちまってるせいか、ライバル意識があるみてぇなんだよ」

「末端の者であればあるほど、それは顕著なんです」


 天使長がため息をついた。

 彼も頭を痛めているようだ。


「潰すんなら仙人のジジイの方にしなさいって感じです」

「黒い……」

「そういや、仙人のジジイとは仲悪かったな」

「当然です」


 チャクマはケラケラ笑った。

 天使長は澄まし顔だ。


「まぁ、あんな様になってしまったのは同情しますが」

「あんな様?」

「聖人に討伐されてしまったようなんです」

「それって――」


 ダンジョンコアを破壊されたということだ。

 つい想像してしまったムムは動揺してしたが、両手を優しく包む感触ですぐに気持ちを持ち直した。


「お母さん、テンくん、ありがと」


 こそっと両手を握ってくれたことに感謝だ。ミミはにこりとしてからそっと離れ、テンは握った手をブンブン振りまわしてそのまま階段を降りていく。


 幸いにもこの一連の流れに客二人は気づいてないようで、仙人のジジイとやらの悪口を言い合って盛り上がっていた。


 それからしばらく言い合って満足したのかチャクマはふーっと笑いながら息を吐く。すると急に真面目な顔をした。


「でも、あいつがくたばるとは思えねぇんだよなぁ」

「同感です。どこぞへ生き延びていそうです。そういえば、このダンジョン、あのジジイの臭いがかすかにするような……」

「私のダンジョン、ジジ臭いってこと!? お母さん、やっぱり美味しい(・・・・)キノコとか生やそうよ!」

「ダメ」


 つい本音が出てしまったため、即座に却下されたムムであった。

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