天才
忙しいのでしばらくは亀更新となります。
「ダンジョンレベル5かぁ」
ダンジョンの最も奥にあるコアルームにて、ムムは唸っていた。
何もない空間を睨んでいるように見えるが、そこにはダンジョンマスターにしか見えないディスプレイがある。
魔力をポイントで表示したり、ダンジョン内をリアルタイムで映せたりと、 様々な情報を確認できるので便利な代物だ。
ムムが今見ているのはダンジョンの成長度合い。
先日の事件にて大量の魔力を得て、2から5へとレベルアップしていた。
そのお陰でやれることは増えるのだが、動力源となる魔力はそんなに貯まってないので出来ることは増えていない。むしろ維持費が増えてしまったので減ってしまったと言えよう。
――どうにかポイント集めなきゃ。
今は村人から少しずつ魔力を分けてもらっているがこれだけでは足りない。ダンジョンを拡張するなら新たな魔力源の確保は必須だ。
そこでムムが目をつけたのが父ウウだった。今は二層でダンジョン拡張のため、2000ポイントで作った特殊なツルハシでせっせと岩壁を砕いているようだ。
その傍らにウウの生首が転がっているのだが。
「ねぇ、お父さん」
さっそくそこへワープしたムムは落ちている生首に臆することなく話しかけた。
「お、どうした?」
「やってもらいたいことがあってね」
見てわかる通り、今のウウは魔物だ。
首を落とされた筋肉の亡霊マスルハーンをベースに、ラモビフトのふわふわな体毛が生えており、生首はウウ。さらに耳が左が天使で右が悪魔の羽となった、かなりあれな見た目の合成魔ウウハーンなのである。
とは言え、性格は死ぬ前と変わっていない。ムムからすればムキムキがさらにパワーアップしたぐらいのもの。それも慣れてしまえば違和感はない。ウウはウウ。ムムの認識はその程度であった。
「暇な時、これ回して?」
「おう」
そんな父に手渡したのはハンドルを回すことによってダミーコアに魔力を貯められる装置だ。なけなしの八万ポイントを使ってコアより作成したもの。
「これでポイントうはうはーっ」
上機嫌なムムであったが、この装置の変換効率はそんなに高くない。使った八万ポイントを回収するのに三ヶ月もかかるとは夢にも思っていなかった。
これで魔力問題を解決できたと思い込んでいるムムはラモビフト広場へ足を運んだ。
ここは草原となっており、緑の匂いに満ち、太陽の光が暖かい。
そんな環境で、テンとマツとラモビフト達が追いかけっこをしていた。
五才児と、小型のもふもふな魔物が遊ぶ姿はとても可愛らしく、見ているだけで癒される。
だが、見ているうちに混ざりたくなってくるのがムムである。
体を動かすのが大好きな十五才はムズムズとする足の主張に身を任せた。
「私もまーぜてっ!」
「あっ、ムムおねーちゃん! いいよっ」
「ムムおねーちゃん、こんにちは! あそぼーっ」
にぱっと向けてくれた笑顔は太陽にすら劣らず輝かしくて眩しい。まさに天使だ。テンは勿論、ライバルのマツも天使だ。
そこに混ざる自分も天使かと勘違いするぐらい天使だった。
だが、ムムはあくまでダンジョンマスター。天使ではない。勘違いも甚だしいだろう。
そんなムムが天使に不幸を呼び込んだ。
「あっ」
駆け寄ってきていたテンが足を滑らせたのだ。ムムに気を取られたのが大きな原因である。
そのまま、すってんころりん。草の上で一回転。
さらに運の悪いことに終点には日向ぼっこ中のラモビフトがいて、テンの頭突きが炸裂してしまった。
「テンくん!? ラーザレス!?」
「テン! ラモちゃん!」
「うぅ……」
「フンフン……」
幸いなことに大事には至らなかったが、テンは膝とおでこを擦りむき、ラモビフトは垂れたウサ耳のようなラモ耳を怪我してしまっていた。
テンは今にも泣きそうだが、必死に涙を堪えている。そして、ぶつかったラモビフトを一生懸命に撫でて慰めようとしている。優しい子だ。
軽傷だろうが治るなら早い方がいい。こんな悲しい顔をさせてはいけない。
「ラギリに診てもらおう!」
ムムはカナィド村で唯一の治療師を頼ることにした。
そうと決まれば早速とばかりに一人と一匹を抱える。腕力も魔力でブーストされているので軽々だ。もちろん脚力だって凄い。ラギリがどこにいるかは知らないが、村中を走りつくして探し出すつもりだった。
「おねーちゃん、まって?」
そんなムムを止めたのはマツだ。
進路上で小さな両手を広げて妨害している。
らしからぬ行動だ。彼女は賢いので状況を把握していないわけではないだろう。
ならどうして止めたのか。
「みせて?」
「え? でも」
「みせてっ」
困惑していたムムであったが、ますます困惑した。
みせて、とは、診せて、だろう。
小さい子なら治療師さんごっこをやりたがるものだが、マツに限ればこの状況でそれはあり得ない。
そこでムムはふと思い出した。
マツは日頃からラギリのお手伝いでラモビフトのお世話をしている。それで何かを知っているのかもしれない。
確証は無かった。しかし、マツがこれだけ強く言うぐらいなのだから絶対に何かあるのだろうとムムは考え、抱えていたラモビフトをそっと草原に降ろしてみた。
マツはラモ耳をじっと見つめてから、小さく頷いた。
「マツ?」
「ちいさな、おきずさん、なおって? ひーる」
たどたどしく、呪文のようなものを唱えたかと思えば掌が光った。それは淡い光だったが間違いなく魔法。それも心地よさからして回復魔法だ。
その証拠に、ラモ耳の怪我がゆっくりと塞がっていく。
「え? え?」
「すごーい……」
ムムが驚き、テンが感心するのも無理はない。
カナィド村で魔法を使えるのは先のラギリと、ダンジョンマスターのムムの二人だけ。
そう簡単に使えるものじゃないのだ。
普通は聖王都や四王都で才能を確かめられ、有ると認められれば学校に入学。そして数年の修行を経てようやく発動できるようになるもの。ムムのような例外は別にしても、それだけ困難なのだ。
にも関わらず、マツは発動してラモビフトを癒してみせた。
「まさかマツは天才?」
ムムは驚く一方で、ライバルだからこれくらいやってもらわなきゃね、という謎の上から目線なことを考えていた。
テンを巡るライバルとして負けられない、とも。
ちなみにムムが使える魔法はダンジョンコア絡みのみである。
他の普通の魔法は一切合切使えないので、勝ち負けであれば普通に負けではないだろうか。




