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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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ウイングモルフ

 ムムは運ばれながらも、いや運ばれているからこそウイングモルフの勇姿を全て見届けることができた。


 巨大な羽より風の刃を繰り出し、孤軍奮闘。

 だが、トバズ盗賊団を倒すには至らないかった。

 風の刃の嵐を潜り抜けられ、徐々に傷が増えていく。


 高く飛べば逃げられるが、それはできない。トバズ盗賊団は隙をついてダンジョンに向かおうとするのだ。風の刃だけでは手数が足りず、その巨羽でもって進路を妨害する。

 敵はそこを狙って攻撃してくるので、また傷が増えていった。


 それでも足止めは成った。

 代償はあまりに大きいのだが。


「そこだ!」


 ついにリーダー格の男の剣による命へ至る一撃がウイングモルフの小さな胴体に差し込まれた。もはやそれまで。

 最後の足掻きに羽をやたらめったら振り回したが、距離をとられて不発に終わった。


「ウモくん……」


 ムムが小さく名を呼ぶと同時に光の粒子となって完全に消え去ってしまう。沸き立つ盗賊団とは対照的に静かなものであった。




 こうして大切な仲間をまた失ってしまったムムだが仇をとるつもりは毛ほどもなかった。

 ウイングモルフがそれを望むか望まないかはわからない。

 だったらダンジョンマスターとして信念を曲げるべきではないだろう、と。


「私、あなたに助けてもらった命で頑張るから」


 入口のあるボロ小屋でようやく降ろしてもらったムムは涙をこぼしながらも決意を口にした。


 すると、階下から一羽の巨大な魔物が顔を体ごと覗かせる。

 見覚えのある魔物だ。


「あれ?」


 見間違えかと思って涙を払うも、やはりそこにいた。


 ウイングモルフだ。


 でも、それはおかしい。ウイングモルフは一体しか召喚していないし、召喚できるのもムムだけ。野生の個体を連れてきたわけでもないだろう。

 つまり――


「ウモくんなの?」


 まだ半信半疑だったムムにウイングモルフは優しく体をすり寄せた。もふもふとした羽毛は紛れもなく本物。幽霊なんかではない。

 感触も体温も匂いも全部知っている。この世に一体しかいないであろう。


「ウモくんだ!」


 ムムは喜びが速度へと昇華したかのように高速で顔を擦り付けた。あまりの勢いに熱で煙が出たぐらいだ。

 その程度で火傷を負うムムとウイングモルフではないのだが。


「生きてたんだ。よかったぁ。でもどうして助かったの?」


 ムムは確かに貫かれた姿を見た。

 あれはなんだったのか。

 しかし、ウイングモルフは教えてはくれなかった。そもそも喋れないので教えたくとも教えられない。


 このまま謎は解明されないかと思いきや、答えは別のところからやってきた。


「なぁ、さっきのウイング・モルフって風分身だったんじゃ?」

「それっきゃないだろ」


 後ろから聞こえてきたラギリとシケボモの会話だ。


「え? なんか知ってるの?」

「知ってるもなにもだな……」

「歩きながら話そう」


 入口に居たままでは危険ということで、奥へ歩きがてら、ラギリがウイングモルフの戦闘方法について教えてくれた。シケボモは説明能力が疑われるので黙ってもらった。


「ウイング・モルフが風を操れるのは知ってるな」

「うん」


 でなければあの巨体を浮かせることが困難なことはムムでも知っていることだ。


「なら、魔力をその風に乗せることができるのは?」

「うん? 魔力で風を操るんでしょう? 風に魔力が乗るもんじゃないの」


 魔法でなければ風を操るなんて到底無理だ。流れを読んで利用するのが限界だろう。


「それとは別の魔法を乗せられるんだ」


 斬撃だったり、毒だったり、幻覚だったり。ウイングモルフがランク5に区分されるほどの強みはここなのだ。


「さっきのウイングモルフはどうだった?」

「うーん? 本物ぽかった」


 ぽかったと言っているが完全に騙されていたムムである。


「おそらく、あれが風分身なんだ。自分を象った風に姿を映す魔法と、質量を持つ魔法を乗せている。さらに風の体を削って風魔法まで放てるときた。よほど魔力関知能力が高くなければ偽物だとは見破れないな」

「ウモくん、凄いんだー」


 誉められたウイングモルフはどことなく嬉しそうに羽ばたいた。


「でもさ、なんでさっきそれを教えてくれなかったの」


 これでは涙損ではないか。ムムは頬を膨らませる。


 コアから知識を与えられたと言っても所詮は付け焼き刃。閲覧しなければなにも知らない素人だ。魔物の戦闘スタイルなんて記憶しきれているわけではない。


 ウイングモルフだって、召喚可能な高ランクでもふもふが可愛い魔物がいないかと知識で検索して見つけて選んだのだ。戦闘スタイルも目を通しはしていたが当然覚えていなかった。


 ムムの落ち度であるかないかと問われれば、ムムの落ち度である。

 そもそも――


「いやいや、ラギリが今言ってたろ。ウイング・モルフの風分身は見破れねぇよ!」

「あぁ、だからこそ強いんだ」

「私にもさっぱりだったわ」


 この三人で見破れるのは、ダンジョンマスターであるムムだけ。シケボモはもちろん、治癒魔法が使えるラギリでも実力不足だ。


「うー……って、今、お母さんの声がしなかった?」

「いるもの」

「いつの間に!?」


 いつの間にかミミが合流していた。

 実のところ、テンを避難させた後、心配で入口付近にいたウイングモルフの後ろで待っていたのだ。


「それって……」


 ムムは顔を青ざめさせた。

 記憶が確かなら入口で――。


「『私、あなたに助けてもらった命で頑張るから』からの感動の再会は面白かったわよね。皆に話さなきゃね」

「やーめーてーっ!」


 ケラケラ笑うミミに飛びかかるムムであった。

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