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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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犠牲

「じゃ、ラギリ指示だして」


 つい数秒前に決めゼリフを口にしたムムだったが、あっさり指揮をラギリに投げた。

 ぶっちゃけた話、素人なのでどうすればいいのかわからなかったのだ。

 それならまだ現役であるラギリの方が適役であろう、と。


 そして、その考えは最善だ。

 ラギリは元々治療師であり、戦闘行為は最低限しかしない。では、戦闘中怪我人が出るまで棒立ちかというと、そんなことはない。

 援護をしていたし、戦況を見ながら指示を出してもいた。


 彼の得意分野なのだ。

 そんなラギリが分析する。


 なにやら相手は怪我をしているが、それでも戦力の差は歴然だ。

 ただの野盗ならまだしも相手は元騎士達。今も訓練しているらしく練度は高い。囲まれるどころか一人がそれぞれ二人相手にしただけで敗北は必死だろう。六人に接近されたら確定で負けなのだ。


 となれば、残された手段は二つ。


「~~加護を」


 ラギリは小さな声で魔法を唱えた。

 すると三人に強めの明かりが纏うように灯った。

 端から見れば、全員の何かしらの能力が強化されたように見えるだろう。


「ムム、石を投げてくれ」

「ほーい」


 それを証明するかのように、指示を受けたムムが石を拾って思いっきり投げつけると、アースバレットのごとき石の弾丸がトバズ盗賊団を襲う。


「むんっ」

「避けろ!」

「甘いんだよ!」


 だが、敵もさるもの。直線的な単発攻撃で、距離もあったのでかわされてしまった。


 だが、これでいい。

 強烈な先制に相手の足は鈍ってくれた。そもそもムムは敵の命を奪うことは望んでない。

 このまま遠距離攻撃で相手の動きを制限して時間を稼ぐだけでいいのだ。


「~~~~~~っ! 光擬散弾ライトショット!」


 ムムが追加で投げていく石に合わせて、ラギリも光の弾丸を礫のように放つ。狙いは相手の足元。

 進路を見事に妨害したことにより、相手集団の足は完全に止まった。


 ムムは上手く事が運んだことにほくそ笑んでいたが、相手もまた笑みを浮かべていた。


「近づかせないつもりかな」


 リーダー格らしき男が静かながら通る声で問いかけてくる。


「いや、厳密には時間を稼いで仲間をダンジョン《・・・・・》に避難させるためだろう。悪にしては仲間想いだ。加点三」


 だが、答えを聞くつもりはないようで一人でべらべらと喋っている。狙いがわかっているのにそうするのは自信の現れだろう。

 カナィド村にはとってはありがたいことだが、ムムは薄気味悪さを感じていた。ウゴヨクとは別種のものだ。


「だがね、我らが仲間を葬ったことで減点百。我らを盗賊団と宣ったのも減点二百。そしてトバズ救騎士のフリをして貶めたから減点一万、合計零点だ」


 仲間の命よりもトバズ救騎士という名前の方が大事らしい。ちゃんちゃらおかしい、と、思いつつもムムは空気を読んで言わなかった。挑発するのは得策ではない。植物系魔物であるマルモフモでもわかることだ。


「仲間より誇りか。バカらしい」

「なに?」


 シケボモはわかっていなかったが。

 男の雰囲気が剣呑なものへと変わる。


「誇り無き正義など悪だろう。真の騎士であるからこそ正義は正義の意義を持つのだ!」

「いや、お前ら騎士じゃないだろ?」


 この一言で男はぶちギレた。

 議論は無駄なようだな、と、口では冷静ぶっているが怒りで目が見開いていた。


「遠距離攻撃はそちらの専売特許ではないぞ! 放てぇ!」


 後衛の集団から矢が飛んできた。さらに魔法を使えるものも一人いるようで土の弾丸が放物線を描いて三人に向かう。


「この程度なら!」

「ふんぬぁ!」


 シケボモは二人の前に立ち、直撃コースの矢を斬り捨てた。

 さらにムムが女子にあらざる掛け声と共に投げた石が敵の石の弾丸を弾いた。


「あ、ラッキー」


 まぐれである。


「ぼさっとするな! 近づいてくるぞ!」

「させるか! 光擬散弾ライトショット!」

「うわわっと!」


 敵の攻撃はそれで終わりではない。味方の援護射撃に合わせて前衛が突っ込んできていた。

 ラギリが詠唱を完了していた魔法を発動させ、光の礫で牽制し、シケボモに怒鳴られ慌てたムムも石を拾って投げつける。


「二手に別れたかっ。引くぞ」


 トバズ盗賊団の中程にいた残りがこの場から離脱するのをラギリは見逃さなかった。挟撃されないため、撤退を選択した。




 全力で家の少ない方へ迂回しながらもダンジョンに向かって走る。


「これからどうする? もう戻る?」

「少し早いがこれ以上は危険だな」

「待て! 一人詰めてきてるぞ!」

「賊を逃がすと思ったかぁッ!」


 それはリーダー格の男であった。

 苦し紛れにラギリが光の散弾を放つ。


「タネは割れている!」


 だが、ラギリの放った光の弾を避けずに突進してきた。ことごとくをその身に浴びるがリーダー格の男は傷一つ負っていない。


 それは当たり前だ。

 ラギリが放っていたのは威力を極限まで弱めた回復魔法。発射することで威力はさらに減衰し、擦り傷さえも癒せない無意味な魔法となる。


 ただ、見た目の構築だけはしっかりとしており普通の光弾にしか見えなかっただろう。それを自信満々に牽制として撃つことで、回避を誘っていたのだ。


「先程、威力を確かめるために鞘で弾いてみたのだ。手応えの無い虚仮威こけおどしだったとは、騙り、闇討つ、貴様達らしいなぁッ!」

「ちっ、このままじゃ追い付かれちまう!」


 ムムの見立てでは、あの男はシケボモよりも強い。三人がかりでも勝てるかは怪しい。

 加えて、他にも追手はいるのだ。戦えばたちまち追い付かれて袋叩きにあうだろう。


 かといって、このままではダンジョンに辿り着くまでに追い付かれてしまう。絶望的だ。

 この状況を打開するのは三人には不可能だった。


 そう、この三人では。


 可視化するほど密度を増した風の刃が男の胴体目掛けて裂かんとする。


「くっ!」


 男は正面からそれを斬り伏せた。さすがに無傷とはいかず、脇腹のあたりの鎧が裂けて血が滴ったが、まだまだ闘志は衰えていない。

 それどころか、更なる奇襲により燃え上がっていた。


「次は魔物か。卑怯なやつめ」

「ウモくん!?」


 視線の先にいるのは巨大でモフモフな蝶型の鳥、ウイングモルフ。ダンジョン最強の魔物だ。


 援軍としては心強いがムムが呼んだわけではない。むしろ来て欲しくなかった。


 ウイングモルフは高く飛び上がり、幾重もの風の刃を繰り出す。


「ダメッ!」


 ムムの悲痛な叫びは届かない。

 それにもう手遅れなのだ。ウイングモルフの羽の先が光の粒子となって消えつつあった。


 ダンジョン産の魔物や道具は、一定の条件を満たさぬ限り、外には出られない。ムムがウモと命名したウイングモルフも満たしていなかった。

 無理矢理出てしまったら体の構成が崩れて魔力へと戻ってしまう。


「ムム! 逃げるぞ!」


 今、盗賊団は新手のウイングモルフに意識を向けている。逃げるチャンスは今しかないだろう。


 だけど大切な仲間を置いていきたくない。ムムは慰霊碑へ新たに刻みたくなかった。


 そんなムムの頬をシケボモがはたく。


「あいつの想いを無駄にするな!」

「でもっ」

「あいつは自分の意思でお前を守った。ならお前は守れるものを守らなきゃいけねぇだろう!」

「だからウモくんだって守るよ!」


 絶対に守りたい。

 だが、それは叶わなかった。


「すまんな」

「いくらでも恨んでくれ」


 シケボモとラギリが結託し、ムムは担いで走り出したのだ。

 本気で抵抗すれば脱出は可能である。しかし、怪我をさせてしまう。


 この状況ではそれが命に関わる。

 ムムは運ばれながらウモの最期を目に焼き付けるしかなかった。

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