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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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残酷な現実

  「大成功だったね!」


 家に戻ったムムは踊りださんばかりに喜びを露にしていた。

 最後にテンが「ぼくもおふろっ」とゴネて、連れていくしかなくなったのは焦ったが、それ以外は完璧だったろう。


 あれだけ気に入ってくれていたのだ。ギルドにいい報告をしてくれるはず。

 そして安全で善良なるダンジョンとして認定。観光客が増えてみんな笑顔。


「最終的にゴールイン……」


 二人の天使が村の皆に祝福される姿を想像して、うひょー、と、ムムは床を転げ回った。


「飛躍しすぎでしょ」

「みぎゃっ」


 そして母ミミに踏まれた。

 今のムムはそのぐらいではテンションは下がらないわけだが。

 それどころか追加の燃料となるものを目敏く見つけた。


「おやおやー? お母様のお手にあるそれはなにかなー?」


 お肉だ。ミミも今回の成功を祝おうと熟成させていたお肉を持ってきていたのだ。

 しかも、老いたリトワニの肉ではなく、山で仕留めたぶたこびっとのお肉。御馳走である。


「わーい! お肉! お肉!」

「うざっ」


 足の裏で暴れまわるムムだったが、その幸せは長くは続かなかった。


「おい! いるか!」

「ん、どした?」

「お肉がいるよ!」


 やってきたのは村のおじさん。息を切らしていた。急いでいるようだ。


 いまだに踏まれているムムを見て、少しぎょっとしたが、すぐに立ち直った。それだけ火急の用事なようだ。


「ギルドから派遣されったていう冒険者がやってきたぞ!」

「ぬぅえええぇ!?」


 寝耳に水である。だがそこでムムは考えた。

 さっきの冒険者が正体を現したんじゃないかと。

 実は俺達ギルドからの差し金だったんだごめんな、を期待したのである。


「べっぴんさんな方々だ!」


 違った。さっきの男達はむさ苦しかった。あれをべっぴんと表現するならウウすらもべっぴんになりかねない。絶対にあり得ないだろう。


 それはそれとして詳しく話を聞くと、やってきたのはついさっきのことで、三人組の女性らしい。ギルドカードに記載されているランクは6とのこと。

 ダンジョンのことも知っていたらしいので、ギルドから派遣されたのは間違いないようだった。


「じゃあ、あの冒険者はなんだった!?」

「本当に魔物を狩りに来た冒険者なんじゃない?」


 勘繰りが過ぎたのだ。


 それでも一般的な冒険者の体験サンプルとして有用だし、事前に練習できたので大きなプラスである。


 ムムは、次もうまくやってもっとお肉を食べるんだ、と意気込んだ。


「じゃあ、私は村長の家に行ってくるからあんたは残りなさい」

「うん。わかった。お肉は預かるよ」


 両手を差し出したが、そこにお肉はやってこない。

 なぜ、こないのか。首をかしげるムムにミミから無情な宣告がされた。


「お肉はもう少し熟成させるから」

「そんな……」


 それは御預け。ギルドへのお披露目成功は勘違いだったのだから御馳走は撤回なのだ。


 一般冒険者への初披露は成功したんだよ、とムムは主張したが、ミミはお肉を持ったまま出掛けてしまった。


「じゃあ、俺もここで――」

「待って」

「ひっ」


 取り残されて気まずそうにしていたおじさんの足首をゾンビのように虚ろな瞳となってしまったムムが掴んだ。


「あのね、一つ聞いていい?」


 ムムには気になることがあった。これに答えられるのはおじさんだけ。答えてもらわねば夜眠れなくなりそうなのだ。


「あ、あぁ、いいぞ」

「えっとあのね……」


 あの肉の代わりに取って喰われるわけではなさそうだ、と、理解したおじさんが質問を促すと、ムムはモジモジしだす。

 それは乙女の表情であった。あのガサツなムムが、である。


 小さい頃から知っているおじさんには大きな衝撃であった。

 だが、彼は妻子持ち。いくらダンディーさに惚れてくれても応えられない。いや、ダンディーだからこそ応えてはいけないのだ。


「すまない、ムムちゃ――」

「私と比べてどっちが可愛い?」

「え?」

「だから、べっぴんさんなギルドから来た冒険者さんと私どっちが可愛い?」


 そう、ムムはずっと気になっていたのだ。

 自称ではあるがカナィド村で一番美人な自分は都会っ子とどれだけ渡り合えるのかと。


 テンを射止めるには性格美人だけでは足りないかもしれない。だからこそ、ムムは見た目の可愛さも磨くつもりであった。


「ムムちゃん、そりゃあ……」

「そっか、そっかー!」


 今、おじさんはムムちゃんと言った。なんだか言葉が続きそうな雰囲気ではあったが一番最初にムムちゃんと言ったのは確かだ。

 ムムにはそれで十分だった。


 ――向こうさんの方が若干勝ちって濁そうと思ったんだけどな。嬉しそうだからいっか。


 残酷な現実など知らなくていい。オブラートに包まれてなおムムは敗北するのである。


 おじさんはそっと帰っていった。


 話は最後まで聞きましょう。




 さて、ギルドから派遣された冒険者だが、その日は空き家を借りて泊まることとなった。本来の予定では、すぐさまダンジョンに潜るつもりだったらしい。しかし、ミミ達からの説明を聞いて予定を変更してくれたのだ。

 その際、人間に友好的なダンジョンとまで伝えたものの懐疑的であった。


 ――そこら辺は明日だねっ! おやすみ!


 普通の晩御飯をお腹いっぱい食べたムムは快眠を貪るのだった。


 訪れようとしているそれを知ることもなく。


 明日はムムにとって忘れられない一日となるだろう。

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