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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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来訪者

 二層の改修が順調に進んでいたとある日、四人組の旅人が訪れた。

 彼等は冒険者で、ギルドの依頼で近くに出現した凶悪な魔物を狩るためにやってきたとのこと。


「怪しいよねぇ」


 カナィド村の周辺に他の村はない。

 では、ギルドへの依頼はどこから出たのか。ギルド自身ではないのか。


「私、冴えてるかも」


 自画自賛したムムは、村長を始めとした何人かにそれを伝えた。


「うむ、わしもそう思っていたわい」

「そりゃあ誰が見たって怪しいからねぇ」

「誰でも気付くようなことイチイチ言わないでくれる」

「普通の冒険者にしちゃ装備が小綺麗だからな。討伐ってよりは諜報系だろ。バレバレなあたり、二流っぽいが」


 上から、村長、ミミ、ツト、シケボモの反応である。普通に皆、気付いていた。

 シケボモに至っては根拠がなんとなくカッコよく、ムムの完全敗北であった。




 これは仕事に没頭でもしてなければやってられない。

 ムムは敗北の苦味を忘れるべくダンジョン仕事に精を出していると、マツが伝言を持ってきた。


「そんちょーのいえ、きてって」

「なんだろ?」


 さっき保存食をつまみ食いしたのがバレたかな?


 普通に考えれば明らかあの冒険者絡みなのだがムムは思い付きもせず、まだ残っていた干し肉をモグモグしながら引っ越ししていた村長の家へ向かった。


「あれ? 村長とツト?」


 待っていたのは二人。難しい顔をしている。

 これはいよいよバレたと、ムムは身構えた。口の中のものは既に飲み込んだので証拠はない。


「ムムや、口の横に食べかすがついておるぞ」

「あ、ホントだ」


 今度こそ完全に証拠を食べ尽くした。村長の目は残念な子を見るそれだったが、ムムは怯まなかった。


 目を逸らしたら殺られる。


「やるわよ」

「くっ!」


 いきなりの殺る宣告。


 ――やはりつまみ食いはバレていて、半殺しにされるんだ。


 ムムは退路を確認した。入口は半開きであり、タイムロスなく脱出できそうである。

 腰を浮かし――た、ところで思わぬ言葉が耳を突いた。


「……あんたなんか勘違いしてない?」

「え?」

「あのねぇ、呼んだのはダンジョンの試運転ためよ。形になってきたんだからお披露目するにはいいタイミングじゃない。そしてギルドのやつらに安全なダンジョンだって見せつけるの」

「あ、そーいうこと?」


 干し肉は関係なかった。罪に問われることはないのだ。

 こうしてホッとしたのは束の間だった。


「ムムちゃーん?」


 背後から優しい声でプレッシャーを放ってくる存在を感じたのだ。声は母親のミミと瓜二つである。

 ムムの経験上、ランク5を越える迫力だ。


「ちょっと山走ってくるね! ダンジョンお披露目のための準備運動だからっ」


 もちろん必要のない準備運動だ。


 こうして逃げようとしたムムだったが唯一の出入口を押さえられていたので、仁王立ちしていたミミにあえなく捕まった。


 悲鳴は村中に響き、滞在している冒険者の警戒心が強まったとか。





 ――二層最深部・コアルーム。


 たんこぶをこさえたムムはコアとにらめっこしてその時を待っていた。

 初のお披露目なのでお洒落をしているが、姿を見せる予定はなく無意味である。ただの気分の問題だ。


 部屋には護衛としてウウ、お目付け役のミミ、そしてテンとマツも来ていた。後、ラギリも。


 これだけ集まっているが監視映像を見れるのはムムだけ。他の者は、ムムの動向を見守るしかない。


「おっ、来たよ」


 テンに見つめられるというご褒美に、ちょっとそわそわしつつ監視していると、暗い小屋の中に光が差し込んだ。


 先頭はツトで、後ろに五人ほど引き連れている。四人は冒険者で、最後尾の一人はツトの護衛のシケボモだろう。


「うまくやってる?」

「うん」


 ツトは自分で志願して案内役となった。私でなければ務まらないと大言を口にしただけあって、第一関門であるダンジョンへの誘導は成功だ。


 村の命運は彼女に懸かっている。

 ここから優しいダンジョン(仮)の真価が問われるのだ。


「任せたからね」


 聞こえないとわかっていて呟くと、目があったような気がした。



 ――――――



 ――少し遡り冒険者達が泊まる空き家。


 借り受けた部屋で寛いでいたところにやってきたツトという女性。なんでも面白い所へ案内してくれると言う。


 冒険者達は男四人で、若めの女性がそんな意味深な声がけをしてきたとあれば、想像してしまうのは仕方のないことだろう。

 護衛らしき男がいるのも逆にそれっぽかった。


 彼らは頷きあった。異論は出ない。任務の前に羽を伸ばすのもいいだろう、と。


 そうして鼻の下を伸ばして着いて行った先はボロ小屋だった。


「ここは?」

「ダンジョンよ」

「なんだと!?」

「こんな村中に!?」


 上級者向けの会場かと思いきや、とんでもない単語が事も無げに口にされた。


 彼らは村の中とあって軽装である。武器なんてナイフ程度しか持っていなかった。ダンジョンに潜るには心許ない装備だ。


「お姉さん、悪ぃが――」

「そう警戒しないで。ここは初の安全なダンジョンなの」

「安全?」


 ダンジョンが魔物だというのは冒険者の間でほぼ常識である。魔物とはその多くが人を襲う。ダンジョンだって例には漏れない。


「騙そうったってそうはいかねぇぜ」

「そうだ! そうだ!」


 信じられるはずがなかった。しかしツトにも言い分はある。


「騙すつもりなら何も言わずにこの中へ連れ込んだわよ」

「そりゃ、そうかもしれないが……」

「ダンジョンってのが嘘なんじゃねぇか?」


 彼らの中に魔力を感知できる者はいない。ただの洞窟をダンジョンと偽れるのだ。


「そんなことしても私には利益がないわ。まぁ、百聞は一見に如かず。私が先頭でいいから入りなさいな。怖くなったら逃げてもいいから」

「人を臆病扱いすんな!」


 一人の男が吠えた。そして残る三人が吹き出す。

 ツトは明らかに吠えた男にむかって最後の一言を言っていて、その男は四人の中で一番の臆病者だったから。


「よし、人を見る目がありそうなお姉さんに騙されて見ようじゃないか」

「そうだな、安全なダンジョンとやらが楽しみだ」

「嘘だったらたっぷりサービスしてもらうぜ、うひひ」

「お前ぇら勝手に決めてんじゃねえよ! 後笑うな!」


 賛成が三に反対は一。決まりだ。


「では、ごゆっくりどうぞ」


 ツトはボロ小屋の扉を開いたのだった。

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