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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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拡張工事

「ふんぬ!」


 筋肉。


「とわっしゃあ!」


 筋肉。


「これはムムの分だぁ!」

「お父さん、真面目にやって」


 筋肉と膨れっ面の娘。

 ダンジョンの二層は絶賛筋肉祭りだった。


 彼等が汗を飛ばしながら振るうはツルハシ。それもただのツルハシではない。2000ポイントで作成した、ダンジョンを掘ることに特化した魔法具であった。


「てぇーい」


 それをひと度壁に打ち付ければ、非力なテンであろうとも壁を砕ける。ラモビフトが通れるぐらいの通路なら作れてしまう。

 そして、ムムが天使の頑張る姿に胸キュンしてしまう。


 では農作業や山仕事で鍛えた筋肉ならどうなるか。


「母ちゃんもムムも愛してるぞぉ!」


 ウウが、娘の一転した冷たい視線に晒されながら、全力でツルハシを振るうと壁が爆ぜた。

 半歩進めるぐらいは掘れたであろう。

 飛び散る破片の中、どうだとばかりにウウがキメ顔を見せるが、ムムは見ていない。


「あ、ツト」


 降りてきたツトに対応していたのだ。

 ウウは少し落ち込みつつもツルハシをもう一度振るった。さっきよりも掘るスピードは落ちていた。


「順調?」

「うん、これ凄いよ。山で浅芋掘るより簡単! ざるんっ、といけるんだよ!?」


 ムムが何気なく持っていたツルハシを振るうとウウ以上に壁が削れた。まるで土砂崩れである。

 これはダンジョンマスター補正なので他の人には真似出来ないだろう。


「……例えがさっぱりだけど、それはよかったわ」


 ツトはムムと違って野生児ではない。山中の地面の浅いところに埋っている浅芋なんて知らないのだ。

 何はともかく、人力によるダンジョン拡張は成功だ。これによりポイントをかなり節約できる。


「それで、そっちのテストはどうだった?」

「問題なく稼働してるわ」

「そ。じゃあ、次は新しい魔物の召喚かな?」

「そうね」


 今まではポイントを使い込んでいたので、コストの低いラモビフトだけしか召喚してこなかった。


 だが、ポイントを節約した今ならもう少し強い魔物も召喚できる。

 ラモビフトに不満があるわけじゃない。彼等は理想のもふもふの一つだ。


 けれど、新しいもふもふがいたっていいじゃないかということである。

 それに強い魔物であれば自衛だって可能だ。あの時のように虐殺されずに済む。ダンジョンを守る戦力にもなる。


「よし、じゃあ、一層に行こう!」

「ぼくもいくー」


 ツルハシを投げ捨てたテンは階段を上がる二人についていった。


 そして、残された村人達はというと。


「俺達、必要だったのか?」

「ムムちゃん一人で十分じゃ」

「娘に負けた……」


 先程見たムムの怪力に心をへし折られていたのだった。




「さて、どの子にしようかな!」

「しようかな!」


 ムムはリストを眺めながら気持ち悪い笑顔を浮かべていた。

 ポイントが増えたおかげで選り取り見取りなのである。


 テンも必死にリストを見ようとしているが、ダンジョンマスターではないので見えない。それでも薄目で頑張っている。


「くっ、天使を召喚したい!」

「喚びましたか、マスター」

「だぁれ?」


 ムムが悶えた途端、ふぁさぁ、と純白の羽を持った天使が降臨した。

 テンではない。テンはムムの隣で人見知りしている。

 天使の羽を生やしているのは見知らぬおっさんだ。


「帰れ」

「残念です。天国に連れていけると思ったんですが……」

「天国?」


 天使は聞き捨てならない言葉を残し、透けるように消えていった。


「………………」


 念のため、知識で天使をチェックする。


 天使降臨1万ポイント:天使を召喚する。ただしポイントが足りない場合には魂を天国へ導かれる。

 天使帰還1万ポイント:天使にお帰りいただく。ただしポイントが足りない場合には魂を天国へ導かれる。

 天使契約:1億ポイント:天使を仲間にする。ただしポイントが足りない場合には魂を天国へ導かれる。


「……これじゃあ悪魔じゃん! どんだけ天国連れてきたいの!?」

「あ、喚んだ?」

「ひゃ!?」

「帰れ!」


 悪魔も出てきたが即お帰り頂いた。テンを驚かせた罪は重い。

 天使も悪魔も大概なやつらである。


「というか、今さらっとピンチだったわけだよね」


 おっさんだからすぐさま帰れと言えたが、テンクラスの天使だったら人生はそこまで。

 それに気がついてゾッとしたムムはテンを撫でて心を落ち着けるのだった。


 気を取り直してチェック再開。

 ポイントを無駄に使わされてしまったムムは、リストを眺めながら徐々に浮かない顔になっていく。

 大きな問題を発見してしまったのだ。


「ねぇ、ツト」

「なに?」

「名前見てもどんな魔物かわからないんだけど」


 カナィド村の周辺には雑魚しかいない。数も少ない。ムムの知っている魔物は多くなかった。


「がんばれ」


 それはツトも同じなので丸投げした。元冒険者のシケボモを呼べば少しは役に立つだろうが二人は彼の存在を忘れていた。


「こうなったら一か八か」

「えっ、知識で調べてから喚びなさいよ」


 止めようにも間に合わない。

 めんどくささから破れかぶれになったムムは、名前の響きだけで召喚する魔物を決定してしまう。


「出でよ! モシャモシャモ!」

「クォォォクォォォ」


 召喚されたのは魚型の魔物でラモビフトよりも大きかった。

 ヒレというヒレが毒々しい色をしたもしゃもしゃで、とても強そうだが全く可愛くない。むしろキモイ。


 地面の上でビチビチ跳ねていたが、暫くして動かなくなった。この魚は陸上に適応していなかったのだ。

 享年一分であった。天寿を全うとしたモシャモシャモの体は光の粒子となってダンジョンの魔力へと還元されていく。


「ムムおねーちゃん……」

「なにも言わないでくれるかな……」


 ムムは目頭を押さえて見えない空を仰ぎ見る。

 二人の視線がとてもとても怖かった。

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[一言] 余りにも哀れ過ぎてWWW
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