少数精鋭
現在のダンジョン運営は
ダンジョンマスター・ムム
お目付け役・ミミ
参謀兼会計兼情報・ツト
護衛・シケボモ
天使・テン
魔物管理補佐・マツ
魔物管理・ラギリ
と、少数精鋭で行われている。
もちろん、頼めば他の村人たちも力を貸してくれるだろう。ウウなんかは畑仕事なんてやってられるかと言ってミミに怒られてた。農業だって大切なお仕事なのでやって貰わねば困る。
なので、必要なときに適宜力や知恵を借りることにして、それ以外では上記のメンバーが頑張ることになる。
しかし、ミミは村長と共に村を纏める仕事があり常に働くのは無理がある。幼い二人はあくまでお手伝い。
実質、ムム、ツト、シケボモ、ラギリの四人での運営となっていた。
さらに頭脳担当に限ればたった二人だ。元冒険者のシケボモ達は戦力としては頼りないのだ。
実はムムも同レベルなのだが本人は全く気づいていなかった。
さて、そんなムムがツトが話し合っていると、テンがとててと寄ってきた。
途端に顔を緩ませたムムが、どうしたの、と訊ねるとテンはなにも答えずに後ろへ回って半分隠れる。
いつもはもっと元気いっぱいなのに今日はちょっと様子が変だ。
ちっちゃな手でムムの服の裾を掴んだテンの視線を追ってみると、ラモビフトを診察しているラギリの姿があった。
「……おじちゃん、だれ?」
どうやらずっと気になっていたらしい。でも、人見知りをしてしまっていたようだった。
村に他所から人がやって来るのは珍しいためレアなテンの姿である。だからついダンジョンコアにこの光景を絵にしてもらおうとしたが、莫大な魔力を請求されてしまったので諦めざるをえない。
目から力が失われたムムはおざなりに男の正体を教えてあげた。
「この人は悪い人のところで働いてたけどもふもふに魅了されて裏切ったんだよ」
「その紹介は酷くないですか!?」
彼はウゴヨクのとこで護衛役をしていた治療師の男なのだ。金が大好きだったが、襲ってこないラモビフトを見て魅了されて改心したらしい。
今では、持ち前の治療魔法を使ってラモビフトや村人の体調管理をしてくれている。
ムムもお世話になることがいつかあるだろう。今のところは病気とは無縁であるが。ダンジョンマスターだから風邪をひかないのかアレだから風邪をひかないのかは謎である。
「えっと、よろしくな?」
ラギリが有効を深めようと手を差し出すとテンはビクッとして手に力を込めた。どうやら、先程大声を出したので人見知り度が増してしまったようだ。
ムムの裾を握る力は強く、服を通じて、朝の罰で叩かれたおしりまで到達するぐらいに。
地味に痛いった。
しかし、天使の前なので我慢だ。
ムムがにこりと取り繕うと今度はラギリがビクッとした。その笑顔には凄みがあった。
「わるだくみするの?」
なんてマツが言ってしまうぐらいの笑顔だった。
「しないよ! しないからね!?」
「しないんだー」
口とは裏腹にマツは信じてなさそうなジト目である。ムムが必死に否定したのが逆に拍車をかけたのかもしれない。
そしてテンがそっと離れてツトの元へ。
天使を引き剥がすなんて流石ライバルだねと称賛したい手際だよ、と、内心悔しがるムムなのだが、実際は普段の行いから普通に怪しんでいただけ。マツにテンを引き剥がそうとした意図はなかった。
「ほら、出来の悪いコントしてないで二層目について決めましょ」
「はぁい」
「うん!」
ツトに言われてマツはテンと共にラギリの元へ。
ムムはダンジョンの新要素についての話し合いだ。
今まで一層までしかなかったダンジョンだが、魔力ポイントが貯まったので二層まで拡張することに成功していた。
20万ポイントと、なかなか大きな出費をしたとあってツトは少し慎重である。ムムが無計画に好き勝手やっていた一層のようにはさせまいと息巻いている。
現在の二層はまっさらな状態。というか、階層という概念が存在するだけの岩で隙間なく埋まっているだけの空間だ。
しかも、それは現実空間ではなく魔法空間だというのだから意味不明である。
魔法に疎い二人はそこら辺は流すことにして、どうやって開拓し、どんなダンジョンにするかだけを考えていた。
「皆が笑顔って言ってたけど具体的にはどんなダンジョンにするのよ」
「それはもう考えてあるんだー」
ムムはちらりとテンやラモビフトを見て笑みを深めた。
このアイデアには自信がある。ツトも驚いてくれるはず、
「癒しのダンジョン!」
「………………」
――だったのだが反応がない。肯定も否定もせず、品定めするようにムムを見つめている。
「ツト?」
「もっと具体的に」
単純に伝わってなかったのだ。
たしかに癒しの定義とは人それぞれ。ムムならテンを眺めたいが、ツトならお金と触れ合いたいだろう。
納得したムムは頭の中の構想をぶちまけた。
「えっとね、もふもふしたり、寛いだり、へへーってなる感じ!」
一般人にはさっぱりな暗号であった。ムムの説明能力はとてもとても低かったのである。
「これは時間がかかるわね……」
ツトはため息をついた。
それから彼女の根気強い聞き取りにより、安全なダンジョンを見学しながら可愛い魔物で癒される、というムムのプランへと辿り着いた。
テンが寝てしまうぐらいの辛い戦いであった。だが、そのかいはあったと言えよう。
「あなたにしてはいいじゃない。私も観光系のダンジョンを提案しようと思ってたの」
意外な案に思わずツトは感心してしまった。
ダンジョンのあれそれは思いの外知られていない。観光、そして研究目的で人を集められるとツトは睨んでいた。
それを提案しようと思っていたのだが方向性は多少違うものの近いものがムムの口から出てきたのである。驚きは隠せない。
誉められたムムはえへへーと頭をかいてから、じゃ部屋作るね、と一目散にコアの元へ行こうとしてツトに足をかけられこけた。
「なにをするのさ!」
「行動力は評価するけど、まだまだ決めることはいっぱいあるでしょ」
ダンジョンの間取りだったり、癒してくれる魔物の選定だったり、お金の徴収方々なんかもだ。
さらにギルドに安全なダンジョンとして申請も必要だろう。他諸々。
ムムは聞いただけでうんざりしたので、後日に改めて貰おうと思った。
「あの、ツトさん?」
「なにかしら、ダンジョンマスター」
表情を見ただけでわかる。逃がしてくれそうにはない。わざわざ、さん付けしたのにマスター扱いされたことからも確実であろう。
ここで足掻けば足掻くだけ時間の無駄となる。最悪、御飯抜きだ。
ムムは諦めるしかない。
覚悟を決めたムムは逃げようとダッシュして、ラモビフトのもふもふデイフェンスに囲まれ、捕まったのであった。
「いつの間にそこまで懐柔してんのさ……」