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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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偽物

 カナィド村は朝晩とダンジョンの入口に向かって行列が伸びる。

 先頭でそれを捌いているのはムムだ。

 この日の朝も大盛況であった。


「はい、ありがとねー」


 用事を終えた村人を笑顔で見送り、次の人を迎える。


「次はワシじゃな」


 影が薄くなりつつある村長だ。


「この辺りに手をお願い。すにゅっとするから気をつけてー」

「おうさ。……くぅ~、今日もすにゅっとするわい」


 指示に従い、手をムムの横に浮かぶ赤い石に手をかざした村長は見えざる何かが抜け出る感覚に体を震わせた。


 ムムの横に浮かぶそれは一見してだけでは、ダンジョンコアなのだが全くの別物だ。

 大量の魔力を使って作り出したダンジョンコアの偽物、ダミーコアなのである。


 防衛用の魔法具の一種で、壊させたり持ち帰らせることでダンジョンを倒したと侵入者に勘違いさせるのだ。

 それに加えて、魔力を吸う性質を持っている。コアの魔力を吸わせれば、まさに本物同然。並の魔法使いでは見抜けないだろう。

 ムムはそんな性質に目をつけた。


 コア以外からも魔力を集められるんじゃないかと。


 最初は少し失敗――奪いすぎてシケボモを気絶させたりしたが今では丁度いい量の魔力を引き出せるようになった。日常生活に支障が出ることはない量だ。

 おかげでこの行列、献血ならぬ献魔力のための行列で効率的に魔力を集められるようになった。


 ただ、このダミーコアは扱いに気を付けねばならない。

 便利なものには罠があるものだ。


 ――――――


 あれは村を密かに調査していたウゴヨクの護衛役の女がダンジョンを見つけ、侵入してきた時であった。


 ムムは既にダミーコアを利用して村人達から魔力を分けてもらっていて、この日もたくさん集まりウハウハ。鼻唄混じりにスキップしながらコアへと向かっていた。


 あえてワープしないのは運動不足を懸念してのことである。ちょっとお腹が気になりだしたとかなんとか。

 最悪、ずっとお腹に力込めてればいいかな、と、考えてしまうムムであるが。


「ふぉ!?」


 そこへコアから侵入者の報が魔力を通じてムムに届けられた。

 ぐぁんぶぁっふんっと来たのだ。


「そんな早すぎる!」


 村人の魔力パターンは全て記憶しているし、村の中なので野生の魔物ということもない。確実に人間の侵入者だ。


 ――こんなに早く見つかるなんて!


 ダンジョンの入口は村の中でもひっそりとした場所に建っていたボロ小屋を選んでいたので、発見はもっと遅くなるものと思っていた。

 だが、現実には来てしまったわけで。心の準備がまだでも対応するしかない。


 ムムは慌てて奥へ走った。ワープなんて頭から抜け落ちていたのだが、敵性反応はすぐ近くまでやって来ていたのでどっちみち飛べなかっただろう。


 そもそも尾行されていたのだ。

 村人を集めて何かしているのは目立つ。ムムは一応、村長の家で魔力を集めていたが、護衛役の女からすれば怪しさ満点。バレバレであった。

 調査三日目にはムムがダンジョンに関係していると目星をつけられてしまっていた有り様だ。


 その結果――


「あっ」


 途中、何もないところでムムは転んでダミーコアを落としてしまう。

 これに歓喜して護衛役の女が飛び出してきた。


「やはり、ダンジョンコアはあんたが隠してたんだね!」


 見た目はダンジョンコアと瓜二つなのだ。本物だと勘違いした彼女は、素早い身のこなしでムムを追い越し、ダミーを拾い上げる。


「ふふふ……これがダンジョンコア……なのかしら?」


 女はコアがどういうものかよく知らない。出回るような代物でないのだから当たり前である。

 が、ムムはここで勘違いをしてしまった。


 ――偽物だってバレた!


 あのダミーにはこのダンジョンの魔力が篭っていない。村人達のだけだ。

 それが原因だと判断したムムはダンジョンに満ちている魔力を一気にダミーへ注いでしまった。


「な、なに!?」


 手の上で、ダミーの赤い表面に亀裂が走る。

 それは許容量オーバー。ダミーコアには溜め込める魔力に限界が存在したのである。それを越えたことで崩壊していき――


「ちっ!」


 異変に気付いた女は後ろにジャンプしながら地面に叩きつけるように投げ捨てた次の瞬間、ダンジョンを大きな揺れが襲った。


 魔力が炸裂し、エネルギーが周囲に撒き散らされたのだ。


 五感を吹き飛ばす嵐のようなそれはムムを容赦なく傷付ける。うつ伏せになっていなかったら気絶していだろう。

 その証拠に、護衛役の女は壁に叩きつけられて意識を失っていた。


 全てが過ぎ去り、ダンジョンが落ち着きを取り戻してからようやくムムは顔をあげられた。


「なにこれぇ」


 耳鳴りがずっと続いているような気がして気持ち悪かったが、それ以上に開いた口が広がらなくなった。

 床の中央に深い亀裂が刻まれていたのだ。


 ダミーコアは用法用量を守って正しくお使いください。


 守らなかったムムはめっちゃ叱られた。


 ――――――


「同じミスはしないからね」

「なに一人でブツブツ言ってんだ?」

「え? いや、こっちの話」


 回想に耽っている間に、村長は帰って、元冒険者のシケボモの番になっていたらしい。


 ムムはアハハと誤魔化しながら魔力を注ぐよう促す。


「今日は調子がいいから目一杯行くぜ!」

「いけいけー!」

「うおおおお!」


 ぴしりとダミーコアに亀裂が走った。

 デジャヴである。というか、一大事である。

 調子に乗ったせいで許容量を越えてしまっていた。


「やっばー! みんな逃げて、爆発する!」


 ムムの言葉に悲鳴をあげて村人達は散り散りに逃げる。


「どうすりゃあいいんだ!?」


 シケボモは残ってくれているが焼け石に水だ。魔力の爆弾はそう簡単には対処できない。

 ムム、半泣きである。


 そこへ事態を把握したミミが叫んだ。


「ダンジョンの空き部屋に飛ばしな!」

「あ、そっか!」


 ここがダンジョンの入口であり、敵がいないのだからワープ機能が使える。

 ムムがえいっと念じるとダミーコアは消え失せた。飛ばした先は、あの亀裂の部屋だ。あそこならラモビフトもいないはずである。


 その直後、地面が揺れた。

 爆発したのだ。怪我人はゼロ。

 感覚からしてラモビフトも無事だった。


「ふぃー、助かったぁ」

「だなぁ」


 唯一、無事ではないのは――


「ムぅぅぅムぅぅぅ?」

「あは、お母さん……」

「やばっ」


 残り用量をチェックしなかったムムの失態。

 今日もたくさん叱られたムムであった。


 ちなみに調子に乗って魔力を込めすぎたシケボモは逃げたのだが、ツトに捕まり……。

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