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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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最終プラン

「なにあれ! なにあれ!」


 ムムは最深部のコアルームにてウゴヨクの振る舞いに憤っていた。

 あんなにもふもふで可愛いラモビフトを虐殺するとは何事か。彼らは戦闘しない無害な魔物だったのだ。

 ちょっと近づいてみればわかるはずなのに遠距離で攻撃するなんてどうかしている。

 しかも生き残った子にまでも手にかけるんて!


「ほらほら、怒ってないで。生き残ってる子を助けなきゃでしょ。隠し部屋に誘導しなさい」

「そうだった!」


 ミミに言われてハッとした。ほぼ全滅でも生きている子はいる。

 そこに思い至らなかったことを反省しつつ、ムムはコアを操作してラモビフトに戻るよう指示を出す。


 コアの機能により配下の魔物に連絡できるのだ。魔物の賢さによって聞き入れてもらえる指示の質は変わるので注意が必要である。

 ちなみに監視機能なんかもあって、それで映像が見れたりもする。


 生きていた僅かなラモビフト達がとててと走って壁に体当たりした。

 そこの岩は小型魔物用のドアで、頭突きで開くようになっている。もちろん気絶することもない。

 扉の大きさ上、普通の冒険者は追ってこれない安全な逃げ道だった。


 ラモビフト達は遠距離攻撃対策がいくつか施された曲がりくねった道を一生懸命走る。


 そんな彼等を二つの小さな影が出迎えた。


「いたかったね、もぅ、だいじょーぶだよ」

「ほーたい、まくね?」


 テンとマツだ。

 なにか自分達も仕事がしたいとゴネたのでムム達は相談して安全な場所でのこの仕事を宛がった。


 二人は手際悪くモタモタと傷ついたラモビフト達に包帯を巻いていく。ダンジョン産の魔物は生きてさえいれば回復していくのであれで十分なのだ。


「天使ともふもふの触れ合い……羨ましい……うん、あっちはOKだね。次のプランに移ろう」


 と言ってもこれが最終プランだ。

 自然回復以外にも魔力を貯める方法を発見はしていたのでダンジョンはそれなりに拡張している。

 それでも防衛体制を整えるには全く足りず、さっきの“もふもふで悪い子もメロメロ作戦”ともう一つしか用意できなかった。


 ムムは両頬をパンと叩く。

 強すぎてちょっと頬がジンジンしているが後悔は少ししかない。


「後がないから気合い入れないとね」

「ここは守っててあげるからいってらっしゃい」

「うん! ワープ機能発動!」


 ミミに見送られ、いざ戦地へ――


「ムム、あんた……」

「言わないで……」


 飛べなかった。

 敵性反応がある場所へは行けないのを忘れていたのである。

 コアの便利さに慣れ、ぐうたらしようとした罰ではないだろうか。



 移動は徒歩で。



 また恥ずかしい青春の一ページを刻んだムムは七人が待つ最終会場へやって来た。


 中央には部屋を分断する深めの亀裂が走っている。助走をつければ飛び越えられなくはないが、失敗すればただではすまないだろう。


 そんな亀裂の向こうにはウゴヨクが仲間を引き連れ立っていた。


「お前がここの主か」

「そうなるね」


 威厳を放とうとムムが薄い胸を張った次の瞬間、


「やれ」

大地弾アースバレット!」

「ひょわ!?」


 詠唱待機していた魔法使いが先制攻撃を仕掛けてきた。

 事前の話し合いで、それは予測済みだったので心構えはあったが体験してみると想像より怖い。


 迫りくる土の弾丸を、ムムはわちゃわちゃ両手両足を動かして、みっともなく回避した。


「セーフ」


 そして、ドヤ顔である。

 試練を乗り越え自然と表情筋が動いてしまった。本人は無自覚だ。


「~~~~~~~! 発動せよ! 大地散弾アースショット!」


 ナチュラルな挑発にイラッとした魔法使いは新たに魔法詠唱して土の弾丸を礫のように発射した。威力こそ先程の一発に劣るものの数が多い。


「うわっと! ほいやぁ! あぶなっ」


 ムムは必死で滑稽なダンスのように動き回り、なんとか最低限の被弾に抑えた。山で鍛えられたバランス感覚がなければ気絶まっしぐらだったろう。


 当たった箇所がズキズキ痛むがそれはおくびにも出さない。弱みを見せるなとシケボモからアドバイスを貰っていたからだ。


「あのねぇ、あんたら!」


 それに言わねばならぬこともある。

 ムムはかなり怒っているのだ。

 あんな広範囲攻撃を仕掛けてくる神経が理解できない。この部屋には――


「そんなに連発したらツトさん達に当たっちゃうじゃない!」


 ツトと斥候役の女がいるのだから。

 二人は木で作った十字に縛り付けられていて、逃げられないのだ。

 女に至っては布を噛ませて喋れないようにもしてある。


 だが、ウゴヨクは意に介さなかった。


「それがどうした。死んだって構わない。人質を取ったつもりなのかもしれないがな、価値がなければ人質にはならん」

「妻と仲間でしょう!? 大切なんじゃないの!?」


 ウゴヨクはせせら笑った。


「ヘタうって捕まった部下と裏切った妻だぞ? 大切なわけあるか。むしろ死んでくれた方がせいせいするさ」

「サイテー」


 救いようが無いほどクズだ。

 テンとの約束も忘れてメコメコになるまで殴りたくなるがグッと我慢する。


「人質をとるようなヤツが言う言葉か?」

「 私は『有能な部下と愛する妻のどちらかだけ助けてやろう』って究極の選択を迫ろうとしただけですぅ。それで二人とも救うって言ったら善人認定するつもりだったの」

「知るか」


 それこそが最終プラン“妻も部下も救おうとしてこそ真の漢”だった。

 名付けたのはムムである。


「ちなみに善人認定したらどうするつもりだったんだ?」

「話し合いで解決」


 いい人であれば事情を話せばわかってくれただろう。

 それを聞いたウゴヨクは「甘すぎるな」とバカにした。


「それで悪人認定した今はどうするつもりなんだ?」

「それは……」


 出来るだけ穏便に済ませるプランは全て潰えた。残る道は一つだ。


「実力行使だよ! あんた達を捕まえるよ!」


 問答は終わり、これからは肉体がものを言う時間だ。

 へっぽこに構えたムムに対し、護衛役の二人も前に出て戦闘体勢に入る。


「まどろっこしいことはせず最初からそうしろ」

「そういうわけにもいかないんだよねぇ」


 ムムはここで初めて歯を見せて笑った。


「だってさ――」

「俺らが不意をついて捕まえる手筈だからな!」

「うおらぁ!」

「なに!?」


 上から落ちてきたのは、手に縄を持ったウウとシケボモだった。天井付近に用意していた暗がりの足場で、ずっと待機していたのだ。


 ムムが注意を引いていたため、完璧に不意をついた形だ。

 しかし、相手の実力は相当なものだった。護衛役の二人はとっさにウゴヨクを庇い、取っ組み合いになる。


 地面をごろごろ転がり揉み合った。一進一退のごろごろだ。


「うおおおおっ、お?」

「あぁぁぁぁぁ!」


 そして落ちた。

 中央の亀裂にすとんと行った。

 まさかの事態に固まる一同。


 一番最初に回復したのはムムだった。


「……どうやら私の勝ちのようだね」


 残ったのはウゴヨクだけ。彼はもやしなので、野山を駆け抜けるムムの敵ではない。


「全部、予定通りだね!」

「嘘つかないでよ」

「嘘をつくな」

うーえー(嘘つけ)


 総ツッコミを受けるムムであった。

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