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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
一章 ダンジョンの始まり
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闇に潜む群れ

「ここはなんなんだ?」


 ウゴヨクが目の当たりにした洞窟は不可解であった。


 ラモビフト、ラモビフト、ラモビフト、ラモ、ラモ、ラモラモラモ……。


 小さなもふもふな魔物が埋め尽くしている。五十匹近くはいるだろう。

 魔物の大量は時折あるのだが、森に住まう群れない魔物が洞窟の一角を埋め尽くすとなると話は違ってくる。


 圧倒的な驚異からの逃走か、特異個体の出現、あるいは――。


「ウゴヨク様」

「なんだ」

「ここはダンジョンかもしれません」

「お前もそう思うか」


 ウゴヨクも護衛役の魔法使いと同じ結論に達していた。ここがダンジョンであるなら不自然な生態にも納得できる。


 出来立てのダンジョンコアを発見した人間が討伐済みだと思い込んで討伐を怠ったか、


「人為的にダンジョンを作るなり操るなりしたか」

「それはあり得ません!」


 魔法使いが声を荒げた。

 よほどダンジョンに思い入れがあり、また詳しいのだろう、目を見開いて語りだす。


「ダンジョンは魔物であります。コアは心臓に当たる部分なのですが、これ単体では知能がありません。魔物足り得ないのです。それを補うのがダンジョンマスター、な・ん・で・す・が!」


 指をふって強調する。


「聖王都の由緒正しき魔法院でも、ダンジョンマスターになれた者はいません! コアを魔法具の核にするので精一杯なのです」


 また興奮してきたのか声が大きくなっていく。


「もしその方法を見つけられれば魔法史に残る大発見になりますよ! 世界に名が轟きます! 金だってガッポガポです! それほどの発見を魔文の一文字すら読めないような田舎者に出来る訳ありません!」

「なるほどな。よくわかったさ。だがな、一つ言っておく」


 ウゴヨクは顔面を裏拳で殴り付け、倒れた魔法使いを冷めた目で見下ろす。


「誰に向かって怒鳴っている」

「す、すみませんでした」


 失態に気付いた魔法使いは深々と頭を固い地面に押し付けた。


「あれはお前一人でやれ」

「はっ」


 ラモビフト討伐を命じられ、挽回のため、すぐさま詠唱を開始する。

 気性が荒い魔物なのになぜかまだ襲って来ないようなので、広範囲魔法による一撃で殲滅するつもりだ。


 言葉を紡ぎ、魔力を練り上げ、魔法を構築する。


「発現せよ! 大地針千本アースニードルズ!」


 放たれた魔法が地面に吸い込まれた次の瞬間、真下から大地の針が次々と産み出され、ラモビフト達を串刺しにしていく。

 抵抗を許さない一方的な蹂躙だ。


 ラモビフト達はなす統べなくほぼ全滅。一行は通路を確保した。


「そいじゃ剥ぎ取りますか」

「荷物になるだろ、捨てとけ」


 怪我人の男が屈んだところでウゴヨクは待ったをかけた。本命はあくまでダンジョンコア。それと比べればラモビフトの素材など二束三文。チリを積もらせてもコアには決して届かない。

 それに村人の罠も警戒しなければならないのだ。身軽な方がいい。


「承知しましたぁ」

「おい、お前もだぞ」

「は、はいっ」


 治療師の男もまたラモビフトの近くにしゃがみこんでいた。ウゴヨクに言われてワタワタ立ち上がる。

 それを見た、魔法使いの男が目を細める。


「今、魔法を使ってなかったか?」

「えっ、いやっ……」


 治療師の魔力は一行の生命線ともなる回復魔法のためのものだ。むやみやたらと使っていいはずがない。

 治療師の男だってそれを重々承知しているはずである。それなのに使うということは背反と疑わざるをえない。


「おい、その腹はなんだ?」

「っ!」

「おい裏切りか!」


 隠そうとしていた治療師だったが、ウゴヨクはわずかに膨らんだそれを見逃しはしなかった。怪我人の男が服を無理やりまくりあげると瀕死のラモビフトがぽとりと落ちる。


「釈明を聞こうじゃないか」


 治療師の男は失意により体から力が抜けて崩れ落ちた。

 それを見下ろすウゴヨクの瞳には優しさの欠片もない。何を答えてもダメだろう。

 それでも一縷の望みをかけて正直に話すことにした。


「ラモビフトが可哀想だったんです」

「それだけか?」

「無抵抗なラモビフトが珍しいし、癒してペットにしようかと」

「無駄ですね。ダンジョンの魔物は領域外に連れ出すと消滅します」


 魔法使いは嘲るように半笑いだ。

 ウゴヨクは睨み付けながら少し考えると怪我人の男をアゴで差した。


「あいつを全快させろ」

「そんな!」


 そんなことをすれば治療師の魔力は尽きてしまうだろう。

 それはつまり彼の価値がなくなるということである。


「嘆く必要はない」


 ウゴヨクが浮かべた黒い笑みに、治療師の本能が危機を訴えた。


「運が良ければ生き残れるさ。治療してくれるならな」


 治療しなければ今すぐ消す。

 ウゴヨクは殺気を隠そうともしなかった。


 治療師には他の道はない。言われたがままに残る魔力をすべて使い怪我を癒した。


「よっしゃあ! これで暴れられんぜ!」


 元気になった男は腰にさしていた肉厚の剣を抜き、治療師が保護しようとしたラモビフトを真っ二つにした。


「はっはぁっ!」

「遊ぶな。行くぞ」

「承知でっさぁ」

「わかってるとは思うがお前は来なくていい。あの穴を自力で登るんだな」


 ウゴヨク達は治療師の男をあっさりと見捨て、先へ進んだのであった。

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