コントラスト
目の前に存在する脅威を、まず排除しなくてはならない。
こちらを睨み付けて唸っている敵と向き合って、しっかりと剣を構え深呼吸をする。
「さて……」
先に動き出したのは飛竜。大きく空気を飲み込み口元に炎を滾らせる。この種お得意のブレスである。
フェリシアは例のごとく、剣を飛竜が吐き出した火球に剣先を向けた。
「もう飽きたわよ!」
これまた綺麗に火球を真っ二つに分断する。
「このまま」
裂いた炎の先にもう一つの火球。それは真っ直ぐフェリシアへと向かう。
「連続!? っく!」
燃え盛る炎の塊を剣身全体でなんとか受け止め、その火球も二つに割るが、勢いにおされて足が止まった。これを狙っていたのか、立ち止まるフェリシアを尻尾が襲う。
「冗談でしょ!」
気付いて剣を振りかざした時にはもう遅かった。尻尾は体に巻き付き、鎧をも砕きそうな力で締め上げる。
「う……ぐ……がああああああ!」
到底彼女自身の力だけで抜け出せるようなものではなかった。
悲鳴を上げる彼女に、救いの手を差し伸べてくれる仲間は見当たらない。通りすがりの、なんて夢のまた夢。人気も全くない。ただただ、静かな夜に叫び声が響くだけ。
自分の命も、たった一人の連れの命すら守れなかった。
情けない。
ひどく後悔した。
自分の腕には自信があった。だから大丈夫。そう思っていた。
でも現実はこう。
なんて呆気ない。
「ごめんね」
せめて、せめてあいつの命は救ってやりたかった。
こんな自分より他人の命を。価値ある命を救ってあげたかった。
それが自分のせいで……。
朦朧とする意識の中で最後に見たのは、一つの光だった。