R:吾が生や涯りあり、而して知や涯りなし。
「ところで、ひとついいか?」
「ん? 何だ?」
「なんで蓮って呼ばないんだ? 神成蓮だからカンナってのは分かる。けど、無理矢理って言うか」
「あー……それなぁ」
ツクノは懐かしむ顔でカンナの方を向く。対して、カンナは相変わらず仏頂面で、会話に入ろうとする姿勢は全く見て取れなかった。
「俺がこいつに最初名前聞いた時さ、声ちっちぇのなんのって。そんで聞こえた部分が『カンナ』だけだったんよぉ。後で指摘されたが、めんどくせぇから変えなかったのさ」
「なるほど……」
きまりが悪そうにカンナは小さく舌打ちをした。
こうやって色々な話を聞いていると昔の蓮を思い出す。鮮明な記憶を掘り起こすというより、断片的な印象を組み合わせていく感じだ。あのまま蓮が何事もなく育っていたら、こんな風になっていたのだろうか。
それにしても、本当に蓮の片割れだとはな。
信じられない話だが、思ったよりも早く受け入れられた。前もって心の準備をしていたからか? それにしたって……いやぁ、どうも人間ってのはよく分からない。たまに恐ろしくなるぜ。だって、俺は憎悪どころか憤怒の念すら起こさなかったんだ。自分でも分かってる。何かが俺には欠けているって。……ずるいな。
しかし、このツクノという男は一体なんだ? てんで掴めない。迂闊な言動を控えなければ、一瞬で足を掬われそうだ。気を付けよう。
さて……。
イッキは頭をフルに回転させながら様々な考えを巡らせている。
「ん? カンナはこっちの言葉が分かってたってことか?」
「言葉? あー、いや、どうだったかねぇ……。あんま覚えてねぇな……。ってかよ、お前だって喋れてるじゃねぇか」
「それは、……」
まだ完全に信用したわけではない。無駄なことは話さないのが得策だろう。
「まぁ色々あって」
「はーん、まぁどうでもいいや」
本当に興味がなさそうな反応をしてから、ツクノはカンナの肩を叩いた。
「どうだぁ? うーん? どうだぁ? えぇ?」
「何がだ」
「照れるなって! 久しぶりに友達と会えて嬉しいんだろう!? ほれほれ、もっと話したらどうだ」
「……」
カンナはまたそっぽを向いて、それにツクノは悲しそうな、心苦しい表情を浮かべる。
その横でイッキは面食らっていた。彼でなければ気付かなかったであろう何の変哲もない言葉。
「友達?」
「あ?」
「いや、ちょっとな……」
再び深く考えようとした時、ツクノが突然イッキの前進を手で制した。
「待て、何か来る……」
「何かって、まさか」
「……いんや、どうもちげぇみてぇだな」
通路の角から現れたのは弓を持つ金髪の少女。
「え、ダー……リン?」




