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目覚める従者と眠る覇者

「さて……何処に向かえばいいのかしら」


 屍で作られた山の頂上で、フェリシアは果てしなく続く空洞を仰ぎ見た。

 一寸の光さえ目に入らない。本当にどうやって、どこから落ちて、どうして助かったのだろう。


「とりあえず、反対側に行ってみましょうか」

「んだな!」


 二人は周囲を注意深く照らしながら、前へ進む。


「本当に大丈夫?」

「何が?」

「怪我のことよ」

「全然、平気! ホントもうバリバリ元気!」

「そんな姿で言われてもね……。右手も?」

「右手?」


 言われて、レンは自分の拳を確認した。包帯が痛々しいほど巻かれている。

 何回かグーとパーを交互に繰り返して確認したが、不思議なことに少しの痛みもない。

 そうと分かって、彼はその煩わしい包帯を解き、地面に丸め捨てた。

 何の傷もない。至って健康な手である。


「大丈夫?」

「ん……あぁ、大丈夫だ! 自分でもビックリするくらい!」

「そう、なら良かった」

「あれ!? そういえばッ……!」


 レンは慌ててズボンのポケットの中をまさぐる。


「あ、良かった。落としたかと思ったぜ……」


 メリケンサックを両拳に装着し、彼は安堵の表情を浮かべた。それから、その拳鍔を愛でるように頬で撫でる。


「……狂気ね」

「凶器だよ?」

「いや、知ってるわよ」

「え、何言ってんの?」


 フェリシアは腑に落ちない様子で、僅かに首を傾げながら、呆れるように口を開いた。


「おかしいってこと」

「え、何で? 自分の武器って可愛がるじゃん?!」

「可愛がり方を間違えてるわ……。手入れとか、そういう方向で愛しなさいよ」

「いーじゃん、どんな愛し方でもさ! まぁ、でも、フェリシアは愛し方も不器用だからな~。武器だけに! って、ちょっと、何か反応してくれませんかね? フェリシアさーん? ……ホント不器用だなぁ」


 しばらくの間、何の進展もなかった。何も存在しない暗闇の中を歩いていると、本当に自分が進んでいるのか分からなくなる。もしかして、同じ場所を何度も行ったり来たりしているだけなのではないか。そんな風に感じられてきて、長い時間が経つにつれ、掴まり所のない不安も増してきた。

 だが、彼らは確実に進んでいたのだ。

 神経をすり減らせて、フェリシアは念入りに辺りを探る。ある所で彼女は大きな骨を見つけた。


「また、骨……。でも、相当大きいわね」

「ほほー、どれどれ? でか! 他には……お、おぉぉ……」


 レンがその少し奥を照らす。

 そこには、見つけた骨よりも一回り大きな骨の塊が綺麗な形で残っていた。モンスターの亡骸だろう。まるで、眠ったまま朽ちたかのような、そんな印象を受けた。

 レンは口を開けたまま、ただ茫然と目の前で立ち尽くす。


「すげぇ……」

「こんな所でどうかと思うけど、なんだか芸術的ね……。不思議と心が安らぐわ……。気持ちよくて、眠っちゃいそう……」

「もうちょっと近くで見ようぜ!」

「あ!」


 レンは大きな骸の腕部分をよじ登って、背中に渡った。


「よっと……うお!?」


 跳んで移動していたレンは足を踏み外す。しかし、何故か落ちない。違和感を覚えながらも、レンは頭部まで一気に駆け上がった。


「おー! すげー! こいつ、この状態でも目線たっけぇなー!」

「近くって……まさか登るとは思わなかったわ。遊んでないで先進むわよ!」

「うーっす! すぐ降りる! ……っと、と、と?」


 足場が揺れる。よろめいたレンは体勢を立て直せず、そのまま頭蓋骨を滑って、地面へ転がり落ちた。


「な、なんだぁ!?」

「まさか……!」


 二人の前に鎮座していた大きな骸は動き出し、地を震わせながら、その巨体を持ち上げる。

 歩脚のように発達した翼、避雷針を彷彿とさせる額の角、さらに背中には無数の刺。四足歩行で、尻尾は長く、その先が扇状になっている。巨大な体ではあるが、決して太い訳ではなく、むしろスリムな骨格だ。

 暗闇で奇妙に光る眼を二人に向けて、竜は咆哮する。


「うるっせぇぇえ! ってか、さっきまで骨じゃなかったか!?」

「ええ……。これは……そんな……」

「何? どうした!?」

「こいつ……ザンクトゥーリにしかいないモンスターよ……」

「ザン……」

「ザンクトゥーリ! あんたが二ホンって言ってた所よ!」

「あー! 地獄か! ……あぶなっ! うおおおおおおおお!?」


 話しているレンに、モンスターは尻尾を振って攻撃した。当たりはしなかったものの、その風圧でレンは後ろに飛ばされる。


「レン!」

「いってぇ……」


 今の強風で松明の火が消えた。見えるのは竜の眼だけ。

 不安を煽るように、また、モンスターは雄叫びを上げた。


「ヤバい! レン、返事して!」

「ここだ!」


 フェリシアの呼びかけに答え、極鍛術を使ったレンは暗闇の中から彼女を見つけ出し、巨大な竜から距離を取るため、彼女の腕を掴んでモンスターのいない方向へ走り出す。


「あいつヤバいのか!?」

「S級指定よ! とてもじゃないけど、相手にできないわ!」

「最初の竜と比べたら?」

「比べものにならないわよ!」

「マジかよ! そりゃやべぇ!」


 必死に走る二人。地面は揺れ、後ろからは大きな叫びが聞こえる。

 突然、レンは何かにぶつかって足を止めた。


「何? どうしたの?」

「透明な壁みたいなのが……」

「壁? ……ああ、なんてこと……」

「え?」

「もう私達は檻の中よ。あいつの術中にはまったってわけ」

「ってことは……」

「そう、戦うしかないわ……」


 フェリシアは剣を抜き、呪文を唱え、刀身に炎を宿らせる。レンも全身に力を巡らせ、万全の状態で敵の登場を待った。

 少し離れた所で稲妻が走る。それと同時に、竜が空気を裂きながら、二人の元に向かってきた。

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