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星空の下で

 食事を終えた女剣士とニートは、酒場から出て地図を開き目的地を確認する。


「結局奢ってもらっちゃったな。ごちそーさん。しっかり働いて返すわ」

「そうじゃなきゃ困るっての。んで今日の仕事場はここ」


 フェリシアはそう言って地図上を指さす。


「このヒューレコックから徒歩約1時間の場所に位置するポプラナ高原。比較的初心者向けのモンスターが多いから、レンでも狩れると思うわ」

「え? 今から仕事? しかも狩り!?」

「そうよ。夜に活動するモンスターの方が賞金高いから、だいたい私はこの時間から狩りに出ることにしてる。ってか私が剣士だった時点で、仕事内容想像できなかったの?」


 残念ながらこの少年、そこまで察しは良くない。さらに言うと、知識も浅ければ考えも浅い。

 うーん、と腕組みして考え、何かに納得して一人頷くレン。


「よし、じゃあ行こう! いざ、ポプラナ高原へ!」

「あんた武器もないのに自信満々ね」

「…そうだったあああ! 仕方ない。俺のこの拳でなんとかしよう」


 アホみたいにその場でシャドーボクシングをする丸腰ファイター。


「いやいや、無理だから。私の短剣貸してあげるわ。それで適当にスライムとかと戦っててちょうだい」

「スライムってホントにいるんだ。ゲームだけかと思ったぜ。やっぱり青いのかな」

「オレンジよ」

「まさかのベス!?」

「いちいちうっさい! もう行くわよ」


 夜になりますます賑わう街を抜け、レンとフェリシアはポプラナ高原に向かった。




 数十分歩いて、目的地近くまでようやく辿りついた二人。


「結構歩いたな……戦う前に疲れた」

「だらしないわね。一日数時間、下手したら十時間近く歩く日もあるのよ。これくらいで疲れてるようじゃ先が思いやられるわ」

「ウソだろ。トンデモ世界に来てしまった……。見知らぬ地で俺は唯一人孤独に死んでいくんだろうか……帰りてぇ」


 相変わらず浮き沈みの激しいレンにフェリシアはもう慣れたのか、特に気にも留めない様子で質問する。


「レンの元いた世界ってどんなだったの?」

「そうだなぁ。まず剣なんか持ってたら逮捕。そしてモンスターもいない。でも戦いはあったな……命をかけて行う戦争……」

「何と戦うの?」


 モンスターの類としか死闘を経験していないフェリシアは疑問に思った。


「人だよ」

「人?」

「そう、人。人と人が戦うんだ。何の目的で戦ってるかは難しくて俺には分からないけど、あまりいい事じゃないってことぐらいは分かる」

「ふーん、変な世界。同族の争いほど醜いものはないわ」

「こっちの世界ではないのか。人同士の争いは。あの世界は汚れてたんだなぁ」


 夜の空には満天の星。こんなに綺麗な夜空をレンは今まで目にしたことはなかった。天然のライトの下で大きく深呼吸をして空を仰ぐ。


「それでもやっぱり帰りたい?」

「帰りたいかな。向こうには家族もいるし友達もいる。親友は公園に置き去りにしてきちまった。今頃、みんな必死に俺の事探してんだろうな。本当に心配かけてごめん」


 ここにはいない人達に謝罪する。


「……」


 ここまで間抜けな行動しかしていなかったレンの険しい表情を見て、フェリシアは言葉を詰まらせた。


「ま、落ち込んでてもしゃーないから、とにかく進むべし! いつかぜってー帰るぞ! おお!」


 夜空に高く拳を掲げる姿を見て、彼女は安堵する。


「あんたってホントバカね。でも、そういうとこ嫌いじゃないわ」

「お? デレですか? デレですか!? ツンデレでしたか!?」

「デ、デレてないわよ! 前言撤回! あんたなんか大っ嫌い! ってか何よツンデレって! ツンドラの間違いじゃないの!?」

「なんだよ! ツンドラって! ツンデレみたいじゃねぇか!」


 ツンドラもご存じないおバカ。ちなみにツンドラとは、永久凍土が広がる降水量の少ない地域のことである。ツンツンドライの略でもなければ、ツンデレのドラゴンの略でもない。


「だぁかぁらぁ! 今そう言ったでしょ! あんたと話してるとホント疲れるわ……」


 呆れ顔でフェリシアはどんどん先へ行く。


「あ、おい! 待てって! フェリシアさーん!」


 後ろからかけられる声を無視して進むツンデレ剣士は、不安な気持ちでいっぱいだった。

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