表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/82

輝き狂う

 イッキの目の前に現れたのは、白い毛で全身を覆われた巨大猿ゴエンムーア。ルインを総括しているギルドでは、この個体をB級と指定している。モンスターのランクはE・D・C・B・A・Sとなっており、上にいけばいくほど、危険度も報酬も上がっていくのだ。ルインの仕事はモンスターの殲滅であるので、手加減をする必要はない。また、モンスターを完全に殺さなくても、十分に弱っていればギルドへの転送が許可される場合もある。だが、瀕死の状態まで追い込まなくてはならないので、結局どちらも大差ないだろう。

 イッキは死にもの狂いでモンスターから距離をとった。情けないと思いながらも女性ルイン二人の後方に身を潜める。


「ビビ姉、これ倒した方が百点獲得ね」

「何、そのベタなクイズ番組みたいなシステム」

「じゃあ、先にやっちゃうね!」


 女は左脚のホルスターに手を伸ばし、拳銃を二丁構えた。彼女はそのまま突進して、暴れ猿の丸太のように太い腕を華麗に躱しながら、銃弾をその巨体にぶち込む。正確に、間違いなく全ての弾を体に当てた。しかし、ゴエンムーアは怯みはしたものの、あまりダメージを受けていないようである。撃ち放たれた鉛弾は雪の中に落ちて沈んだ。

 女は一度モンスターから距離を置く。


「何で?」

「何でって、ティーネ馬鹿でしょ」

「はいはい、アタシは馬鹿ですよ」


 口を尖らせて拗ねるティーネという女は、マガジンを地面に捨てた後、慣れた手つきで素早く弾を補充した。


「こいつはゴエンムーアって言って、胸部・腹部の強固さは尋常じゃないの。だから、なるべく他の部位を狙って」


 説明しながら矢を射るビビ。その矢じりはゴエンムーアの右肩部分に突き刺さった。猿は苦痛の叫びを上げる。


「よし! いい感じ!」

「ビビ姉、そんなちんたらやってたらダメだよ。まぁ、アタシも最初から狙っとけば良かったんだけどね」


 ドラミングして雄叫びを上げる巨大猿にティーネはもう一度向かっていく。今度はハンドガン一丁のみ。


「ヘッドショット!」


 しっかりと頭に狙いを定めてトリガーを引いた。


「あれ?」


 だが、銃弾は発射されない。


「……スライド忘れた!」

「何年その銃使ってんのさ!」

「ごめんなさい!」


 正面で無防備に立っている彼女を見て、ゴエンムーアはすかさず殴りかかる。


「タイム! タイム!」


 ティーネは焦りから身を反らすことはせず、ただ腕でだけ防御しようとする姿勢をとった。


「こんの毛むくじゃらがぁッ!」

「!?」


 瞬間、その巨大猿はティーネの頭上を越え、ビビを通り過ぎ、さらにイッキの後ろまで吹き飛んだ。


「いってぇッ! 俺の手、破裂すんじゃね!?」


 金色の光に包まれた拳を冷やすように息を吹きかける。


「……」

「フー、フー……よし! ほら、大丈夫か?」


 レンは腰を抜かすティーネに手を差し伸べた。しかし、彼女は茫然と彼を見ているだけである。


「ん? どうした? もう気合入れてないから、手は潰れねーよ?」

「……決めた!」

「え?」

「結婚しましょう!」

「はー!?」


 あまりの驚きに大声を上げるレンにイッキとビビが駆け寄る。


「蓮! 助かった! サンキュー! お前、どんだけ強いんだよ!」

「だから言ったろ? 強いって」

「うん! すごく強い!」


 ビビが二人の会話に割って入る。


「あたしもあなたに惚れた! 結婚しましょう!」

「「はー!?」」

「ちょっと! ビビ姉! アタシが先に申し込んだんだけど!」

「恋愛は別に早い者勝ちじゃないでしょ」

「ちょっと待って、ちょっと待って、お姉さん!」

「イッキ、それはなんかダメな気がする。あと、つまら……うぶっ!?」


 イッキはレンの口を塞いだ。レンはすぐにその手を振りほどく。


「何? そんな今の発言ダメだった?」

「違う! あれ!」


 さっきレンが殴り飛ばしたゴエンムーアが立ち直っていた。目は充血しているのか赤く染まっていて、興奮状態で息が荒い。


「あの野郎、しぶてーなぁ!」


 レンは拳に力を込めて、また先のような光を放つ。対して、ゴエンムーアは大きく息を吸い込んだ。


「おっと、このモーションは!」

「ブレスか! って、分かっててもどうすれば!」

「みんな! 逃げろ!」


 四方へ散ろうとするが、少し遅かった。凍える猛吹雪のようなブレス攻撃が広範囲に拡散する。


「うおおおっ!?」


 レンだけは上へと跳躍し避けることができたが、他の三人はまともにそれを浴びてしまった。凍り付いて体の自由が奪われ、その場から一歩も動けない。ゴエンムーアは再び息を吸い始め、レンはブレスを止めようと走った。


「くっそ! 間に合わねぇ!」


 猿は予備動作で首を後ろに少し下げる。そして、その首が取れた。


「あ!?」


 頭部が綺麗に寸断され、虚しく転げ落ちる。血を噴き出しながら倒れる巨体の後ろに、見覚えのある姿があった。


「不意打ちってのはやっぱり楽ね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ