絡み合うイトは複雑に
「……おい」
「誤解だって。俺らは狩猟目的でここに来ただけ」
「……どうだか」
「信じろっての」
大型モンスターの背中に乗っている男はレンと目を合わせる。奥の奥まで黒く染まった瞳が彼の体を強張らせた。男の表情は無機質で冷たい。
「名前は……俺と同じだもんな。蓮、初めまして。えっと……何か変な感じだな」
もう一人のレンは反応せず、代わりに同行している男が口を開いた。
「それはあれだ、すっぽんぽんだからだろ! なんとも愉快な御一行だねぇ。おうおうおう、嬢ちゃんたち良い体してんじゃねぇか! だが、ストリップショーを頼んだ覚えはねぇ。さっさと服着な」
「忘れてたあああ!」
レン達は慌てて各々衣類を探す。が、浴場を囲っていた石の上に置いてあったため、どうやら全て溶けてしまったようだ。やむなく、女性陣は裸体を隠すためにその場にしゃがむ。そして、何故か男性陣は自信満々に仁王立ちしていた。
「見られて恥ずかしい体はしていない!」
イッキは堂々たる姿勢で腰に手を当てる。
「その通りだ!」
レンもそれに倣って胸を張った。
その横でローブの男はレンとレンを交互に見ながら笑う。
「ほんっとに正反対って言うか、なんていうか。まるで別人だな」
「別人?」
正気に戻ったのか、イッキは鋭い目つきで男を睨んだ。
「あー……いや、そのだな……」
その様子を見てモンスターに乗っていた男が降りてくる。見れば見るほどレンにそっくりだ。
「ツクノ、余計なことを口にするな」
「そういうお前は必要なことくらい口にしようなぁ」
「……ッチ」
「おーう、舌打ちぃ? どこで子育ての仕方間違えたかねぇ……」
自虐的に笑うツクノという男にレンは尋ねた。
「おっちゃん色々知ってんのか? だったら知ってること教えてくれよ!」
「蓮、あんまり近寄るな。何をされるか分かったもんじゃない」
そう言ってイッキはレンの腕を引っ張り、ローブの男二人と距離を取る。ツクノは少し悲しそうな顔をして言った。
「……そうだな。賢明な判断だ。ほれ、何か後ろの子らがラウム展開したみたいだぞ。お前らも服着てこい」
指差した先には確かにラウムハウスがあった。
「荷物は無事だったんだな! とりあえず言うとおりに服着てこようぜ!」
「いや、待て。馬鹿か。お前はもう少し考えて行動しろ。やっと捕まえた手掛かりだ。ここで逃がすわけにはいかない」
「何、俺達追われてたのかよ。何かしたっけなぁ? ま、いいぜ。用があるなら話くらいは聞いてやる。待っててやるから服着てこい」
「信じられるか」
「えぇ……どんだけ信用ないんだ……。なー、カンナ?」
「……」
カンナは自分が突き刺した剣をずっと眺めていて、話を聞いていないようである。
「大丈夫だって、イッキ。このおっちゃんは多分悪いやつじゃない。俺は着替えてくる!」
「あ、おい! 待てよ!」
二人は走ってハウスの中へと向かっていった。
「……イッキ」
「あん?」
カンナは駆ける二人の背中を見つめる。
「イッキ……樹、か?」
特に驚いた顔もせず、声を上擦らせるわけでもなく、平坦な口調で呟いた。
彼らの後ろに広がる溶岩は徐々に固まっていく。モンスターの背中に刺さった剣が作る傷口からは赤黒い液体が溢れていた。




