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 数秒後、アルムは再びレン達の所に現れた。


「そういえば、とべないんだっけぇ」


 少女はあどけない表情をして小首を傾げる。


「とぶ? アルムって羽生えてんの?」

「瞬間移動のことだろ。ムリムリ。徒歩オンリー。あれ? フェリシアとクローディアは瞬間移動できないのか?」

「できるわよ。でも、あんまり好きじゃないのよね」

「え、できんの!? 耳に水!」

「あー、そりゃ大変だな。呼び水でもしてやろうか」

「イッキさん、それは荒療治ですよ……」


 そんな文化も共通しているんだな、と興味深そうな顔でイッキは一人頷いていた。

 この世界は良く分からない。どこまで同じで、どこから異なるのか。

 外見が同じなら内面まで同じなのか。

 レンは悲惨な心情で泣きつくように尋ねる。


「まさか、クローディアも!?」

「私はできませんよ。魔力がないに等しいですから、使いたくても使えません」


 慰めるような優しい笑顔でクローディアは答えた。

 しかし、彼女は魔力を持たずとも、超能力を持っている。人の記憶を操る能力。相当強力な能力なのだが、彼女はその能力をあまり好いていない。いや、むしろ嫌ってさえいる。生理的嫌悪なのか、理性的拒絶なのか。いずれにせよ、彼女はそれを良しとしないだろう。


「で、アルムちゃん。そういうことだから、歩きとかじゃダメかな?」

「別にいーよ。追いつけるか分かんないけどねぇー」


 この少女は何故もう一人の蓮の行先を知っているのだ。そういう能力か何かがあるのか。……楽観的すぎる。それにどうして俺達に無償で協力する。追いつけないと思うなら向かった方角だけ教えてくれれば良いだろう。安易についていくのは危険か。いや、しかし。この機会を逃せばもう二度と……。

 表に出したい疑念を必死に抑え込み、イッキは極めて明るく振る舞う。


「おっけ! じゃあ、アルムちゃんに頼りましょう!」

「アルムにおまかせー。みんなよろしくー」

「あ、よろしくお願いします」

「よろしく」

「結局、一緒に旅することになったな!」


 アルムはポカンとした顔でレンを見つめた。


「あ、覚えてないっすか。まいっちんぐ」


 そんなレンを無視してアルムはクローディアに近付いていく。


「うわー!」

「ひっ……! な、なんでしょうか……」

「きれーな黒髪。ほんとーにきれー」


 消えてしまいそうなくらい白い手で艶やかな黒い髪を撫でる。その一本一本の髪の毛をさくようにしながら何度も撫でた。


「あ、ありがとうございます。アルムさんの髪もすごく綺麗ですよ」

「ほんと? ありがとお」


 その光景を少し離れた所から見て、にやにやしながら話しかける。


「いやー眼福、眼福。なんならフェリシアも交じってこいよ」

「嫌よ。……はあ、あなたはもっと真面目だと思ってた。正直幻滅したわ」

「真面目ってんなら蓮がそうだろ。俺は真面目に不真面目、一直線。フェリシアは生真面目って感じ。それと、幻滅って言葉ちゃんと正しく使いな。誤解招くぜ」

「余計なお世話よ」

「じゃあ、ついでと言っちゃなんだが、余計にもう一つ」


 先刻までの軽い口調は何処へ。低く据わった声でフェリシアにだけ聞こえるよう言う。


「少し注意していてほしい。全面には出さないよう、それとなく気を張って。あのアルムって子は得体が知れない」

「難しい注文ね。分かったわ。というか、私も気にしていたのよ」

「……そうか、なら頼む」


 己の無力さをもどかしく思って、イッキは歯と歯を強く擦り合わせた。

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