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ブラックアウト

「異世界?」


 フェリシアは、手に握りしめているフォークを宙でくるくると回し円を描く。


「確かにあってもおかしくはないだろうけど……あんまり信用できないわね。何か証明できるものはないの?」

「証明……あ、スマホは?」

「スマホ?」


 怪訝な顔をするフェリシアに対して、レンはそれをポケットから取り出し彼女の前に差し出した。


「へぇ、見たことない機械だわ。何に使うの?」

「そうだな、連絡取ったり、写真撮ったり、ゲームしたりとか色んなことができる」

「すごい多機能ね。多機能すぎて怪しい。ちょっと動かしてみてよ」

「お安い御用」


 そう言って電源ボタンを押すが、スマートフォンの画面は未だに黒いままである。


「あれ、おかしいな、動かない。壊れたかな」

「なんだやっぱり嘘じゃない」

「いや、そんなことは……あれぇ?」


 色々と弄ってみるが、薄型液晶小型電話機は全く反応を示さない。焦っている様子のレンを横目に、フェリシアは注文したパスタを口に運ぶ。

 今二人がいるのはヒューレコックのとある酒場。西部劇とかに出てくるあれを想像してもらうのが一番分かりやすいだろう。

 酒場には色々な人達がいる。フェリシアと同じよう背中に剣を背負う者、薄気味悪いローブで身を包む者、周りを気にしながら数人の仲間と声を潜めて会話する者、酒を酌み交わし楽しく仲間達と大騒ぎする者。レンと同じような恰好をしている者もちらほら確認できた。


「ってかあんた何も食べないの? なんか考えてみると、私だけ食べてるのもあれよね」

「そりゃ食べたいけどさ。ここってたぶん通貨違うんじゃないかな」

「何言ってんの? お金なんて世界共通でしょ?」

「世界共通?」


 あまり学のないレンでも、さすがにその言葉には違和感を覚える。


「お金も言語も世界共通。まぁはずれの地域じゃ言葉が違うこともあるけど、基本的にどこ行っても会話はできる。その証拠に今あんたとちゃんと会話できてるじゃない」

「いやいや、え? あれ、なんで会話できてんだ? おかしくない? ここどう考えても、異国の地だよね? ちなみに今話してるのって何語?」

「は? 頭どうかしちゃったの? ……レストラト語」


 あまりの驚きに動揺を隠せないレン。


「レストラト……レストラト……。知らんぞそんな言語。俺、英語ですらできないのに……。でも、確実に会話成立してるよな……。いやー、そうかー、俺は生まれつき二か国語話せるナチュラルバイリンガーだったのかー」


 意味が解らない。


「ちょっと、大丈夫?」


 放心状態気味脳味噌集中残念患者を、心配そうな目で見るフェリシア。


「確認したいんだけど、ここってもちろん日本ではないわけだよね?」

「ニホン? 聞いたことない地名ね。ええ、そう。ここはギルブンド国の都市ヒューレコックよ」

「うーむ……あ、じゃあさ。これ見てよ」


 ジーンズのポケットに入れてあった財布を手に取り、その中から千円札を一枚抜き出してテーブルの上に置いた。


「何これ?」

「お金だよ、お金」

「ただの紙切れじゃない。お金って硬貨でしか流通してないでしょ」


 それを聞いたレンは次に財布に入っていた小銭を全てテーブルの上にばら撒く。


「じゃあこれは!?」

「うーん、確かにこれは硬貨だけど……。質もデザインも全然違う」

「そっか、まぁそりゃそうだよな。なんたってここ異世界だし」


 分かりやすく落ち込むレンに対して、フェリシアは二回ほど手を叩いた。


「はい、そこしょぼくれない! ……はぁ、わかった、レンの話信じるわ。それとこのまま一人にしたら生きていけないだろうから、私が少しの間だけ面倒見てあげる。その代わりしっかり働いてよね」


 目を潤ませる異世界からの迷子。


「なんてお優しい……! 一生ついてきます! アネキ!」

「一生なんて嫌よ! ちょっと! 手を握るな!」


 本当にこんな優しい人に出会えてよかった。そう心から思うレンであった。

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