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雁字搦めの鎖

「お! おかえり! な? 言ったろ? あいつはそういうやつだって」


 小屋に戻ってきた二人を見るや否や、イッキは誇らしげな顔をして笑う。


「そうだったみたい。ここで待ってて正解だったわね」

「レンさんもフェーレスさんも無事で何よりです」

「おう! すまんな、急に飛び出して」


 フェリシアは少し訝しげな表情を浮かべていた。横にいるクローディアは眩しい笑顔を見せている。


「おばあちゃん、私……」


 その目を見て全てを察したのか、グラディスは続く言葉を遮って頷いた。


「甘くはないよ」

「うん!」


 他の人には分からない。そういう繋がりがこの二人には確かにあった。血の繋がりよりもずっと濃い。共に過ごした時間によってしか作られない、時間を共有することによってしか得られない、切っても切れない繋がりが、そこにはあった。

 そんな関係をいつしか築こう。そう強く思った。


「イッキさん。さっきの話をレンさんに」

「ん? ああ、そうだな」


 なんだろう、と首を傾げる。


「グラディスさんが話した神話。覚えてるか?」

「さすがに覚えてるって。さっきもさっき、ついさっきじゃん」

「じゃあ、何か引っかかることはなかったか?」

「引っかかること? えー……」


 無い知恵を絞っても何も生まれない。今まで生きてきた人生で一番活きたのが直感。それに頼るしかない。


「剣はどこいったの? くらい」


 苦笑いで答えるレンをイッキは感心するようにまじまじと見つめる。


「お前すげぇよ」

「いやぁ~、それほどでも」

「そう、剣なんだよ。世界を割いた剣。俺はどうも気になってな。色々考えたんだけど……」


 釈然としない様子で顔を歪めた。彼は真剣に物を語る時、憶測を用いることをひどく嫌う。


「とりあえず教えてくれ」

「お前に関係のあることだ。いや、お前にしか関係のないことかもしれない。結果的に俺をも救うことになりえるがな」

「んー……? 分からん! どうぞ!」


 昔から変わらないその態度に少し安堵する。


「一見てんでバラバラに思えた事柄が不思議と繋がっているように感じたんだ。二分する剣、二つの世界、お前が今まで話してきた不思議体験。その中でも特にドッペルゲンガー」


 レンは先程起こった出来事を思い出し、顔を強張らせた。いや、出来事をというより、感情を思い起こして。


「小さい時、お前、誰かに斬られて倒れたよな?」


 嫌な勘ほど良く当たる。


「……いやいや! そんな、まさかぁ! だって……」


 信じられない。信じたくない。


「なくはない、だろ? 俺だってそんな偶然、奇跡、天文学的確率を信じたくはないさ。けどさ、ゼロじゃないんだよ。どうしてもゼロにはならないんだよ、その確率は」


 あり得ない話。そんな話は無数にあって、その多くが虚構である。それを人は分かっている。ではなぜ、人はそんなものに惹かれるのであろう。それは、それらがある程度の真実味を帯びているからである。矛盾しているかもしれないが、そういうことだ。ないとは思うけど、ないとは言い切れない。

 嘘みたいな真実。それがこの世に存在する――


「俺が……俺が……二人いるって?」


 イッキは静かに首肯した。

 彼の立てた仮説は無茶苦茶だが否定できない。一本の筋が通っている。

 まずは全てを飲み込もう。


「さっき会ったよ。ドッペルゲンガー」

「本当か!?」

「ああ」


 蓮らしくない。長年の付き合いからイッキはそう思った。


「だったら……帰れるかもしれない」


 疑惑が確信に変わったのか、イッキは饒舌に話し始める。


「蓮の言った通りだと、そのドッペルはこの世界と俺達の世界とを行き来できる。手段は分からないが、確かに往来してるんだ。だったらそのドッペルを見つければ……。そうだ! お前が昔から見てきた未確認生物……そいつら、この世界から迷い込んだんじゃないか? もしそうだとしたら、どこかに元いた世界へと繋がるワープゲートみたいな場所が……。いや、なんにせよ、これは大きな進展だ。必ず向こうに戻れる方法が存在する。それが分かっただけでも安心できるぜ……」

「でもさ、どうやってそれ見つけんの?」


 浮かれ気味だったイッキも冷めた表情で目を落とした。


「それなんだよ……。手掛かりを見つける手掛かりがない」

「ま、それは気合いだな。がむしゃらに探すしかねぇ!」


 いつもの蓮に戻った。理由は分からないけどそう感じる。


「そうだな! お前はそうでなくっちゃ! 今すぐここ出るぞ。まだそのドッペルが近くにいるかもしれねぇ」

「おう!」

「もう行くんですか?」

「クローディア。バカは行動が早いのよ。覚えておきなさい」

「なんだ? 俺と蓮を一緒にするんじゃねぇよ! 俺は馬鹿じゃねぇ!」

「あぁん? おい、イッキくん。それは聞き捨てならねぇなぁ。類友だ、類友!」


 バカということは否定しない。


「はいはい、喧嘩しないの。それじゃあ、フェーレスさん、グラディスさん、ありがとうございました」

「いえいえ、とんでもないです。お気を付けて」

「フェーレス!」


 イッキと言い争っていたレンはくるりとフェーレスの方に身をよじる。


「頑張れよ!」

「……はい!」


 四人はフェーレスとグラディスに別れを告げ、レンのドッペルゲンガーを追った。

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