心ここにあらず
言われてレンは再び地図を見る。だがしかし、やはりこれが元いた世界の地図だとは思えなかった。
「それ本当か? 俺の知ってる地図とだいぶ違うんだけど」
「間違いない」
イッキは確信を得た顔をして首肯し、数秒黙ることで興奮して熱くなってしまった頭を冷やす。
「これは正距方位図法だ」
「せーきょほーいずほー?」
「小学校で習ったはずだ。たぶんお前が考えている地図はメルカトル図法のものだな」
「めるかとる……」
唇を震わせながら苦悩しているバカのことは放置して、もう一人の異世界人は頭をフル回転させていた。
「……グラディスさん。この他にもこの世界の地図ってありますか?」
「あるけど、ここにはないね。普及しているのはこの地図なんだよ」
「そうですか」
イッキは顎に手を当て熟考し、片やレンはフェリシアとクローディアに、あの地図は本当にこの世界のものか、ここは地球なのか、という質問を投げかけているが、それに対して少女二人は首を傾げている。
グラディスは二人の様子を見て少し微笑んだ。
「そうか。あの話は本当だったか」
その言葉を聞いたイッキが思考を中断する。
「あの話……とは?」
「この世界で昔から伝えられている話だよ。でもまぁ、今となってはそれを知る者も少数になってきてはいるけどね」
「聞かせてもらっても?」
「ああ、かまわないよ。」
後ろのバカが騒がしいので、イッキは聞き耳を立てた。
「『その昔、二人の神がいた。神達は一つの世界を創造する。しかし、神達は最初こそ仲良くその世界を育てていたものの、次第にお互いの意見がぶつかり合い反発しあうようになった。そこで解決策として、二人の神は世界をもう一つ創ろうとしたのだ。だが、また一から世界を構築するのには、再び膨大なエネルギーが必要になる。なので、二人はその世界を半分にしようと考えた。これなら、さほどエネルギーの消費は多くない。神達は世界を割くエネルギーを一本の剣に込め、それを振りかざし世界を等分した。こうして、この世界はできあがったのだ。』だいたいこんな感じだね。」
「神ってエネルギーとか関係あるんですか? なんかこう、神って無限大みたいなイメージがあるんですけど」
急にレンが乗り出してきて尋ねる。
「お前聞いてたのかよ……」
「所詮神話だからおかしい所なんて幾らでもあるんだ。ほとんど納得がいかないよ」
レンは体を元の位置に戻して、少女達に聞いた。
「二人はこの話聞いたことあった?」
フェリシアは『全く』というように首を振る。同じくクローディアも首を横に振った。
「では、俺達のいた世界とこの世界は元々同じ世界だったということですか」
「神話上ではね。だが、地図が同じだということを考えると、間違いないみたいだね」
「そう考えるのが妥当ですね。まあ、断定はできませんが。お話を聞かせていただいて、ありがとうございました」
礼儀正しくイッキは深く頭を下げる。それに倣って他の三人も礼をした。
「あまり役に立ちそうな情報がなくてすまないね」
「いえいえ、とんでもないです。何かこちらからの情報提示は」
「もう十分だよ。何も必要ない」
何が十分なのだろう、と不思議に思ってはみたが、おそらく自分には未知の領域の話でありそうなので深く考えるのはやめた。
「本当にありがとうございました。それでは……」
「んじゃ、フェーレス探しに行くぞ!」
レンはそう言い残し、目にも留まらぬ速さで小屋を出ていく。
他の者たちはポカンとした顔でそれを見ていた。
「もう少し落ち着いてられねぇのかよ」
呆れた顔で笑いながらイッキは呟く。
「レンさんはああいう人ですもんね」
「ものすごくデジャヴだわ……」
フェリシアは苦笑いで頭を抱えた。




