クラーク
ナフィア。この世界で言わずと知れた魔法街である。この街から魔法文化が発展していったと言っても過言ではない。
現在、この世界では科学と魔法が併存している。しかし、魔法文化の方がより進展しており、魔法が生活の中心となっている。科学の実用が全くないわけではないが、そのコスト云々を比較すると魔法の方が断然優れているので、科学技術のみを好んで使用する者は少ない。科学より魔法重視。そういうわけで、この世界の科学はレン達の世界のものと比べると遥かに劣っているのだ。
――充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
イッキは自身のスマホを片手に、街中を見渡す。
「……おいおい、なんだこりゃ」
落ち着かない様子で、片っ端から行き交う人々の写真を撮っていた。当然のことながら、彼は好奇の目で見られている。
「ちょっと……恥ずかしいからやめてくれない?」
遠慮がちにフェリシアは苦言を呈した。
「ん? ああ、すまない。見慣れない光景だったから、つい」
「それ何?」
「スマホだよ」
「スマホ? ……ああ、スマホね」
液晶に映し出されているのは、騎士、魔術師、獣人などなど。
指摘を受けて、イッキは画面を暗転させる。
「蓮、獣耳っ娘だぞ! 獣耳!」
「可愛いよな!」
「めっさ萌える!」
「今は『萌える』より『ブヒる』の方が主流じゃね?」
「んなこと、どっちでもいいだろ! 可愛いは正義!」
「ちげぇねぇ! って、ちゃうちゃう! お前、スマホおかしいとこないの?」
レンはイッキの手に握られているものを指さした。
「圏外だけどな。普通に使える」
「電池は残しておいた方がいいんじゃね?」
「抜かりはねぇよ」
ズボンの左ポケットから何かを取り出す。レンはそれを見て息をのんだ。
「ソーラー充電器だ。これで電池の心配はしなくていい」
「そんなバカな……。な、何故ポケットに……」
「こういう時のためだ」
「変だよ、お前」
「お前に言われたくない。ってか、お前のスマホは?」
「……」
一方、フェリシアとクローディア。
「まずは聞き込みね」
この街に来た目的はレンを――いや、レン達を元いた世界に送り返すための情報を得ることである。当人達は談笑中だが……。
「そ、そうですね」
「どうかしたの?」
クローディアは外向的な性格の持ち主ではない。気が進まないのは当たり前だ。
「私がやるから大丈夫」
「すみません……」
「いいのよ。人には向き不向きがあるもの」
フェリシアは優しく微笑みかける。
「よし、じゃあ始めましょうか。レン! イッキ!」
「あーい!?」
「情報集めるわよ!」
「あいあいさー!」
二手に分かれての情報収集。三十分後、時計台の下で集合することに決めた。
「すみません。この街で異世界とかに詳しい人っていませんかね?」
「異世界? 魔界とか?」
「いえ、そういうものではなく、全くの別世界についてです」
「んー……知らねぇな」
「そうですか……。ありがとうございます」
思わず弱音を吐くフェリシア。
「もう何人目よ……。手掛かりも掴めてないわ。無理よ、無理」
「お疲れ様です、フェリシアさん」
「本当に異世界なんてあるのかしら……」
疑念を抱きつつ、半ば放心状態で空を見上げる。
その頃、レン&イッキ。
「ねぇねぇ、君! ちょっと聞きたいことが……」
「何? イマドキ、ナンパなんて時代遅れよ。他を当たってちょうだい」
「いや、ちが……行ってしまった……」
こんな調子で十数分。
「おい、蓮。ろくに話すら聞いてもらえてないぞ。ちゃんとやってんだろうな?」
「やってるよ! おっかしいな……」
断られる理由が分からずに悪戦苦闘している。
頭を掻きむしりながら、イッキは周囲の人々を観察していた。
「異世界人だから……ってわけでもないよな。ほとんどの人は、服装も俺達の世界とたいして変わらないし、見た目なんてまんま人間だ。煙たがられている理由が分からん」
あらゆる可能性を考える。そして、もう一度だけイッキは尋ねた。
「ちゃんとやってるんだよな?」
「ああ」
「『すみません。お聞きしたいことがあるのですが』とか、ちゃんとした言葉使ってるか?」
「え、そんな堅苦しい言葉使うの?」
「これが普通だ。今までどうやって声かけてきたんだよ……」
「『ねぇねぇ』って」
「それだ、それ。原因それ。はい、やり直し」
「いえっさー!」
レンは次に声をかける人を決めるため、人混みに目を凝らす。すると、目立つピンク色の耳を持った猫系獣人の女の子を発見。
どうせ話しかけるなら女の子。討論の末、二人(主にイッキ)が決めたことだ。
レンはその女の子に近付く。ちなみに、獣人に話しかけるのはこれが初めて。
「すみません。お聞きしたいことがあるのですが」
「はい、何でしょう?」
耳をピクピク動かしながら、レンの返答を待っている。
「ここら辺で異世界とか、何かそういうものに詳しい人いませんかね?」
「異世界ですか?」
「はい。こことは違う世界で、えーっと……言葉とかお金とか、なんかここと似たようで似ていない世界で……」
レンなりに一生懸命説明しようとしているが、なんとも歯切れが悪い。不安そうな顔でイッキがそれを見守る。
あたふたしている彼の姿を見て、彼女は少し笑った。
「あなたの求めている情報かは分かりませんが、そういったことに詳しい人なら知っていますよ」
「本当に!?」
「良かったら紹介しますが……」
「ぜひ!」
嬉しさのあまり、反射的にレンは彼女の手を握る。それに驚いた猫娘は尻尾をピンと立てた。
「あ、あの……」
「?」
「手を……」
「おおっと! ごめん!」
言われて気づき手を離す。
「俺は神成蓮! 蓮って呼んでくれ! そんで、こっちのは霧島樹。イッキと呼ばれることを望んでいる、と思う」
紹介されたのを何となく察して、イッキは軽く会釈した。
「私はフェーレスです。では、さっそく案内しますね」
「あ、ちょっと待って! 他にも仲間がいるんだ。呼んできていいかな?」
「構いませんよ」
印象の良い笑顔を浮かべて快諾する。
その後、時計台の下で予定通り合流し、フェーレスの案内でその人物の元へと向かった。
余談ですが、二人は下校中に異世界へワープしました。なのに、何故制服ではないのか。実は、レンとイッキの高校は私服登校なのです。なので、この世界で着ている服も制服ではないんですね。
また、服の洗濯等は魔法を使って行っています。便利ですね。羨ましいです。




