二人と二人
「ちょっと! 起きなさいって!」
フェリシアの きぜつキャンセル!
「うおっ!? お……おう……」
こうげきを受けて、レンは瞬時に意識を回復する。
「しっかりしてよ。この人と会話できるのあんただけなんだから」
「あー……」
レンの耳に入ってくる言葉は、どちらも日本語なのだ。しかし、イッキがフェリシアの言葉を理解できていないということは、この世界の言語は日本語ではない。加えて、イッキは英語が得意で、割と流暢に話すことができる。よって、先の『わけわかんねぇ言語』という発言から、その言語は英語でもないと断定可能。
だが、こんな考察をレンがするわけもなく――
「なんで? なんで言葉通じてないの?」
「……だから、こっちがレストラト語で、そっちがニホン語だからでしょ」
「いやいや! その二つ同じだって! 俺会話できてるじゃん!」
「ああ、もう! あんた本当に頭悪いわね! 違うって言ってるの! 現状把握しなさいよ!」
レンとフェリシアが言い争っているのを見て、今まで口を閉じていたクローディアが間に割って入った。
「お二人とも、一旦落ち着きましょう。まずは、情報を整理することが大事です。レンさん、その……イッキさん? でしたっけ。まずは、その方とのお話を済ませてください。ゆっくり、ちゃんと話した方が良いと思うので」
「……そうだな、すまん」
「いえいえ」
微笑むクローディアを背にして、レンはイッキと向かい合う。
「えー……まずは……何から話せばいいかな?」
「俺が先に話す。その方がきっと手短に済むはずだ」
「そうか。たのむ」
遠回しに『お前は要領が悪い』と非難されているのだが、このバカがそんなことに気付けるわけがない。また、イッキの方も馬鹿にしたつもりは全くない。効率良く情報を整理したいだけだ。無意識での発言。
「まず、俺がここに来た手段だが、お前と同じ。滑り台をすべってだ。お前がいなくなった後、テンパっちまって、一心不乱に滑り台をすべり続けた。そしたら、ここに落ちてきたってわけ。あんなに動揺したの初めてだったぞ……。そして、おそらく、いや、確実にだな。俺がここに来た時間とお前がここに来た時間には差異がある」
「サイ?」
「……誤差、ズレだよ、ズレ。それくらい分かれよ!」
「すいませんねー」
そう言ってへの字口をしているレンの顔は、どこか嬉しそうだった。
「お前はここに来て何日目だ? ……って覚えてないか」
「三日目くらい?」
「あれ、意外と経ってないのか。いや、経ってるか。んー? よー分からんな! でもまぁ、ズレがあることには変わりない。ふむ……」
イッキは無言で何かを考えている。
「よし、じゃあ次は俺が語る番だな!」
「おっと! その前に聞きたいことがいくつか」
「お? なんだね。言ってみたまえ」
間違いなく、この質問を終えた後、レンのターンは回ってこない。必要なことを全て聞き出すからだ。
「そこの二人は味方でいいんだよな? なんか赤い人、剣みたいなの背負ってるけど……」
「ああ、フェリシアな。騎士やってるんだと」
そんなこと本人は一度も口にしていない。
「ほう……って騎士!? そうか、じゃあ外国ってわけでもなさそうだな。たぶん。ちなみに、そこのちっちゃい子は?」
「クローディアな。さっき紹介したろ! 覚え悪いなぁ……」
「お前にだけは言われたくなかったよ。で、何やってる子? 魔法とか使えるの?」
「いいや。助手って感じかなー?」
レンは忘れているようだが、クローディアは特殊な能力を持っている。
「助手? なんだ、助手って」
「えーっと、たとえば」
「いや、説明しなくて大丈夫だ。ニュアンスは分かったから」
「そうか?」
少しばかり不服そうなレンと話を先に進めたいイッキ。
「とりあえず敵ではないんだな。それが分かればいい。あとはそうだな、異世界と言えば……モンスター? ま、さすがに――」
「いるよ」
「はい、異世界確定しましたー! ありがとうございまーす!」
なんだかやけになった様子のイッキに驚く異世界人二人。
「ぜってー外国じゃないじゃん! 一筋の希望の光も見えなくなっちゃったよ!」
「何言ってんだ! 希望はいつもお前の手の中にある!」
「ねーよ! ふざけてんのか!」
「いやぁ、一回言ってみたかったんだよね」
「ふざけてたね、うん。……ま、どうしようもないしな。割り切ろう」
似た者同士の二人は、どちらも潔いのだ。
「まだ、質問いいか」
「えー、まだー?」
文句を垂れつつも、イッキの質問にレンはちゃんと(?)答えていく。そして、イッキはおおよそ全てのことを理解した。
「――だとすると、やっぱりそこの二人と会話できないのは辛いな」
「せやなー……。そうだ、俺が通訳しよう!」
それを聞いたイッキは渋い顔をする。
「それしかないか……。まかせたぞ」
「おう!」
次は異世界組との交流を図ることになった。
 




