豪放磊落
明朝。魔法で栄える街『ナフィア』を目指して歩く。まずは、ゴラモ峡谷を抜けるのだ。
「眠い……」
半開きの目で、レンは歩きながら欠伸をする。
「いいだけ寝たじゃないの」
「六時間『しか』寝てない」
「六時間『も』寝たでしょ」
ワワッグ達との争いを終えた後、三人はハウスに戻って、早々と就寝準備をし、すぐに寝た。レンは慣れない長距離移動と戦闘で憔悴しきっていたので、不要なトラブル(覗き)も起きずに済んだのだ。
清々しい朝の陽の下、一行はひたすら歩く、歩く、歩く。
「ここも景色変わらんなー」
周りは見渡す限り一面、岩。先の草原とは違った景色で、最初は興奮したものの、数十分歩いただけで飽きてしまった。
「旅なんてこんなものよ。歩くのがメイン」
実際、旅を始めてから、活動時間の半分以上は徒歩である。思っていた以上に退屈だ。
「同じように見える景色でも、よく見ると色々違って面白いですよ」
クローディアが励ますように微笑みかける。
「うーむ……」
レンは歩くだけでは手持ち無沙汰だったので、極鍛術を使い、周りを注意深く見ながら歩くことにした。目を金色に輝かせる。
「レン。あまり使いすぎると良くないわよ」
「え? なんで?」
だるそうな声を出して、フェリシアの方を向いた。
「ちょっと! それ使ったまま、こっち見るんじゃないわよ!」
「あー、めんごめんご」
言われて目の色を元に戻す。
「自覚ないの? それ、結構体力消耗させるのよ」
「そうなのか。まぁ、疲れるだけならいいじゃない。暇つぶし、暇つぶし」
そう言って、またレンは瞳の色を変えた。
「……ご自由にどうぞ」
呆れ顔でレンを見る。
一方、極鍛術で遠く先を見据えるレンは何かを見つけたようだ。
「看板だ」
「看板?」
そこに記された言葉を読み上げる。
「『ここはごらもきょーこく』だってさ」
特に興味がなかったので、レンは他に面白そうな物を探した。
しかし、結局何も見つからず、そのまま三人は看板まで歩く。それの前まで来ると、彼らは立ち止まって考え始めた。
「こんなところにポツンと……不自然ですね」
訝しむクローディアに、フェリシアは言う。
「やっぱり変よね。前にもこれと同じようなの見たわ」
「前にも?」
「ええ。ポプラナ高原で、こいつと初めて狩りに行った時ね」
横にいるレンを指さした。
「ん? ああ、そういえばあったな」
「誰が立てたのかしら?」
「知らね。まぁ、暇人には違いねぇよ」
「暇で看板立てるって、頭かなりヤバいわよ」
「フェリシアさん、失礼ですよ。きっと、私達のような旅人のためにやってくれてるんです」
「……そうかしら」
目的も行為者も、全く見当がつかない。看板の謎をまたもや放棄し、先に進むことにした。
「というか、レンさん。異世界から来たのに、文字読めるんですか?」
歩きながら小首を傾げて問う。
「ああ、なんか元いた世界と同じ文字なんだよ。言葉も」
「そういえば、ちゃんと会話できていますね!」
「なんかその言い方、心に刺さる……。俺が会話もできないバカみたいじゃないか……」
「す、すみません!」
ペコペコと頭を下げるクローディアに、フェリシアは声をかける。
「謝らなくていいのよ。実際バカなんだし」
「な、なんだと! 俺のどこがバカなんだよ!」
「そういう発言も、全部」
「ちっきしょー! バカって言う方がバカなんだよ!」
「はいはい。私はバカですよ」
「てめぇ、バカにしてんのか!」
「まぁまぁ、落ち着きましょうよ……」
こんなアホなやり取りをしながらも、三人は着々と歩みを進めて行った。
「ところで、クローディア。ここに用あったんじゃないの?」
旅立つ前の発言を思い出して、彼女に尋ねる。
「それなんですが、もう手に入りました。ワワッグの羽根です」
「ああ、そうだったの。それじゃあ、このまま峡谷通過しても大丈夫ね」
「はい! 問題ありません!」
何事も無く歩き続けて十数時間。日もだいぶ傾いていた。
「明日にはここを抜けられそうね。今日はもう休みましょう」
それを聞いたレンが猛烈に喜ぶ。
「やったああああああああ! やっとオヤスミだああああああ!」
「じゃあ、レン。一仕事お願いね」
「あいよ!」
「クローディア。また、頼むわ」
「はい!」
ラウムハウスを展開し、三人はリビングでくつろいでいた。
「疲れたぁぁあぁあぁああぁ」
変に抑揚をつけて、疲れを口から漏らすレン。
「あんたにしては頑張ったわね。もっと駄々こねるものだと思っていたわ」
「途中から魂抜けたみたいでしたけどね」
苦笑いでクローディアが言う。
「なんか悟ってたぜ……俺そっちの才能あるかも」
「そっちって何よ……。あんまり調子に乗ってると、いつか――」
ド―――――――――――――――――――――――ン!
「な、何だ!?」
「煙突から何か落ちてきたみたいです!」
「もしかして、サンタクロース!?」
目を輝かせるフェリシア。三人は暖炉の中を凝視する。
舞い上がった灰に人影。レンは目を丸くした。
「お……お前は……!」




