表裏
燃えた大地の跡に、冷たい風が吹き付ける。
「助かったわ、クローディア。ありがとう」
「いえいえ、そんなにたいしたことは……」
「実際めっちゃ助かったって! クローディア来なかったら、俺ら絶対ヤバかったもん」
フェリシアは、クローディアの傍らに置いてある火炎放射器を見た。
「これ、さっき私が使ってたやつね」
「さっき……? お前、これで肉焼いてたのかよ!」
これを背負って肉を焼くフェリシアの姿を想像すると、なんだかシュールで笑えてくる。
「はい。外に出たら置いてあったので、使わせてもらいました」
瞬時に状況を判断して最善の手段を取ることは、なかなかできたことじゃない。知識豊富な上に、頭の回転も早いようだ。
「そういえば、なんであの高周波の影響を受けていなかったの?」
「ああ、それでしたら……」
ポケットに手を入れ、二つの小さな物体を取り出す。
「これは――」
「耳栓! 耳栓じゃん! モン○ンじゃん!」
レン。それは、言ってはいけないことだ。
「これでかなりの音を遮断できたので、大丈夫でした。ハウスの中にいた時にワワッグの声が聞こえて、持って行ったわけです。でも、おかしいですよね……」
「ええ、私も驚いたわ……」
「ん? あのフォーメーション?」
フェリシアは真面目な顔をして、ひとつ咳ばらいをした。
「ワワッグってのは、基本、昼間に活動する生き物なの。人間と同じように、朝起きて、夜に寝る。この時間帯なら、普通、巣に戻って休息を取っているはず」
レンは思ったことを口にする。
「いや、でもさ。それだったら、こいつらも人間と同じように夜更かしとかするんじゃないの?」
「確かに、ないとは言い切れないわ。うん、それだけなら気にしなかったかも」
「……? やっぱり、合体技?」
「それも重要な点ね。あんなに統率の取れた動き、今まで見たことなかった。前のザルギオンといい、何なのよ……。それと、まだ不可解な点があるの」
ワワッグの死骸と散乱している肉の方に目を向け、怪訝な表情を浮かべながら、また口を開いた。
「あいつらは草食。肉なんて食べない。食べるはずがない。これだけは言い切れる」
「でも、うまそうに食ってたぜ?」
「そうよね。一体、何が……」
腕組みしながら喉を鳴らすレン。不安そうに考え込むフェリシア。
「とりあえず、転送してしまいましょうよ!」
クローディアは極めて明るい声で、嫌な空気を壊そうとする。
「……そうね」
フェリシアは水晶のネックレス外して手に持ち、数歩進んだ。
「クローディア。これ全部送っちゃっていいの? まぁ、たぶんこの有様じゃ、使える物ないだろうけど……」
高熱で焼かれたワワッグ達は、見るに堪えない醜い姿になっている。自慢の綺麗な翼も、黒く荒んで見る影もない。
「そう……ですね。はい、全て送ってもらっても構いません」
少し落ち込んだ様子の黒髪少女は、惨劇の跡を見渡した。一部分ではあるが、生い茂っていた草も燃えて灰になり、モノクロで不完全な景色が目に入ってくる。
その中に、彼女は幾つかの輝く欠片を見つけた。不思議に思って、ゆっくりと近づいていく。そして、それを手に取り、暗い夜空にかざした。
「フェリシアさん! ありました! ありましたよ!」
「何が?」
「羽根です! ワワッグの羽根です!」
輝く羽根と輝く笑顔。
「戦闘中にでも落ちたのかしら? 良かったわね! でも、それだけで足りるの?」
「はい! あと数本落ちているようなので、必要な分は揃います!」
「そう。なら良かった」
小さな水晶はその二つの輝きを反射して、闇の中でより一層光っていた。




