ウッドペッカー
典型的な三角屋根のログハウス。三人で使用するには大きすぎるサイズであり、資産家が別荘に持っていてもおかしくない程、立派なものである。
まずドアを開けて中に入ると、明るい光が降り注ぐ温かな印象の玄関が迎えてくれる。そこから更にドアを開けて奥へ進むとリビングだ。中央には大きな暖炉が設置されており、その前にはアンティーク調のセンターテーブル、また、それを囲むように幾つか椅子やソファが並べられている。
隣のフロアには、開放感のあるダイニングキッチン。L字型の調理場で、広々としたシンクの上には様々な種類のフライパンがぶら下げられている。作業台の隣にコンロのようなものが見られるが、どうやらガスを用いて火を起こすわけではなさそうだ。元栓やガスホースも見当たらない。
一階は残すところ、バスルームだけである。ログハウスにプラスチック製の洗面設備はなんとなく違和感があると思われるだろうが、日本のような据置き型のものではなく、洋風のデザインであるので意外とすんなり受け入れられる。きっと入浴時も、贅沢な雰囲気を味わえるはずだ。
リビングにある暖炉と対峙する位置に階段が配置されており、それを上るとフリースペースとベッドルーム。開放的なスペースの奥には六つのベッドが設けられている。前述した通り、手前には何も置かれていない床が広がっているので、その気になれば更にベッドを増やすことも可能だ。
長々と説明してはみたが、結局のところ何が言いたいのかというと、とにかく素晴らしい家。
「「……」」
リビングに立つ三人のうち二人、つまりはレンとフェリシア、両人は口をあんぐりさせて、ただただ呆然と内装を見渡していた。
なんだか落ち着かない様子のクローディアが口を開く。
「け……結構立派なおうちでしたね」
それを聞いたフェリシアは即座にクローディアに目を向け、怒涛の勢いでログハウスを絶賛し始めた。
「結構!? 結構どころじゃないわよ! 大層御立派よ! どこの豪邸!? まさかこんなブルジョアな建物に宿泊するなんて思ってもいなかったわよ! 何あれ? 暖炉? 暖炉なのね!? サンタクロースとか来ちゃうのかしら!?」
「い……いやぁ……どうでしょう」
おかしなテンションのフェリシアに、クローディアは戸惑いを隠せない。引きつった笑顔でとりあえず相槌を打っておく。
レンは「サンタクロースってこの世界にもいたんだ……サンタクロースすげー……サンタクロースサンタクロースサンタクロースサンタクロース……」と小さな声でブツブツ呟きながら、未だ放心していた。
フェリシアはなおも続ける。
「あれはキッチンね! なんかいっぱいフライパンがぶら下がってるわ。大きさも形も色々あって、選り取り見取りじゃない! あそこから一つ拝借して私の盾として使おうかしら! あの一番大きいやつなんか防御力高そうじゃない!?」
「え……えぇ……あのぉ……フェリシアさん?」
「何!」
「ひっ……!」
鋭く見開かれたフェリシアの目に怯えて、クローディアは言葉を呑んだ。
その姿を見て、フェリシアはようやく我に返る。
「……ごめんなさい、なんだか興奮しすぎたわ……。こんなに豪華なものだとは思っていなかったから……。いや、本当は外観を見た時に薄々は感じていたけどね、想像以上だったわ」
「私もびっくりしました。ここまでのものだとは……」
「あら? このラウムハウス初めて使ったの?」
「はい。私は魔力を持ち合わせていませんから」
「それもそうだったわね。それにしても、これだけのもの貰ったって……」
フェリシアは半信半疑の目でクローディアを見つめて、彼女の素性を怪しんだ。
「だから、フェリシアさん! 私そんな危ない事に関わってませんって!」
「ふっ、どーだか」
「フェリシアさんっ!」
からかうフェリシアを、クローディアはポカポカと殴る。
ごめんごめん、と幼女をあやしながら、フェリシアは一つの疑問を口にした。
「そういえば、あんた体の疲れとかないの? なんかこう……『具合悪い』とか『立ってるのもやっとだ』とか……」
これだけ巨大で豪勢なラウムを展開するのには、それに見合った甚大な魔力を消費する。魔法がある程度使える者でも倒れてしまうくらいの魔力は使用するはずなのだ。
フェリシアの質問にレンは首を捻る。
「うーん……確かに多少の疲れはあるな。例えるなら……」
「例えるなら?」
フェリシアは息を呑んだ。
「例えるなら……そう! オ○ニーした後の疲労感!」
「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
勢いよく放たれた拳はレンの顔面にクリーンヒット。そのままレンは床にぶっ倒れて、本日二度目となる気絶を経験した。




