トワイライト
「懐かしいなぁ。よくここで遊んでたんだよな」
「あの頃はホントバカだった。ブランコが一回転した時はさすがにびびったわ」
幼き頃を回顧して、満足げな顔をする蓮。
「今もな。ってか一回転どころじゃなかったろ。勢い収まらず三回転はしたぞ。お前あれでよく怪我しなかったな」
「そこはあれよ、気合! なんでもどうにかなるってば」
「それを有言実行できるのはお前くらいだよ……」
二人は公園の入口に立っていた。まだ空は明るく、公園の中には遊具で遊んでいる子供の姿が見受けられる。
「遊具使うのは子供いなくなってからで、とりあえずベンチにでも座って思い出話に花咲かせますか」
「遊ぶんだ……お前人目とか気にしないの? 蓮ってやっぱり度胸すげぇよ」
「おいおい、そんな周りばっかり気にしてちゃ人生楽しめないぜ! 楽しくいこう、楽しく。前向き、ポジティブに!」
「はいはい、付き合いますよ」
「レッツ青春!」
ベンチに腰掛けて、夕暮れまで二人は談笑していた。この時間になってくると子供は徐々に帰宅し始め、公園は殺風景なものになる。それは見方によればとても無気味な光景。錆びれた遊具がたまに吹く強風で軋む音を立てる。
「よし、それじゃあ遊びますか!」
蓮はベンチから大きく伸びをして立ち上がった。
「何やる? ブランコか?」
笑いながら問う友人に蓮は真剣な表情で答える。
「いいや、滑り台だ」
「す……滑り台……」
友人は息をのむ。
「ああ、この時間、そして公園。やることは決まっていたのさ」
「ま、まさか……お前あれを! 危険すぎる! 今からでも遅くない、考え直せ!」
「止めてくれるな。覚悟はできている」
「……もう何言っても聞いてくれなさそうだな。よし、俺が最後まで見届けてやるよ」
「ありがとう、同志よ」
この二人。分かっていなくて分かっているようなやりとりをしているように見えるが、実際のところはちゃんと通じ合っている。
昔、あるテレビゲームを一緒にプレイした時に知った公園での不思議体験。勿論ゲーム内なので完璧なフィクション。それをこのバカ二人は実行しようとしているのだ。
「で、どうやるんだっけ」
「確か何回もすべればいいはず」
「そんな簡単だったけ?」
「特別な時間に特別な人だけが行けるんじゃなかったかな」
「あんま覚えてねぇや。とりあえずやってみよー!」
そう言って滑り台の上から手招きする蓮。
「え、俺もやんの?」
「だってその方が確率高いじゃん」
「……しゃーねな」
なんだかんだで自由奔放な蓮に付き合ってくれる友人、類は友を呼ぶとはまさにこのこと。
二人は何度も何度も滑り台をすべり続ける。だが何かが起きる気配は一向になかった。
「もう何回すべったんだ……尻いてぇぞ……」
嘆く友人を気遣ったのか蓮も見切りをつける。
「じゃあ次で終わりにするか。最後は目つぶりながらすべってジャンプして着地するぜ」
「なんか意味あんのか、それ」
「意味などない! やることに意味があるのだ!」
「わけわかんねぇ……」
地上から蓮を見上げる友人に声をかけ、大きく片手を上げながら高らかに宣言した。
「では、わたくし神成蓮。行ってまいります!」
「おう! 行ってこい!」
勢いよく鉄の板をすべり、感覚だけで最後に大きくジャンプする。
「ほっ!」
大きく空に向かって手を開き、体操鉄棒の着地さながらに綺麗なポーズを決め
た。
「決まった……。どうだ! 見たか!」
「ええ、ばっちり」
聞き覚えのない声を不思議に思い目を見開くと、目の前には女の子が立っている。
「……」
「よかったわね、瞬間移動が成功して。満足したなら早く元いた場所に戻ってよ。周りの皆が見てる。私まで同類扱いされたら、たまったもんじゃないわ」
蓮は上げていた両手をそっと下ろし尋ねた。
「あんた誰」
「こっちのセリフよ!」
これがすべての始まりで、途方もない旅の幕開けであった。