見栄と虚構
ヒューレコックを出て、ナフィアの街へと向かうレン達。ゴラモ峡谷を経由するため、まずはベベルネ草原を突破することになった。
「おおおお! なんかたくさんいるぞ!」
草原を闊歩する多くのモンスターを見て、歓喜の声を上げる。
「いちいちはしゃぎすぎだっていうの!」
「レンさんって、この前ポプラナ高原に行ったんじゃないんですか? あそこの方がここより色んなモンスターいますよね?」
フェリシアはそれを聞いて苦笑した。
「そうなんだけどね……。あの時はザルギオンの気配があったからか、全然他のモンスターがいなかったのよ」
「そうだったんですか」
「ザルギオン?」
その単語を耳にし、レンは小首を傾げる。以前、フェリシアとリュートの会話で一度聞いたことがあるはずだが、すっかり忘れてしまったらしい。
「あの青い飛竜よ」
「ああ! あいつか! 強かったなぁ……」
レンは顔をしかめて、あの時のことを思い出す。苦虫を噛み潰したような顔で、フェリシアはそれに同意した。
「ええ、確かにね。なんだかこの前のはいつもと動きが違ったわ……」
普段通りなら問題なく倒せたわ、と言うような発言だと汲み取ったのか、レンが厭味ったらしくおちょくる。
「言い訳ですかぁ?」
「……違うわよ、真面目に言ってるの。今までザルギオンは何度も狩ってきたけど、あんなに賢い攻撃をしてきた個体は初めてだわ……」
真剣に思い悩む様子のフェリシアを目にして、レンはしまったというような顔をした後、フォローしようとした。
「うーん、でもまぁ、そういうこともあるよな。新作でモーション追加されたとか、なんか……そういうやつ……」
小さく笑って、フェリシア。
「何言ってんの。それとフォローするなら、もっとうまいことやりなさいよ。まったく」
「なんだよ! 落ち込んでるかなーって思ってさ、せっかく気遣ったのにさ!」
場が和んだことを確認して、クローディアが会話に入る。
「でも、ザルギオンなんて、よくレンさん一人で戦えましたね。初戦闘だったんですよね?」
それを受け、レンは得意げな顔をした。自慢するような口調で滔々と話し出す。
「まあな! 初戦にしてはなかなかの出来だったと自分でも思うよ。討伐とまではいかなかったけど、撃退したのはかなりの好成績じゃないかな。もちろん苦戦はしたよ? なんせ相手はドラゴン。でも、そこは才能ですわ。いやぁ、強すぎるのも困りもんだな!」
フェリシアは小馬鹿にするように鼻で笑った。
「よくそんな得意げにペラペラと語れるわね。本当は初戦がスライム相手で、しかも一撃喰らってダウンしてたくせに」
「あ、あれはノーカンだ! それにやられたのはお前のせいだろうが!」
「才能あるお方ならあんなの簡単にかわせましたわよね?」
「ぐぬぬ……」
前とは逆の立場で、今度はクローディアがレンを制する。
「まぁまぁ、落ち着いてください」
「分かった! 見てろ! あそこにいるあいつ! あいつを今から倒してくる!」
そう言ってレンが指さした先には、四足歩行する緑の毛で覆われた巨体。角や牙は見られないが、その大きさゆえ、普通の人間であれば近付くことすら躊躇うだろう。
「ふーん……いいわ、見ててあげる」
「おっしゃ! 俺の華麗な狩りを見て惚れるなよ」
レンは一目散にそのモンスター目掛けて走っていく。
「あれって……」
つぶやくクローディア。
「そうよ、ガンファーね。死ぬことはないでしょ、たぶん」
「たぶん、ですか……」
「ま、存分にあいつの勇姿見てやりましょう」
レンはガンファーという名のモンスターに先制攻撃を仕掛ける。しかし、間違いなくレンは全身全霊を捧げた拳を放ったのだが、山のようにそびえ立つガンファーはびくともしない。レンはひたすら殴り続ける。
遠目から見守るフェリシアとクローディア。
「なんか見てて可哀想になってきたわ」
「そうですね……」
「……あ」
嘆声を漏らすフェリシアの目線の先には、ガンファーに突進され地面に倒れているレンの姿があった。
「あれ、完全に伸びてますよね……」
「伸びてるわね……。はぁ……本当に世話が焼ける奴」
剣を抜き、面倒臭そうにフェリシアはレンを助けに向かう。
レンが目を覚ましたのは、それから三十分後であった。




