殴りに行こうか
異世界への扉を目指し旅を続けるレン達は、新たな仲間クローディアを加えて、今日も歩いていた。
「なんか今、聞き覚えのあるナレーションが入ったような……」
辺りをキョロキョロと挙動不審に確認するレンに、フェリシアが声をかける。
「レン、着いたわ。ここよ。ってか何してんの? 恥ずかしいからそういう変な行動取らないでよね……」
レンは二人のもとに駆けつけて、彼女が言う建物を見上げた。
「うはー! でっけぇー!」
もうこの男の性格を把握して、大声を出すタイミングを掴み、怯えなくなったクローディアは、にこやかに説明を始める。
「レンさんは良いリアクションしますね。ここは世界でも有数の武具屋です。旅を始めたい素人さんから、手の込んだオーダーメイドが欲しい玄人さんまで、幅広い人達が利用します。剣や盾はもちろん、魔法の杖、魔導書、格闘家さんなんかのためにナックルダスターも置いていますよ」
「ナックルダスター?」
「拳にはめて打撃力を上げるものよ」
「メリケンサックか!」
頭に疑問符を浮かべるフェリシア。
「とりあえず中に入りましょう。さっさとあんたの武器買わなきゃね。あ、ちゃんとお金は後で返してもらうから」
「……ケチ」
「今、なんか言ったぁ?」
ものすごい形相で目を光らせて威嚇する。ひるんだレンは目を泳がせ、わざとらしく口笛を吹いていた。
「レンさん……音出てませんよ……」
建物の中に入る際、三人は店員と思しき人物に話しかけられる。
「では、チェックを行いますので、無効化魔法等を使用しているお客様がいらっしゃいましたら、解除の方をお願いします」
「大丈夫。誰も使ってないわ」
「分かりました。では、失礼します」
そう言って店員は杖をかざし、何かの詠唱を始めた。すぐにその詠唱が終わると、困った顔をしてレンの方を見る。
「申し訳ありません。そちらの男性のお客様、今一度、使用魔法のご確認をお願いしてもよろしいでしょうか」
そう言われたレンは助けを乞うようにして、即座にフェリシアの方へと顔を向けた。
「あー……そっか、あんたそういう系統の魔法もダメなのね……。店員さん、ちょっと色々事情があってこいつにはその魔法はかからないの。こいつの無害さは私が保障するから、店に入れてくれない?」
「そう言われましても……」
困惑した様子で考え込む店員。
と、そこに割り込む人物が一人。
「おうおうおう! どうしたどうした! なんかあったのか!」
「あ、店長! 実はちょっと困ったことがありまして……」
「ん~?」
目を細めながら、レン達のいる方向に目線を動かす。
「お! その顔はフェリシアじゃねぇか! 今日はどうした?」
どうやらフェリシアの知り合いであるらしい大男は豪快に笑って尋ねた。
「連れの買い物に来たのよ。それで、困ったことって言うのは、防犯用の魔法がこの男にかからないこと。ちょっとワケありなんだけど……」
「うーん……。いいぜ、入んな!」
「え、でも……」
それを聞いた店員は、少し動揺して口をはさむ。
「こまけぇこと気にすんなって! それにフェリシアの連れなら心配いらねぇさ」
「ありがとう。ライラックさん」
「いいってことよ! さ、入った入った!」
クローディアが言った通り、店内には様々な武具が豊富に取り揃えられている。フレッシュで爽やかな感じの青年達が剣を手に取って和気藹々と談笑していたり、ゴツイ鎧を身に纏った男が今のものよりさらにゴツイ鎧を見ていたり、奇怪な黒装束の人が店員と何かを話していたり、中にはまるでゲームのような、剣士、弓使い、魔導師、ファイター、といったパーティで行動している客も見られる。
「自己紹介した方がいいかな? 俺はこの店の長、ライラックだ。フェリシアにはこの店を贔屓にしてもらってる。ありがてぇ話だ。お前さん達もこれからよろしくな!」
「レンです! よろしくお願いします!」
「ク、クローディアです。よろしくお願いします……」
クローディアはこの手のタイプがあまり得意ではないのか、委縮した態度で挨拶を済ませた。
「んで、お二人さんは何をご所望で?」
「あ、今日買いに来たのはそこのレンの武器だけなのよ」
「ほう、一体何が欲しいんだ?」
店内を見回し色々な武器を観察した後、結論を出す。
「そうですね……じゃあ初心者向けのなんとかダスターあります?」
「ナックルダスターか。ちょっと待ってろ」
ライラックはナックルダスターが並んでいる棚に向かい、その中の一つを手に取ってレンに渡した。
「これなんかどうだ。何の特徴もないが、一番強度があって、攻撃力も高い」
レンはその武器を拳にはめ、感触を確かめる。
「レン、あんた剣とかじゃなくていいの? 最近あんまりファイター系っていないわよ?」
「いいの、いいの! おっちゃん! これください!」
「まいどあり!!」
レン、異世界での初購入武器はメリケンサックとなった。




