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あまいかおり

「おかえりー。何話してたの?」


 純真無垢な笑顔で尋ねるレンに、フェリシアはつい苦笑いで対応してしまう。


「いや、別にたいしたことじゃないわ」


 フェリシアに次いで部屋から戻ってくるリュートが言った。


「そうよ。ただの女の子同士のは・な・し☆」

「そ、そうですか」


 顔を引きつらせて、そっと視線を違う方へとずらす。もうそれ以上詮索するのはやめた。


「とりあえず、今日はここに一泊させてもらえることになったから」

「へー! そりゃありがたい!」

「それと明日ある人物に会ってもらうわ」


 はて、と首を傾げて不思議そうにフェリシアを見る。


「あんたの話をしたら会いたいって言う子がいたの。なんたって初めての狩りで竜の種族を狩ったんだからね。可愛い子だからって手出すんじゃないわよ」


 『ちょっと、騙し方が下手じゃない?』と言いたそうな顔でリュートは眉をひそめた。

 実際問題この説明は蜂の巣ばりに穴だらけだ。不可解な点が幾つもある。


「マジかよ! やったー! 早くも異世界で俺のファン第一号!?」


 さすがレン。何も考えない。

 ホッとしたリュートは胸をなでおろす。


「待ち合わせは……十四時。十四時にここに来るから、それまでここにいて頂戴ね」

「時間までこの街の観光とかはダメなのか?」


 何も知らないレンの発言。脱走をはかっているのかと疑ったリュートは、適当に理由を作りなんとか外に出すまいと行動を誘導した。


「あとから来る可愛い子も一緒の方がいいんじゃない? その方が楽しいと思うし、両手に花よ。それともフェリシアと二人っきりが良い?」


 半笑いで言うリュートに戸惑うフェリシア。


「ちょ、ちょっと!!」

「是非美少女二人と観光を!」


 即答するレンにフェリシアは少しだけ機嫌を損ねる。ブツブツと小言で何か言っていた。


「こっちだって御免よ。……そりゃ美少女の方が良いわよね。美少女二人……二人?」

「んじゃもう疲れたし寝ようぜー。ってかできることならこの血を洗い流したいんだが」


 レンは今までずっと血まみれ。思えばなんともシュールな状態で会話していた。


「シャワーがあるから使っていいわよ。フェリシアも汗流してきたら?」

「じゃあ、そうするわ。私も今日は疲れたから、シャワー浴びたらすぐ寝ることにする」

「先に行ってきていいぜ」

「そ。じゃあ先に使わせてもらうわ」


 そう言ってシャワー室へと足を向ける。何かに勘付いたのか、急にピタリと歩みを止めた。ジト目でレンを睨み付ける。


「あんた、覗こうとしてる?」

「いやーそんな訳ないじゃん。だいたい覗きの手段なんて何も」

「極鍛術」


 フェリシア、食い気味で咎めた。


「えー……っと、いやーそんなー……まだうまく使えないし……さっきみたいに吐いたら嫌だし……」


 なんと白々しい。

 無言で睨み続けるフェリシア。


「はい! 覗くつもりでした! すいません! 裸が見たかったんです! 俺だって男だし! いや、じゃあ問おう! 女の子が近くでシャワー浴びてるのに、覗かない馬鹿がどこにいる! いないだろう! よって、これは必然! 俺に罪はない! 全てこの性欲が悪いのだ! 神が与えた本能! この本能を作り出した神が悪い! そうだ! 神が悪いんだ!」


 大熱弁。ここまでくると責める方が悪い気が……


「死ね」


 しなかった。辛辣。


「神に裁かれて死ぬがいいわ。リュート監視よろしくね」

「はいはーい」

「へーんだ! 神に会えるもんなら会ってみたいわ!」


 しょうもない文句を言う小学生を無視して、フェリシアは再びシャワー室へと足を運ぶ。

 死線を乗り越えた後の温かい雫は、疲労した心身にとても沁みた。

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