ドッペル
「ドッペルゲンガーに会ったんだけど」
突拍子もなく意味不明なことを言い出すのは神成蓮十六歳。
「獣人の次はドッペルゲンガーときましたか。じゃあ何、お前死んじゃったの?」
「生きとるがな。いやーびっくりしたね。遠目でしか見てないけど、俺にそっくりなのさ。で写メ撮った」
「写メったの!? お前、相変わらずガッツすごいな……。どれどれ、見してみ」
蓮はスマートフォンの画面にその写真を映し出す。
「うーん……ぼやけててあんま分かんねぇな……ホントにドッペルゲンガー? まーたでっち上げじゃないの?」
「またって……前も本当だっつうの。少しは俺を信じなさいな」
「ライアーマシンガンの異名を持つお前を誰が信じられるか」
「前から思ってたけどそれ本当ならショックなんだけど。超ダサい」
露骨に嫌な顔をするライアーマシンガン。
「気にするとこそっちかよ! ……昔は良かったけどもう俺ら高校生だぜ? そろそろお前も、そういうジョークやめた方がいいんじゃねぇか。あんまりやり過ぎると周りから嫌われるぞ」
「え、皆俺の事大好きジャン」
「自分で言うか? 普通よー。ま、そんな性格だから好かれてるってのも一理あんのか。ウソばっかなのはそういう不思議体験だけだし」
「だ~から~ね~」
「やっぱり、あの事件きっかけなのかなー」
神成蓮は幼い頃ある事件に巻き込まれた。いや、その事件も、もしからしたら嘘で、本当にあったかどうか分からない。なぜなら、それも蓮が得意とする不思議体験話の類だからだ。
友達と公園で遊び終わって帰る途中、蓮は一人の男と出会った。背中に刀を背負い、無気味に佇む黒いローブ。その日の夕方の帰り道は人気がなく、その姿を見たものは他に誰もいなかったらしい。
子供だった蓮は、特に怪しむことはなくそのローブに話しかけた。しかし、返事はない。もう一度話しかけようとしたその時、男は背中の刀を蓮に振り下ろし、切りつけたという。
その後、倒れている蓮が近くの住民に発見され、病院に運ばれた。意識をなくしているだけで、蓮の体にこれといって外傷はないと医者は言う。
しかし、ひとつだけ妙な点に両親が気付いた。蓮が起きてから会話してみると、いつもと反応が違う。『まるで性格が変わったみたいだ』と。医者に相談しても、『心配をかけたくないという子供の空元気で、今はこうなっているだけだ』とあしらわれた。
そして事件から1週間。急に蓮が原因不明の高熱を出した。一晩寝れば収まったのだが、また数週間経った後同じ高熱に苦しむことになる。その後も定期的にこの謎の高熱は続き、現在に至るまで蓮を悩ませていた。
「なんかあん時からお前の性格妙に明るくなったよな」
「そうだっけか」
「間違いなく明るくなったね。あとバカっぽくなった」
「バカ最高」
「虚しくないのか、お前……。あーなんか久々にあの公園行きたくなった! 今日学校終わったら行こうぜ」
「仕方ないな~!」
「全然仕方なさそうじゃないのは気のせいか」
「気のせい、気のせい!」
授業開始のチャイムが鳴り響く。
「んじゃ放課後な」
「おう!」
二人はその日の授業をなんなくこなし、いつものように過ごした。
終わりの合図が二人を動かす。
「じゃあ行こうぜ」
「あいあいさー」
二人はそそくさと公園に足を向けた。