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自己愛者と勇者の報復劇。  作者: 回めぐる
悠久の時を越えて
3/6

蜂蜜とホットミルク


***



絡んでくるカノアを振り払い、雑用より優先すべき用事ができた旨を伝えてきた。

やるべきことを終えた俺は、父と合流すべく動き出した。

裏口からパーティ会場に入り、魔王の側に控える父の元へ向かう。

客人と談笑していた魔王様は、俺に気が付くと軽く手を挙げた。

「ああ、来たか」

「お待たせして申し訳ございません、陛下」

いつまで経っても慣れない言葉遣いをなんとか駆使し、ニコリと微笑んで見せる。

黒髪で色気垂れ流しの、三十代にしては若々しい、このオジサマが、第二十二代魔王、クラウス=クロディアス様である。ちなみにカノアとは血の通った親子で、顔のみならず性格まで激似だ。


魔王様の後ろを見れば、控えていたうちの親父が俺を見るなり眉を顰めた。


「エルヴィス、遅いぞ。陛下を待たせるとは何事だ」

「……申し訳ありません、お父様」


何が陛下を、だ。親父が魔王様と公の場以外ではタメ語利いてるって知ってるんだぞ。

しかし、そんなことを微塵も出さないこれが、大人というものなのだろう。


「まあまあ、キーオさん。そう怒らないでください。俺が無理にお願いしたんですから」


突然会話に入って親父を諌めたのは、例のファーガシアの国王であろう青年。

俺を呼びつけるなんて、一体どんな変わり者だろうかと目を向けると、


「___っ……!?」

「君も、突然呼び出して悪かったね。俺はアルメール=ファーガシア、北の国ファーガシアの国王だ」


そいつを見た瞬間、背筋に何かが走った。

雷に打たれたようなショックであり、嫌な汗が流れるようなその感覚。

本能が警鐘を鳴らしている。早くこの場から立ち去れと叫んでいる。


柔らかそうな髪質の茶髪、全てを見透かすような翡翠の目。

そして、恐ろしい程整った顔立ち。


だけど、この人に恐ろしさを感じるのは、顔が綺麗だからとか、多分そういう理由ではない。空気が、纏っているオーラが一線を画しているのだ。


俺はそれに当てられて、動くことが出来なかった。周囲の賑わう声が遠のいていく。


何故、皆はこんな奴がいるというのに普通でいられる?

この恐怖を感じているのは、俺だけなのか…?


「___、っ……ご指名いただき、至極光栄です。本日、アルメール様の身の回りのことをさせていただきます、エルヴィス=アリスティアと申します」

「エルヴィス……それじゃあエル君か。今日は宜しく頼むよ」

「っ、は、い……」


王族にしては物腰が柔らかで丁寧だ。それだというのに、俺を内側から蝕むようなこの恐怖は何故か消えてくれなかった。


どうしてこの男をこんなにも恐れる?





結局、その後のことはあまり覚えていない。

アルメールとかいうファーガシアの国王に着いて回ってパーティ会場にいたが、どうも上の空だった。アルメールにも少し話し掛けられたりしたが、どのように返事をしたかも定かではなかった。

ただ、やはりアルメールは優しげな雰囲気を纏っており、ご婦人の方々からかなりの人気を誇っているようだということは覚えている。あんなに女性がキャーキャー騒いでいれば、嫌でも耳に入ってくるし。


先に部屋に行っておけと言い渡された俺は、アルメールに充てがわれた客室に入っていた。


「うっわ…何このキラキラな部屋」


やっぱり一国の王様が止まる部屋は格が違うらしい。カノアの部屋にはこっそり招かれることがあるが、あいつはシンプルなものを好むし、こんな部屋は初めて見た。


「…ったく、何が悲しくてあんなイケメンリア充王の世話をしなきゃならないんだよ」


絢爛豪華な部屋を見ていたら、無性に腹が立ってきた。

どうして俺がこんなことを…、


「………………、」


もし。もしもの話で、現実ではこんなことはあり得ないけれど。

アリスティア一族の祖先であるあの若者が、自己愛者ではなかったら。


『王の書物』を解読して、魔王を倒していたのだろうか。


そうだったら、俺も今、ここでやりたくもない世話役をしてたりはしないよな?


「まあ、仮定の話だけどな…」


俺は死ぬまで魔王様…及びカノアにこき使われる運命なのだろう。甘んじて受け入れるしかない。


俺は溜息をついて考えを振り払い、部屋に設置された大きな天蓋つきベッドのベッドメイクを始めた。


『俺、慣れな所だとなかなか眠れないんだよな。枕は柔らかいのより固めの方が好きだし、空調もあんまり暖めた部屋は嫌いだな。あと、寝る前にホットミルクが欲しいな、蜂蜜入りの』


つまり、言外に先に部屋に行って準備しろと言っているのである。

つうか蜂蜜入りのホットミルクとか俺はお前のママでも執事でもねえんだぞ…。


俺はそのイライラを拳に込め、アルメールのために用意した固めの枕にぶつけたのだった。

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