契り
雪「え?!」
しかも火事は鎮火していた。
それでも考えている余裕はない。
目の前には倒れている妹、楓がいる。
駆け寄って意識の確認をする。
雪「呼吸はしてないか…。
脈も…弱い。
悪い…楓。」
雪は楓の衣服をはだけさせ、呼吸しやすくし、人工呼吸をした。そうしなければ脳に後遺症が残る。ここの空気は一酸化炭素が高い濃度だろう。長く吸っただろうから、中毒や気管に影響がなければいいのだが…。
続けること約1分。
楓「…ん」
楓の呼吸が戻った。
思わず泣き出す僕。…助かった。
雪「楓っ!」
気づけば抱きあっていた。
でも温もりを感じたのもつかの間。
楓「雪兄ぃ…!」
目の前が真っ暗になり、意識を失った。
―神の空間にて―
雪「…んぁ。」
目を開けるとは自分は宙に浮いていた。
??「起きたか、男よ。」
辺りは白い光に包まれており、眩しいくらいだ。
そしてゆっくりと下ろされた。
目の前には金髪の少女。見た感じ16才くらいだ。
腰の辺りまで伸ばした髪は流れるように美しく、好奇心が垣間見えるぱっちりした眼からは やはりこれでも神なのだろう、意思の強さを感じさせる。
雪「…死んだのか?」
天国。そう思わせる輝きだった。
??「まだ、死んではいないぞ」
目の前の状況は一切わからない。
だが理解しようと努力する。
雪「貴女は一体?」
雫「私は雫だ。」
そう言うと犬歯を覗かせる。
女神の笑みは、甘く、幼く、ただの少女にしか見えない。
雪「君が助けてくれたのか?」
こんな事が出来るのは神なのだろう。
すると雫は眼を細めて答える。
雫「あぁ。…そうね、私に君が必要だからだ。」
雪は疑問に思った。
雪「必…要?」
雫「単刀直入に言う。私と結婚してくれ。」
……
……………………
……………………………………………ぇ?
天才のスパコンはフリーズした!
雫「今日の火事から救ってやったんだ。背に腹は変えられないだろう。但し神の御力を使ったのは雪自信だ。(まぁ、私の力をあげたんだけど。)よってこの代償として、雪よ、私の夫になってくれ。」
そう言って小さな柔らかそうな手を差し出す雫。
しかし雪も疑問が浮かぶ。
雪「…もし…断ったら?」
途端に険しくなる雫の顔。
雫「ここで死ぬことになる。妹も、無論君もだ。
神の御力で歴史をねじ曲げて今は延命させてはいるが、君が
断れば神の全権を持って『殺す。』」
何だそれは…
選択の余地が無いじゃないか。
しょうがないので、契約する事にした。
後に苦しむ事になるとも知らずに。
雪は一歩踏み出す。
雫の頬に手を当てる。
僅かだが雫がビクッとする。
雪がため息混じりに笑って見せる
「わかった。君を受け入れる。僕の彼女になってくれ。」
そう言って雪は甘いキスをした。
雫「ん…ふ」
雫は涙を流した。嘘をついた。
神が人を愛する。掟に背く重罪だった。
けれど、彼のキスは甘く抑えられなかった。
ほどなくして温もりが失われる。
少し赤くなった顔を向けて。
雫「さぁ、行きましょう。」
雫の後ろに出現した光の壁をくぐる。
物語は始まった。
悲しむことになろうとも。
失うことになろうとも。
前へ、前へ、前へ、前へ、
雫は涙を拭い、くぐり抜けた。