プロローグ
────小さい頃から、損ばかりしていた気がする。
十七年間リーシェが暮らしてきた村は遥か下に。上空から見る限り、森に囲まれた小さな村は今日だって────小さな少女一人の消えたって────穏やかな時を刻んでいる。あたりまえのことだが、彼女には辛い。帰りを待ってくれる両親もいない自分はそのうち忘れられてしまうかもしれない。いや、忘れられるだろう、何年もすれば。………負けず嫌いで男勝りなこの性分がまさかこんな事態を招こうとは。リーシェは小さくため息をついた。
「あと、半日ばかりで王都につきます」
不意に、何の感情も表わさない冷たい声が隣の兵士から発せられた。その顔は面に覆われていて窺われない。それが国王に忠誠を誓う彼らの仕事であった。
「…………ハイ」
リーシェはなるべく声が震えないように、かたい声でしっかりと応えた。じっと彼女が兵士を見つめても彼はなんの反応も示さない。ぎゅっと肩を抱き締める。寒いと思った。
その声が合図のように、飛竜が大きく翼を羽ばたかせ、進みはじめる。風がつよく吹き付けてきて、リーシェの長い髪が乱れる。色素の薄い茶の髪はそれだけで消えてしまいそうな、儚い印象を与える。それも気にせず、遠くなっていく村を見ながら唇をぐっ、と噛み締めている彼女は本当に消えてしまうのではないかと思えてしまうほどだった。…………寂しくない、寂しくない。小さく、そう唱える。
この強がりが、すべての元凶なのに。
リーシェはことのはじまり、三日前のことを思い返していた。