表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/30

婆ちゃんの怪談

【怖い話注意】

朝ごはんを食べてから、そのまま婆ちゃんの手伝いに駆り出されてしまった。

(ちなみに朝ごはんのメニューは、玄米ご飯と、湿気た焼き海苔から作った海苔の佃煮、油揚げをカリカリに焼いたものと漬物とお味噌汁だった。)

さんざんタマちゃんを危険視してたクセに、婆ちゃんはちゃんとタマちゃん用に油揚げあげていたのが少し驚き。


手伝いの内容は、畑の草取り。

小さいナイフを雑草の根っこの脇にさして、根っこごと掘り起こして取り除く。引っ張って抜ければいいんだけど、切れちゃうと根っこが残ってそこからまた生えてくるらしい。

土はひんやり冷たいが、そろそろ昼も過ぎる時間なので暑い。たまに風が吹いても暑い風が吹くだけ。

汗で首まわりがびっしょり濡れているし、しゃがんだ姿勢のままでずっといるので腰が痛くなる。

疲れたら立ち上がって腰を伸ばすのだけど、その度にメリメリと凄い音がした。これは重労働だわ。

こんなに重労働なのに、婆ちゃんは仕事で農業やってるわけじゃなくて、趣味で続けてるっていうんだからわけわからない。


だんだん立ち上がって腰を伸ばす間隔が短くなってきているのを見て、婆ちゃんが呆れた様子で言う。


「休憩にするかい」


かなり強烈な青い匂いで一杯のトマト畑のから、赤くなっているのを一つ取って放り投げてくれた。

これがオヤツか……

しかし、体力には自信があったんだけどなぁ。汗を拭きながらかぶりつく。トマトもぬるい。


「現代っ子はひ弱だね。あのキツネのが良く働くじゃないか」


婆ちゃんの指さす方向を見てみると、タマちゃんが黙々と草を抜いている。ちゃんとナイフ使ってる。君、爪とかがあるんじゃないのか?

婆ちゃんが隣に座ってくれたので、ここに来た目的を兼ねたタマちゃん小心者暴露作戦を始める事にした。

せっかく無心に働いている所を悪いが、タマちゃんも呼び寄せて膝の上に乗せ、話を聞く態勢に入る。


「ねぇ、父親から聞いたんだけどさ。ここって『出る』ってホント?」

「ああ本当だとも。良く畑から陶器の欠片みたいのが出て変だと思ってたけど、お隣の畑を広げる時に大昔の住居跡みたいなのが出てきてねぇ。研究とかで畑が使えなくなると困るからブルドーザーで」

「ちょっとまった!そういうのじゃない!そういう出土する系じゃなくってさ!」


あわてて話を止める。聞かない方が良い。人類の貴重かもしれない資料をどんな風にしたかとか聞きたくないし。


「そういうのじゃなくってさ。オバケとか出るんじゃないの?」

「耀から聞いたんだったら小学生の時におもらしした言い訳のやつかね?」


それも聞きたくなかった。


「部屋の天井の隅に髪の長い女の顔が浮かんでこっち見てるとか、廊下をギシギシと歩きまわる音がすると思ってそっちみたら障子越しに首の無い人影が何人もウロウロしてるとか、血だらけの手形が毎日少し近寄ってくるとかよく騒いでたよ」


それ、怖いよ!


「掃除してた時に、あの子が絵の具で描いた大きな手形を見つけた時は、さすがに学校から帰ってくるなりひっぱたいて庭の納屋に一晩閉じ込めたね。明け方まで泣き叫んでたけど」


婆ちゃんが怖いよ!


「それ、絵の具で描いたんじゃなくて本物だったらどうするのさ!」

「馬鹿を言うんじゃないよ。オバケなんて居るはず無いだろう?」


保温ポットからお茶を注いで啜りながら一刀両断にする。

父親は想像以上に厳しい子供時代だったのかもしれない。婆ちゃんを怖がるわけがよくわかる。でもそこに俺を行かせるってちょっと酷い。


「それ以外だと、言い伝えと言うか……爺さんのお父さんの体験談もあるね。あんたの曾爺さんだ」


ポットのフタにお茶を注いで、俺に渡してくれる。暖かい。

さっきまで気温も暑かったはずなのに、既に背中がひんやり。


「曾爺さんがね、若いころに。そこの用水路の先にお屋敷が建ってたんだってさ」

そう言って指を伸ばして何も無い一角を示す。周りは畑なのに、ホントにただの空き地。


「そこのお屋敷はお金持ちでね。跡取り息子がお嫁さんを貰った時には玉の輿だ玉の輿だって随分言われたそうだよ。

金持ちの家に嫁いで楽だなんて言われないように、お嫁さんも良く働いたらしいんだけど。

跡取り息子のお母さん……お姑さんが結構というか、かなり厳しかったみたいでね。だんだんやつれてしまったんだって。

で、身体を壊して。亡くなってしまったんだとさ。」


ずずっと婆ちゃんがお茶をすする。タマちゃんも固まったまま聞き入ってる。


「で、そのお通夜の日にね。あたりが暗くなって来たので畑の仕事から帰る途中で、曾爺さんがお屋敷の脇の道を通った時にね、白い装束を着たお嫁さんが立ってたんだって。自分のお通夜をやってる家の傍に。」


ごくり、と。タマちゃんが唾を飲み込む音が聞こえる。いや、自分の…か?


「うわぁ怖いな嫌だなと思いながらも、そっちを見ないようにしてすり抜けようとしたんだって。そうしないと家に帰るのが凄く遠回りになってしまうからね?

そうしたら、そのお嫁さんが話しかけてきたんだって。


『もし、お願いがあるのですが』


って。」

「ど、どうしたの?曾爺ちゃんは。」


婆ちゃんが喋るのを止めたので、その先を急かす。


「そのお嫁さんが言うには、忘れ物をしたから取りに戻ったのに、お葬式の為に玄関に貼られたお札がある為に家に入れないのだと。

お札には死んだ身では触れられないから、剥がして貰えないだろうか?って。

曾爺さんは、そんな事をするのも嫌だけど、怒らせるのも怖いので『糊でぴったり貼られていて剥がせません』って言ったら、『すぐ脇の用水路の水であなたの持っている手ぬぐいを濡らしてくれば剥がせますよ』って言ったそうで。

早く帰りたかった曾爺さんは、用水路の水でお札を濡らすとささっと剥がして、『これでいいか』って言ったんだって。」


ダメだろう、曾爺ちゃん!


「お嫁さんは深々とお辞儀をしてスーッと家の中に消えて行ったんだって。

もう、怖くなった曾爺さんは走って家に帰って布団かぶって寝たそうだよ。」

「死んだはずの人に話しかけられるだけでも怖いんだからそこで走って逃げようよ!」


思わず大声を出した俺を、まだ続きがあるんだよと遮る婆ちゃん。


「でね、次の日起きてみたらお屋敷の周りが騒がしいんだって。

お葬式の用意を手伝いに来た人がいくら呼んでも出てこないから、勝手に開けて入ったら……」


またここでお茶を飲む婆ちゃん。間の取り方というか、溜めが怖さを倍増させてる……


「家の中の人がみんな首が斬られて死んでたんだって」


ギャー!と叫んでいまさら耳をふさごうとするタマちゃん。遅いって。


「お姑さんだけじゃなく、みんなね。お姑さんの嫁さんへの当たりはかなり強かったのに、夫もだれも庇ってくれなかったみたいで。

その後はあの場所に住む人は疫病になるし、畑にしても作物が育たないしで、だからあのまま空き地にしてあるんだよ」



後日談付きですか…

それ、お札剥がした曾爺ちゃんもかなり不味いんじゃ?と聞くと、子々孫々まで祟られない事を祈るんだねと笑われた。

笑い話じゃないですよ、婆ちゃん。

私が曾爺さんから聞いた実話だったりします。

該当の場所は今は公園になっており、子供の頃によく遊んだ場所でして……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ