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キツネ除けのお守り

マヨイガを出て、婆ちゃんの家に着いた時には真夜中になっていた。


夕方にお隣に醤油を借りに出て、戻る途中で道に迷っただけだし、マヨイガの中でもそんなに長い時間は過ごしていない。

だが、マヨイガはやはり異界だったらしく、かなりの時間が経っていた様だ。


時計でも持っていれば、ズレた時間がどの位だったかがわかったのだろうけど、残念ながら携帯の時計は自動で時刻あわせされてしまったようで、家の近くで開いた時には23:00を表示していた。

家の前には婆ちゃんが仁王立ちで立っていた。心配してずっと待っていてくれたらしい。駆け寄った俺を醤油の瓶諸共に抱き潰す勢いで抱きしめられた。


そしてようやく、かなり遅くなった夕食を食べる事が出来たわけなのだけど……

なぜかタマちゃんは家に上がろうとしない。遠慮しているのかな。

婆ちゃんに言って小さなオニギリを作ってもらって渡したら、これは遠慮せずに無言で食べていた。


「どうしたんだろ、タマちゃん。もっとずうずうしいキャラかと思ってたんだけど意外と人見知りするのかな」


そんな事を言ってみると、婆ちゃんから意外な言葉が。


「あの狐はこの家には入れないんよ。」

「え、なんで?」

「醤油を借りに行かせてる間に、お札を貰ってきた。だから悪い物の怪は近寄れん。分かれ道も無い一本道を通ってお隣に行くまでにかどわかされるとは、まさか思っても居なかったが……よく無事で帰ってきてくれた。」

「え!タマちゃんは悪い妖怪とかじゃないよ、ちょっと迷惑なだけで」


いや、ちょっとと言うか、かなりかも?

でもなんというか、嫌いにはなれないんだよね。

写真撮られて目を回したり、泣きそうになったり…凄い事ができるわりには弱いイメージがあるからか、危険な妖怪には思えないのも大きいかも。

でも、そう言った俺を、婆ちゃんは優しいような畏れるような不思議な表情で見つめる。


「もう取り込まれているのか、それとも自信でもあるのかい。信頼してくれているのなら嬉しいのだけどね」


そういうと、仏壇から包みをとりだしてきて俺の手におしつけた。

中身を見てみると短刀みたいだった。銃刀法とか大丈夫なのか、こんなの持ってて。


「刃は潰してあるから切れない。これは爺さんの持ってた守り刀だよ。妖怪は金気(かなけ)を嫌うから、お守りにしなさい。」

「お守りって。こんなの持って学校行ったら事件になっちゃうよ?」


そういいかえすと、融通のきかない子だねとかいいながら、婆ちゃんは小さなお守り袋を取り出した。


「普段持ち歩くのはこっち。狐除けのお守りだよ。守り刀は枕元にでも置いておきなさい」


しわだらけの大きな手で俺の手にお守りを押し付けた瞬間、手のひらに静電気が走ったような感じがして、思わずお守りを取り落とした。

急いで拾った袋の口から、畳の上に灰の様なものが少しこぼれる。何が入ってるんだこのお守り袋。

その様子を怪訝そうに眉を寄せて見つめながら、婆ちゃんは注意を続ける。


「いいかい。キツネは昔から神さまの遣いと言われる事もあるけどね、お守りに近寄れない神さまの遣いなんて聞いたことも無いよ。あのキツネはまだ年若いかもしれないけど強い力を持ってる。見た目に騙されるんじゃないよ?キツネは化かすモノなんだから」


そんな注意を受けてようやく眠れた次の日。

普段の休日は9時のアニメタイムまで寝ている事が多いのだけど、6時に起こされてラジオ体操やらされた。

タマちゃんは、葉っぱのベッドでも作って寝ているかと思ったら、器用な事に物干し台の間に新聞紙縛るビニール紐でハンモック編んで寝ていた。いいなぁって言ったら反り返るほど胸を張りながらあげないよ!って威張ってたが、婆ちゃんにデコピンで撃墜されて体操に参加させられた。


「お日様の光ってのはとっても強い物なんだから。毎日早起きしてそれを浴びる。それが心にも体にも、何よりの健康法なんだよ」

「ぼく、どうせ光なら光回線使って夜更かしとかの方がいいなぁ」


俺達を起こす前に既に畑で一仕事終えたらしい婆ちゃんに、タマちゃんは目をバッテンにしてふらふらしながらも言い返す。だが、年齢差関係無しにどっちが元気かは一目瞭然だ。

タマちゃんが、パソコン持ってないだろうにネット中毒者みたいな事を言う事にも驚いたけど、一人称が「ぼく」だった事にも少し驚く。

でも…まぁ。驚かす事に全力投球しているタマちゃんの事だから、明日には一人称が「わっち」とかになってる事もありうる。

朝のハンモックだって、俺のリアクション期待して作ってたみたいだしね。


足を肩幅にひらいて肩の運動をしながら考えてみる。

タマちゃんは最初の「泣くまで道に迷わせようと思った」以降は、俺をびっくりさせようとしているだけなんだよな。やっぱりそんなに悪い子には思えない。


そうだ、いっそのこと逆にドッキリをしかけてタマちゃんを驚かせてみたらどうだろう。

カメラで撮られて気絶してたみたいな所をみれば、婆ちゃんもわかってくれるんじゃないかな。

わりとヨワヨワで、たいして害がないんだってことが。


婆ちゃんに方言喋らせようと思いましたが、うまく扱えなくて戻しました。

口調でキャラクターかき分けるのって難しいですね…


誤字脱字や違和感のある文章がありましたら、ご指摘ください。

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