表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

誰もいない古い家1

「もーっ!」


叫んで地面に大の字に転がる。

誰にも八つ当たりできないのが尚更イライラする。


「疲れたし、お腹減ったー!もうやだー!」


力いっぱい叫ぶ。

イタズラ成功でご満悦のタマちゃんに帰り道を聞いた所で、本当の事を言うとも限らない。嘘は付いてないけど大事な事を言わないとかでさらに迷わせてくれる事だろう。


地団太踏むように鬼火を全部踏み消すと、夜明けまで座って待つ覚悟を決めた。

村から遠く離れたわけでもないし、明るくなればこれ以上迷う事もないだろう。

さすがに悪いと思ったのか、少しションボリしたタマちゃんがニンジンいる?と声掛けてくる。俺のポッケにまだ入ってたっけ…

本格的に餓えたら食べちゃうかもしれん。


「あのね、じーっと見ないようにすればこういう術には掛からないから……。あと眉毛に唾つけると化かす術が解けるとか……。あの、あの、さっきの道こっちの方だからついてきて?」


無言で座りこんだ俺の機嫌を取ろうと、必死で気を引こうとするタマちゃん。

そっか、眉唾ってそういう意味だっけ。そういう事までわざわざ教えてくれるって事はホントに反省したのかな。

んー。でも、いままでのこの子の言動見てると、大きな害がある悪さはしない気もするんだけど、無自覚に残酷ないたずらする可能性はある。

狐に化かされるって言うと定番の『肥溜めにドボン!』とか『馬糞を饅頭だと思ってムシャムシャ!』とか絶対に避けたい。

よって、ここは動かないのが正解。


「……『わー、一杯喰わされたー!』と言わせて、笑って済ませてくれると思ったんだ……」


見上げる大きな黒い目にみるみる涙が溜まっていく。

むー。泣かせたい訳では。いや、泣きマネ?いやいや人を疑うのは良くない事だ。ヒトじゃなくて狐だけど。

……キツネ。キツネなんだよな。化かすキツネ。そこまで信用していいものか。


「ごめんね。もう純は化かさないから怒らないで」


そんな事を考えているのがわかったのか、タマちゃんはついにポロポロと涙を零し始めた。

いじめたい訳じゃないからなぁ。さすがに泣かれてしまう被害者はこっちのはずなのに罪悪感が。

しかたない、キツネを信じる信じないじゃなくてタマちゃんは信用しよう。

だって根は悪い子じゃないと思うんだ。


「その言葉、約束だからね。嘘ついたらハリセンボン飲ますよ?深海魚のやつ」


そう言って、タマちゃんの手……というか前脚を取ってユビキリゲンマン!と唱えて上下に振る。

前に父親が釣ってきてたのを乾して飾ってあるので、本当にあるんだぞハリセンボン。


「こっちもイライラしてごめんよ。お腹減ってるから心の余裕ないんだ。もう怒ってないから帰ろうか」


そう告げると、短い前脚でぐしぐしと涙を擦り、約束する!と宣言した。


「お腹減ってるの?おわびにごちそうする!」

「いや、帰る方が近いでしょ。」

「ううん。どこからでもすぐ近くだから」


と意味不明な距離感を告げてヒョコヒョコと森の奥に入っていく。

ホントに大丈夫なんだろうね、タマちゃん。

馬糞はごめんこうむるよ?


そうして。

二つ三つの茂みをかき分けたすぐ先にあったのは、藁葺き屋根の古い古い民家。

まるで、というか。完全に昔話に出てくるような古民家だった。


なんでこんな所にこんな家が?

そもそも。「どこからでもすぐ近く」ってどういう事だ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ