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蛇足…危険な妖怪

『……トンネル内で発生した玉突き衝突は……次第に勢力を増しながら北上し……初の全勝で故郷に錦を飾りました』


 練り練りしたココアにアツアツのミルクを足しながら、適当に付けっぱなしにしていたテレビでニュースを流し聞きする。


「こういうのって、トンネル自体のコンクリート強度が下がったりしないのかね。火事でさ」


 事故の起こったトンネルを映すテレビ番組をみて、父が被害者の心配もせずにトンネルの心配をする。


 おもわず事故の規模が気になって画面を覗くと、炎上する車の隣に髪の長い女性がいるのがみえた。直感的にアレは人間ではないのがわかる。あんまり見ないようにそっと視線を外す。


 最近はいろんな妖怪達と会いすぎたせいか、変なチャンネルがあってしまったようで……やたらと見えなくて良いモノが見える。

 タマちゃんに言わせると、見えるのが普通なんだとか。そこにあるモノが普通に見えているだけで、見えない人は見たくないから目をつぶっているだけ。わかるようなわからない話である。


「あー、あのトンネルのある山、ぼくのいた山だよ。もうほとんど妖怪残っていないけど呼子お姉さん頑張ってるんだな。たまにはお土産もってこうかな?」


 スマホでモンスターを追いかけ回していたタマちゃんが、テレビをチラリとみると妙なことを言う。そしてそのまま当然のようにココアを奪い取って行く。ふっ、愚か者め、最近は盗られるのを予想して初めから二杯作ってるのだ!


「お姉さん? もしかして今映ってる髪の長い細身のヒト?」


 タマちゃんの魔の手を出し抜いた事に少し機嫌良くなりながら、出来上がったココアを啜る。


「またお前達、パパに見えないモノの話してる。少し説明してよ」


 父はばあちゃんに散々脅かされたせいか、怖い話は好きではないらしい。でも、最近は家に遊びに来る妖怪も増えたので、慣れてきたのか話を聞きたがる。

……大事になる前に把握しようとしているんじゃない?なんて最近親しくなった猫が言ってたけど、そんなに父親に心配かけて覚えないし。


「ねぇねぇ、パパは仲間外れてすかー」

「うん。呼子お姉さんはね、山の中とかで聞こえるはずの無い声が聞こえるっていう妖怪。小豆洗いさんの親戚みたいなヒトなんだよ。たから超無害」


 床にゴロンと転がったまま足をバタバタさせる父親の背中を踏んづけてマッサージしながら答えるタマちゃん。……いま、うんって言ったなぁ。


「しかし、小豆洗いもやっぱりいるんだ。どんなひと?」

「昔、枝豆貰った事あるよ」

「小豆洗いなのに枝豆なの?」

「兼業農家なんだよ」


 タマちゃんを見てればわかるけど、妖怪は人間社会に溶け込んで共存している。近所のクリーニング屋のおばちゃんが川の神様だったりとか、良くある良くある。


「なぁ、二人とも。枝豆の事よりその呼子っていう妖怪の事を」

「うん。山道を歩いて越える事もへったから、あのトンネルの中で耳元でささやく事にしたみたいだよ」


 フミフミフミフミ。

 お疲れの父親は喜んでるけど、そのココアこぼすと絶叫だから気を付けてねと注意すべきか。するならどっちに注意すべきか。


「ああ、声系の怪異なんだね。なんてささやくの?」

「ふぁみちき下さい…とか、ニンニク乗せますか…とか?」


 いやだな、どっちも。ニンニク乗せますかのほうは、一度チャレンジしてみたけど小ラーメンでも食べきれなかった。


「囁くっていうと、『いのり…えいしょう…』とか続いて欲しいな、うあ゛あ゛あ゛~そこ効く」


我が家に古いゲームが沢山あるのは、だいたい父のおかげだったりする。いま、ゾンビみたいな声あげているし、ターンアンデットも良く効くかな。


「でも、それだと怖くないからいろいろ考えて『危ない』とか『後ろ』とかにしたんだって」

「いきなりそんなこと言われたら危ないよ!」

「いや、ぼくらよりはだいぶ怖くない妖怪なんだけどね。危ないのは車の方なんだし」


 え? 何言ってるの危ないじゃん!そう思って首を捻ってみると、タマちゃんが解説してくれる。


「だってさ、ほら、ゆっくり走れば事故ってないもの」


 まぁ。たしかに。でもタマちゃんは少し説明が足りないと思うんだ。


「見たことはないけど、駕籠とか牛車なら事故になっても玉突きとか炎上とかしないでしょ?」

「それはそうだけど、俺はちょっと危険な妖怪だとおもうなぁ。ハサミとか包丁と同じで、車は使い方次第で危険なものなんだから。運転してるときに脅かすのはナシかな」

「パパはその人はウチに呼ばないで貰ればそれでいい。いままで聞いた中では一番オバケっぽい」


 タマちゃんには甘い父親だけど、自宅に一本ダタラと唐傘オバケつれてきて『これだと二人一脚にならない?』とか言いながら脚を縛るギャグを始めたあたりで『この子は止めないとダメだ』って気付いたらしい。


 連れてこられた二人だって困惑してたよ。古い妖怪はもともと子供好きなヒトが多い上に、九尾の狐の末裔ってこともあってタマちゃんは甘やかされてるんたけど、東北から呼ばれた理由がこれとか泣けてくるね。二時間くらいお説教されてたよ。


「呼子さんはおとなしいよ。饅頭食べさせたりお風呂に入れたりとかしないから・・・」


 騙してはいないと宣言するタマちゃんによる、麦チョコと兎の餌。忘れもしない。旅行に行く友人のウサギを預かった日、タマちゃんはなぜか麦チョコをおごってくれた。


「やめてよ、あれ糞が混じってただろぜったい!」

「ぼくはただ麦チョコあげただけだし、意図的に混入はしていません。事故が起こりやすいカンキョウであったことは遺憾に思いますです!」


 お前達の話聞いてると婆ちゃんと話してる気分になるよ……と父の溜め息。

 婆ちゃん、何やらかしたんだろう。


「じゅん、マシュマロは?」


 ココアにマシュマロ! 最高の相性だな。そういうのは昼間の買い物でココア買ったときに言って欲しかった。


「無いよ」

「じゃあ買いに行こうよ。門のコンビニにあったから」


 じゅん買いに行ってきてと言わなくなったあたり、タマちゃんも成長したなぁ。えらいえらいと頭を撫でて、なぜかローキックを食らう。鞭のようにしなる、鋭いローだ。


「二人とも、外はもう暗いから気を付けるんだよ」


 ニヤニヤ笑いながら注意を促す父親の背中に、中身の半分入ったカップを置いて家を出た。


 この間まで暑かったのに、もう夜の風は肌寒い。曇ってて月もでてないような天気とはいえちょっと冷え込み過ぎだろう。


 ゲコゲコゲコゲコゲコゲコ


 線路沿いの細い道を並んで歩くと、頭をかき回すような蛙の大合唱。


「じゅんはさぁ、寮のある学校に進むかどうかこの間話してたよね。あれどうなった?」


「どうって言われても」


 親元を離れてみたいけど、寮だとタマちゃん連れていけないしそもそも学年違うし。下宿とか一人暮らしには憧れるんたけど。ペット可の物件探さなきゃなのかな。戸籍はあるけど妖怪と同居の許可っているのかな。

 バシャッバシャバシャバシャバシャ


 次々に池に飛び込む音が響く。河童かな?


「ふるいけや カエル飛び込む やかましい」


 そんなことを言うタマちゃんに目を向けると、一瞬人魂のようなものが見えた。俺の点けたモノでもないしタマちゃんのでもない。そもそも狐火と人魂をごっちゃにすると怒られる。

 わざわざ小窓を作って覗くほどのことでもないので、目を少し細めて視線をずらす。これで簡単な術なら掛からなくなる。

 でも視線をすらしたせいで、こっちを覗き込んでる鎧着たおじさんと目があった。後ろには矢が刺さったままの人とかも何人かいる。うーん。


「夏草や つわものどもが やかましい」

「やかましいシリーズかー」


 名月はでてないしなぁと呟くタマちゃん。サンダルを引きずりながら歩く俺の足音と、ペタペタ歩くタマちゃんの足音だけが聞こえる。オバケ、足無いしね。足音だけある妖怪はいるけど。


「あ、そうだ。雀の子 そこのけそこのけ 車がやかましいってのはセーフ?」

「アウトでしょ」

「咳をしてもやかましい」

「うーん、セーフ」

「ちはやぶる 神代もきかず やかましい」

「アウト」


 ルール不明、採点方法不明のゲームは、二度のダウンによりタマちゃんの速攻での敗北で終わったようだ。すぐに第二段が始まるけどね。


「そういえば、新しくかったタマちゃんの自転車に反射板つけなきゃね」


 二人乗りすると必ず脇腹に手を入れたりイタズラするから、自分で漕がせることにした。

 自転車運転できないとかいろいろ反対されたけど、ようやく買ったんだ。籠も反射板も付いてない替わりになんか憑いてて転ばないようにアシストしてくれるやつ。


「そうなの? 純、付けといたりてくれる? でも何で付けるの?」

「車から見えやすくするんだよ。暗いとこで見えないと危ないから」

「ほら、危ないのは車だ」

「ほんとにそうだねー」


 胸を張るタマちゃんの頭を撫でて、ヤクザキックをかわす。ほらほらコンビニ着いたよ、お店の中ではお静かにと子供扱いして更なる反撃を煽る。


 今年の自動車事故での死者は○○人らしい。

 一方、妖怪による事故での死者は今のところでていないって見上げ入道さんが言っていた。ケガはするみたいだけど。


 どっちがおっかないんだろうなぁ。ホントに最近わからなくなってきた。


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